第43話 良パーティ構成と昂る女の秘密

 先に侵入したブラッドリースの行方はわからない。

 しかし今の俺たちには奴らの安否を確認する暇なんてない。


 だからこそ出入口を固めていた魔物を斬り捨てつつ、内部へ侵入を果たす。

 魔物の定着拠点――ダンジョンの攻略開始だ。


「ではワタクシが先行しましょう。討ち漏らしの処理はよろしくお願いいたします」

「おう、任せとけェ!」

「ピコッテがしっかり守るですー!」


 でも攻略となれば心配はいらなさそうか。

 ドルカンもウプテラも単独ソロでの経験が豊富だから、もうすでに行動を開始している。

 ピコッテもブランクはあるもののサポート役だから問題は無いだろう。

 だとすれば。


「ミュナ、精霊は感じるか?」

「うん、ちょっとだけ。だけどみんな怖がってるみたい」

「魔物の巣窟だから仕方ない。だから無理はしないでいい。みんなと俺の間でやれることをやって、戦い方を見て学ぶんだ」

「うん……っ!」


 あとはみんなだけでなくミュナをも支えよう。

 ずっと一緒にいると約束した以上、これも俺の役目の一つだ。

 ほぼ攻略済みだった塔とは違い、今回は魔物だらけだからまともに戦えるとは言い難いしな。


 とはいえ入ったばかりだからか魔物の襲撃はそれほどでもない。

 というよりもウプテラが想像以上の働きをしてくれているらしく、進んでも死骸が転がっているばかりだ。


「ウプテラちゃんすっげェなァ。どいつもこいつも八つ裂きだぜ?」

「あの格好からでは想像もできないくらいの殺戮っぷりですー」


 そういえば俺もウプテラの戦い方は知らないな。

 職業も彼女専用の職〝魔具士〟ということで何をするかもわからないし。

 鉄砲を使っていたから遠距離支援型かと思っていたが、そうとも限らないらしい。


 この見事な先行っぷりには全員が感心する始末で、近づく影に視線もやれない。


「グルオォォォ――」

「うるっせェ」

「――ギャブン!」


 ただそんな半端な魔物の接近もドルカンの前には無意味だ。

 奴の本能的な察知能力なら見ずとも処理できてしまう。


「この先はピコッテが通さないですーっ!」

「ギョエエエッ!?」


 それにピコッテもしっかりと目を光らせていたようだ。

 頭上からの襲撃さえも彼女が飛び出し、吹き飛ばしてしまった。

 両手に丸盾という、ダブルシールドからなる弾丸大車輪だ。


「おォ、ピコッテもやるじゃねェか。久々に見たぜ、その大車輪よォ」

「久しぶり過ぎて失敗怖かったですけど、意外と体が覚えてるものですー」


 彼女は機動力が劣る分、反応速度と重厚さは折り紙付きだからな。

 正面以外の守りに関しては彼女一人でも充分だろう。


 ……って、あれ?

 これって思っていたよりもバランスが整っているぞ?

 斥候のウプテラ、迎撃のドルカン、専守のピコッテ、そこにサポートで俺とミュナが入ればそれだけで陣形が成り立ってしまうじゃないか。


「でもなんかね、ミュナやることなさそー」

「ブラッドリースが魔物の数を減らしていたおかげかもね。それに加え、三人が思っていた以上に強いし」

「おう! 俺様がミュナちゃんのために全部ブッ殺してやるぜェ!」

「全部自分の手柄みたいに言うのはよくないですー!」


 それにみんなも落ち着いていて余裕を感じられる。

 最難関の魔王級と比べると、敵の強さがそれほどではないからかもしれないな。


「だったらいっそみんなに全部任せよう。しっかり見て理解することも戦いの内、そこから自分ができること、できたことを見つけるんだ」

「うん、ミュナがんばって見てみる!」

「そういう訳だから二人には悪いが、今回はミュナの学習材料にさせてもらうぞ」

「おうよ!」「はいですー!」


 そこで俺は二人に甘んじて、ミュナの実戦訓練に徹することにした。

 彼女が自分の力で脅威を克服できるようになるためにも必要なことだ。

 そう心に決め、二人の戦いの最中に機会をみつけては指を示してみせる。

 どう援護したらいいか、どのタイミングがベストか、思い付く限りにただひたすら。


 するとミュナも頭を動かしてしっかりと追随してくれていた。

 ならきっと理解もしてくれているだろう。心配はいらなさそうだ。


 敵の数は未だまばら、ウプテラの先行が相当に効いているらしい。

 こんなことなら彼女の戦い方も学んでみたいところなのだが。


 ……と、そう思っていた矢先、ふと視界にそのウプテラが映る。

 ただし静かに佇み、何かを見下ろしていて。


「どうしたんだウプテラ――ッ!?」


 だがその視線の先へ意識をやると、目も当てられない惨状が待っていた。

 魔物の死骸の中にブラッドリースのメンバーらしき遺体もが転がっていたのだ。

 リーダーのデュルテと一緒に咆えていた男である。


「酷ェな、置き去りかよォ」

「やっぱり死んだ人を見るのは気持ちよいものじゃないですー……」

「ええ、ですから少しだけお祈りをさせてくださいませ」


 みんなはこう言うが、状況的に考えて弔う余裕もなかったのだろう。

 ここは少し開けた場所になっていて、敵が集中しやすくなっている。

 乱戦の痕も見られるし、壮絶な戦いが繰り広げられていたに違いない。


 それでも来る魔物がまばらな辺り、ブラッドリースはもっと先に進んでいるはず。

 他のメンバーが無事ならいいんだが。


 そう思慮していると、祈っていたウプテラがすっと立ち上がる。

 しかし悲しそうな表情は変わらずに。


「お手間をとらせてしまい申し訳ありません」

「いやいい。ウプテラが思っていた以上信心深くて感心したくらいだよ」

「いいえ、を頂いたのでそのお礼をしただけですわ」

「……はぁ、お前を認めた俺がバカだったよ。財布はギルドに渡せよな?」


 まったく、手癖の悪いシスターだ。これじゃあもはや盗賊じゃないか。

 たしかに死亡者の落とし物は拾得者に権利が移るわけで罪にはならないが。

 となると、悲観した顔は額が少なかったことの表れってとこか?


「ええもちろんですわ。それと頂いた分の働きは致しましょう。ワタクシめが代わりに罪を被ることによって」 


 ……いや、それは少し違ったようだ。

 再び見た彼女の眼には言い得ない鋭さが帯びている。


 直後、両手を腰に下げていた銀色の金物へスッと伸ばし、握り込む。

 ただの拳鍔ナックルダスターにも見えるが、あれはなんだ?


 だがそう思った直後、俺たちは信じられないものを目にすることとなる。


「――ッ!?」

「おいおい、こりゃすげェな!」

「たまげたですー!」


 銀の握り手から光刃が伸びたのだ。

 それも紫色を帯びている、強い魔力の波動を感じるほどの。


 その姿、まるで紫光の双剣。

 これが魔物を八つ裂きにした攻撃の正体か……!?


「では行きましょう。このダンジョンを滅することが今の我が使命ならば」


 そうは言うが、ウプテラの口元は妖しく微笑んでいる。

 たとえ直後に魔物が飛び掛かってこようとも表情を崩すことなく。


 そして気付けば、その魔物はすでにバラバラに切り裂かれていた。


 ウプテラがまるで竜巻のごとく身を回し、捻り、瞬時に八つ裂きにしていたのだ。

 何度斬りつけたのか、俺でもまったく見きれなかった。


「あっはぁ! さぁ行きましょう? 露払いはお任せくださいませぇ~♡」


 それに敵をこうも物理的に引き裂けるほどの膨大な魔力量を放てるとは。

 そうかよ、これが〝リビディング〟――昂るほど強くなるという力の正体か!


 だとすれば彼女が真の信奉するのはさしずめ、天性を与えた神。

 それも強欲で極度なサディスティックという歪んだ性愛を持つ神なのだろうな。


 でなければ、死地でこんな惚けた笑みを浮かべられる奴なんてまずいない。

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