第44話 手馴れた戦いと褒められて伸びる女

 ウプテラの力は俺たちの想像をはるかに越えていた。

 さすが一人で高レベルに達しただけあって、その戦闘技術は類稀ない。

 強いて言うなら単騎特攻スタンドプレイの方が得意、といった感じが見られることか。


「おいおい、また一人で突っ込んじまったぜェ。いいねェ足のはええ奴はよォ」

「だが斥候としてはこれ以上ない能力だ。単身だと危険という認識も強いが、元を返せば自由に戦えるということだからな」

「そのデメリットを補える能力がある以上、彼女に不安要素は一切ないですー」

「ああ、間違いない。彼女は無敵だ」

「ウプテラすごーい!」


 これなら通常活性の塔くらいは一人で攻略可能だろうな。

 このダンジョンだって例外じゃない。


「だがよォ、テメェだってソロで登り切ったじゃねェか」

「え?」

「しかも途中からとはいえ魔王級の活性塔だぜェ? そっちの方が充分ヤベーだろ」


 ああそうか、そう言えば俺もソロでやったな。

 途中から必死過ぎて、戦った時の記憶が曖昧だけども。


「すべて薬のおかげさ。当時は最高峰の薬品を用意できたからな。今やれって言われてももう無理だよ」

「なら最強パーティを目指すためにも早くその最高の薬ってのを用意しねェとなァ!」

「ああ、そうだな。ミュナを守るためにも」


 今思えば、その薬の素材を集めるのも一苦労したものだ。

 アルバレストのみんなと塔を攻略する最中、必要な素材を得るために立ち止まったりなんだりで迷惑もかけたっけ。

 おかげで薬士界でも幻と言われた〝反作用軽減薬〟が手に入った訳だが。


 事故とはいえ、あれを失ってしまったのが悔やまれる。

 なにせあの〝万能快癒薬エリクサー〟に並ぶ最高峰の薬品だしな。


 しかし万能快癒薬には未だ巡り合えたことがない。

 いつかはこの手にしてみたいものだ。


 ――そう心に願いつつ、俺たちは先へと進んだ。


 ウプテラのおかげで敵の襲撃こそ少ないが、伏兵の数も徐々に増えていく。

 そのせいで俺にも教える余裕がなくなり、仕方なくミュナを守るようにパーティの後方へ。

 だがアルバレスト時代で散々やってきた布陣だ、問題はない。


「ちょっと目が回って来たですーっ!」

「なら俺の前へ!」

「しゅたっ!」

「速攻調合――〝感覚調律薬バランスチューナー〟!」


 継続的な戦闘が可能となるよう補助薬の調合、投与!


「おう、ヤベェ。麻痺もらっちったんだが?」

「安心しろ、すでに毒種は見極めている。〝解毒薬アンチドート―第七種〟!」

「ほっほォ! もう治っちまった! さすがアディンだぜェ!」

「まだ麻痺が消えきっていないはずなのに動けるお前もな」


 仲間の調子が悪ければ即座に適合する薬種を判定、調整!


「ウプテラさんが戻ってきたですー!」

「このタイミングとなれば――〝体力回復薬スタミナリバーサー〟!」

「さすがですね、ワタクシの願いを即座に見切るなんて」

「表情を見ただけでわかる。伊達にこの十年を最前線で薬士やっていないさ」


 仲間が何を求めているかを即理解して強化、回復。


「あぶなーい! ええーい!」

「うっひょおぅおお!? なんだ、岩の壁が現れたぞォ!?」

「そうか、ここの精霊は土や岩を操れるんだな!?」

「うんっ!」 

「さすがだミュナ! その調子でいこう!」


 あとはミュナの成長にも合わせて褒めることも忘れない。

 褒められた子は伸びる、だ。


 そんなみんなの頑張りもあって、俺たちは確実に前へと進んでいく。

 すでに魔物の勢いは以前とは比べ物にならないが、それでも問題はない。


 だからこそ俺たちは今、ようやく最深部へと辿り着くことができたのだ。

 ダンジョンの主である巨大ミスリルゴーレムの前へと。


「おおう、でけェな!」

「で、でもなんでゴーレムがダンジョンの主なんですー?」

「おそらくあれは〝ガワ〟だろうな。本体は奴の中に潜んでいるはず」

「なるほど、魔力で魔法生物を操れる魔物ですか。見たことがありますね」

「うん、たぶんそうだよ。あの中に怖いのがいる……!」


 よし、ミュナが奴の本体を理解している。

 なら彼女の指示で動けば的確に本体を倒せるはず。


 だったら。


「よし、じゃあドルカンはミュナを守れ! ウプテラとピコッテは左右から同時攻撃! 俺はその間にゴーレムの動きを止めるッ!」

「ミュナは!?」


「……君の思うように戦ってみてくれ。本体を倒すために!」


 このパーティで細かい指示なんて必要ないことはもうわかっている。

 ミュナだってそのことをここまでにしっかり学んできたのだ。


 だからやれる。

 俺はそう信じる。


 そう信じ抜くことが仲間なのだと俺は知っているから。


 ――そうだよなフィル。

 これがお前とやってきたパーティのあるべき姿だもんな。

 俺もそのことを信じているから、同じようにやってみるよ。


 それが結果的に、お前のためになるというのなら。

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