第42話 図々しい奴らとダンジョン攻略
「う、嘘だろ……!? あのミスリルゴーレムがこんな簡単に!?」
正直に言うと、「俺一人でやる」と豪語したのは少し言い過ぎかなと思った。
ただし、なんてことはないという意味合いで。
だから宣言通り、ものの十数分で坑道のすべてのゴーレムの排除してやったよ。
ゴーレムの数は十七体とたしかに多かった。
しかし坑道が狭かったゆえに数で押し込んでくることもない。
むしろゴーレム同士が連携できず、互いの邪魔ばかりをしていたものだ。
そのせいで奴らがやれたのはただ仲間を呼んで引き寄せただけ。
俺はその混乱に乗じ、薬の力を最大限に利用してまとめて片付けてやったのだ。
先日に兵士を混乱させた〝
おかげで奴らは行動不能となるほどに焼き尽くされた。
その様子を前にしてブラッドリースどもも驚きを隠せないらしい。
「だから俺一人でやれると言っただろ? 事前準備しておけばどうってことのない相手だよ」
「そうは言いますがゴーレムを相手にした時のあなた、顔が引きつっておられましたよ?」
「ああもう、そこは黙っておいてくれよウプテラ。締まりが悪いだろ?」
「だからってあのミスリルゴーレムだぞ……!?」
「し、信じられねぇ……」
ゴーレムなどの魔法生物は魔法効果が半減または効かないことで有名。
だからこそ多くの冒険者が苦手とするため、こう狼狽するのも当然だろう。
だが薬効はむしろそういった魔法生物により強い力を発揮する。
薬効が魔力に反応して強化される性質を有しているからだ。
難点は荷物のスペースと薬代、調合の手間がかかること。
塔攻略においてはそのリスクを割けないからこそほとんど認知されていない。
ただし理解のあるパーティなら持っていてもおかしくない、対魔法生物用の特攻武器と言えるだろう。
それを知らないこいつらは俺からすればニワカにすら見える。
狼狽えるさまが滑稽すぎて笑いも出やしないよ。
「よ、よぉしよくやった薬士! あとは俺たちに任せろ!」
「……は?」
「障害は消えた! 行くぞお前達!」
「「「おおっ!」」」
しかし奴らも伊達にA級ではなかったらしい。
まるで軍隊のようにリーダーの声に合わせて走り始め、坑道の奥へ突き進んでしまった。
ここまで図々しいと一周回って微笑ましいよ、まったく。
「アディンさん、あの人たち止めなくて良いのですー? ダンジョンは塔と同じく、誰かが攻略していると侵入できないようになっているのですが……」
「あいつらが簡単に止まるクチじゃないだろ?」
「それもそうですがー」
「ったくよォ~、ふてぶてしいにも程があるぜェ」
みんなはご立腹のようだが、こうなってしまった以上は仕方がない。
出し抜かれた俺たちが悪いのもある。これは冒険者の鉄則だ。
ブラッドリースの奴らはそういった鉄則に従ったに過ぎない。
「ミュナ、なんか頭がもやもやするー! アディンに怒った時と違う。なんでー?」
「きっとあいつらに苛立ってるんだろうな。簡単に言えばズルだから」
「ぷーっ!」
「でもいくら怒ったって起きてしまった以上は変えようがない。怒るだけ無駄だし、今は落ち着こう?」
その点、俺たちの初動は遅れていた。
ドルカンやピコッテはまだ身を乗り出していたからいいが、ミュナやウプテラはパーティ経験がないから準備もできていない。
これはあらかじめ伝えておかなかった俺のミスだ。
とはいえ俺たちの目的はあくまで攻略で、報酬が目当てというわけじゃない。
定着状態を排除できるならそれに越したことはないんだ。
仲間たちにそう伝えてどうにかなだめる。
ついでに外の冒険者たちにもゴーレム排除の連絡もしておくとしようか。
――その甲斐もあり、今では魔物の流出を恐れることさえなくなった。
別の冒険者たちがしっかりと何重にも出口への道を固めてくれたおかげだ。
こうなればもはや俺たちすら不要と言わんばかり。
だからと無言のお言葉に甘え、俺たちは外のキャンプで休むことになった。
そうして丸一日が過ぎた訳だが。
「やはり報酬が差し引かれるのは納得いきません。いっそミスリルゴーレムを砕いて売りに行きましょう」
「そんなことしたら違法売買で捕まるからダメだ。ミスリルは高価だけど取り扱いには免許が必要なんだぞ?」
「問題はありません。エーテル神の導きですべて解決しますので」
「お前、本当に神教徒なのかぁ……?」
みんなが落ち着きを取り戻す中、ウプテラだけは未だ納得がいかないらしい。
金にかかわると目の色を変える性質なだけあってかなりしつこい。
そのせいで今では憤る彼女をミュナが励ますくらいだ。
でもいっそ、このほのぼのとした雰囲気で終わって欲しくもある。
それが一番手っ取り早いし、変な確執を生まなくても済むから。
……だが世の中そう上手くもいかないらしい。
坑道の方から冒険者が一人、焦りの形相のまま走ってやってくる。
「お、おいお前ら! 頼む来てくれ!」
討ち漏らした魔物でも逃がしたのだろうか。
そう思い、五人揃って伝令人とともに坑道へと走り戻る。
すると思ってもみなかった現実が俺たちを待ち構えていた。
「ば、バカな!? ダンジョンが開放状態に戻っている!?」
入口を覆う瘴気膜が緩みを見せていたのだ。
普通ならパーティが侵入すると途端に刺々しくなって誰も入れなくなるのに。
塔と同じ仕組みと現象だからこれは間違いない。
すなわち、先に入ったブラッドリースがダンジョンから消えたということだ。
まさか全滅……!?
いや、緊急脱出したことも充分に考えうるが。
どちらにしろ無事とは言い難い状況に他ならない。
「――よし、みんな行くぞ!」
「おォ、そうこなくちゃよォ!」
それでもすぐに他の奴らが入らなかったのは、誰しもが恐れたからだろう。
あの悪名高いブラッドリースでも攻略しきれなかったダンジョン、そんなのに手を出してまともに帰れるとは思えないからな。
だからこそ俺たちは迷いなくダンジョンへと踏み込むのだ。
この停滞した状況を覆せるのはもう俺たちしかいないのだから。
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