第45話 一人で生き残った悪漢と圧倒する男

「ふぅ~~~危ない所だったぜ。間一髪逃げられたようだ」


 見回せば岩肌の上。

 ここがどこだかはわからねぇが、一応は外に出られたらしい。

 フフフ、このデュルテ様の運はまだまだ尽きていないようだァ……!


 だが他の奴らの姿が見えんな。

 フン、俺の指示も聞かずに脱出が遅れたのかな?

 まぁいい、オレがいればブラッドリースはいくらでもやり直せるのだから。


 ――それにしても。


 さっきのダンジョンは想像以上にヤバイ所だった。

 あれじゃもう並みのパーティだと攻略は無理だろう。

 ならば今見てきたダンジョン内の構造と敵構成を伝えれば充分だ。

 ボスの姿も調査済みだし、報酬もしっかり貰えるだろうよ。

 あとはその報酬を餌に新しい盾どもを雇えばいい。


 ……そういえばあの薬士野郎のパーティ、一人だけ枠が空いてたな。

 まぁオレたちに続いて入ったのなら無事じゃ済まねぇだろうが、戻ってきたら奴らを仲間にしてやるのもいい。

 あの凶悪なダンジョンでなら邪魔な低レベル女もさっさとくたばってるだろうしな。


「フ、フフフ……早く排出されてこいよぉ……」


 しかし疲れたな。

 まぁいい。今は魔物もいないだろうし、もうここで眠っちまうか。

 ちょっくら休んでからフェターンの街に戻るとしよう。


 再編成にしたって、あの薬士だけ生きてりゃいい。

 あとはどうにでもなる輩ばかりだろうしなぁ。


 ああ、起きた時どうなっているのか楽しみで仕方ねぇや……!



……………………

………………

…………

……


「おいお前、平気か?」

「――ハッ!?」


 途端、顔にペチペチと感触が走って叩き起こされる。

 そのままに目を見開けば、あの薬士野郎がオレを見下ろしてやがった。


「お、おお。なんだ、お前らも出てきたか、ハハハ……」


 それで状況を察し、笑ってやりながら体を起こす。

 ただ景色もすでに暗い。夜まで眠っちまってたようだ。


「いやぁこちとら激戦でよぉ、さすがに体力が持たなかったみてぇだわ」

「そうか、それは災難だったな」

「いやぁ~さすがに定着ダンジョンはきついな。魔物も塔に居る奴らみてぇに強くて面倒でかなわねぇや」


 だが体力はすっかり回復している。

 立ち上がることも問題無いくらいには。


「ま、お前らも災難だったな。あんなダンジョンに派遣されちまうなん、て……?」


 おぉ、なんだ? こいつら全員無事かよ。

 さては早い段階で諦めて出てきたなぁ?

 これだからD級パーティってやつは――


「ああ、随分と厄介だったよ。まぁ何の問題もなく破壊できたけどな」

「――は?」

「すっげェなミュナちゃん! 惚れ直しちまったぜェ!」

「ええそうですね、まさかあの巨体を真っ二つにできるなんて思いもしませんでした」

「だって精霊、みんな怒ってたもん! もうね、ばばーんだよ!」

「そ、その例えもセイレイっていうのもよくわからないですー……」


 な、なに言ってんだコイツラ……!?

 は? 破壊できた!? あのダンジョンを???

 真っ二つ!? あの巨大ゴーレムを!?? あの初期職レベル4の雑魚小娘が!?!?!?


 い、言ってる意味がわからねぇ!!!!!


 ハッ、そうか、これは見栄だな!

 オレが何も知らないと思って嘘で誤魔化そうとしている訳だ。

 ハハッ、滑稽なことだぜぇ!


「さて、俺たちもそれなりに疲れたし、さっさと帰るか」

「うんっ!」

「まぁまぁ待てって、ちょっと話をしていこうぜ?」

「なんだ?」


 おっと危ない、鴨を逃がす所だった。

 事情はともかく、こいつらを逃がす手はないからな。

 このまま空き枠にオレが入って、類稀なるリーダーシップを発揮しちまえばすべて解決さぁ。


「お前ら、パーティに飽きがあんだろ?」

「ああ、あるが?」

「ならオレを入れねぇか? 役立つぜぇオレはよ?」

「え? いや、必要ないけど」

「そうかそうか、やはりオレが必要――は?」


 なん、だと!?

 このパラティンレベル54であるデュルテ様を、必要ない、だとォ!?


「ハ、ハハ、そんな冗談はよせよぉ~」

「いや冗談じゃないが? ハッキリ言うがお前じゃ役不足だよ」

「な……!?」

「レベルの問題じゃない。ここの問題でな」


 しかも奴は自身の胸を親指で突いて堂々と示した……!?

 ど、どういうことだそれは!?


「お前、仲間を全員置いて逃げただろう?」

「え……いや、あれは」

「パラディンとは仲間の盾となって守り抜く役職だ。つまり最後まで残らなければならない役割ということに他ならない。なのにお前は仲間を見捨て、見殺しにして先に出てきたんだ」

「ち、違うあれはちゃんと指示をして――」

「それでもおッ!!!」

「ヒイッ!?」


 な、なんだコイツのオレを睨む形相は……!?

 ま、まるで凶悪な魔物に睨まれたみてぇに、う、動けねぇ……!?


 あ、ああ……!?

 なんなんだ、こいつの迫力はああああああ!?


「最後まで仲間を守り切ろうとしないお前にパラディンを名乗る資格があるものかッ!!! そんな足手まとい未満の存在を入れるほど、俺たちは寛大じゃないッ!!!!!」


 う、うあああああああああああ!!!??

 叫び声すら上げられねぇええええええ!!!??


 こ、これがあの噂に聞くアディン=バレル……!?

 薬士でありながら国宝級以上の扱いを受けたパーティの要と言われた、あの!?


 その噂は、嘘偽りじゃ、なかった……!?!?!?


「おいおい、こいつ漏らしちまってるぜェ? クカカカッ!」

「やだーくちゃーい!」

「構うな。もうこんなのに関わっていたくもない」

「あ、元ギルド員として言っておきますが、虚偽の報告をされた場合は相応の罰が下されるですー。しっかり義務を果たしてくださいですー」

「それっておもらしのことも含まれるのでしょうか?」

「うーん、それはどうでしょー」


 あ、待って

 オ、オレも仲間に

 あ、ああああ……!


 頼むよ、お願いだ、置いて行かないで!

 行かないで、オレも高みに行きたいんだ!

 待って、待ってくれよおおお!!


 な、なのになんで行っちまうんだよ!?

 そんな、じゃあオレが間違っていたっていうのか……?


 嘘だぁ、そんなの嘘だああああああ~~~~~~ッ!!!!!

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