第38話 事情を知らぬ兵たちと肉弾ボール

 ひとまず第一陣は防げたと思う。

 だがここは見晴らしの良い街路で王国のお膝元だ。

 この惨状に気付いた奴らが第二陣を差し向けている可能性も大いにあり得る。


 それに騒ぎになったから巡回兵などもやってくるだろう。

 立ち止まっていたら俺達の不利だ。


「そろそろ行くぞミュナ、ウプテラ、長居するとまずい!」

「はいはぁ~い!」

「行こうお馬さん!」


 そこで数人投げ飛ばしてもらった所で俺たちもキタリスの使者を追おうとする。

 けれどその途端、道を塞ぐように数人の兵士が立ち塞がった。


「貴様らーっ! 王国にあだなす賊が!」

「観念せよ、逃げ場はないぞ!」


 完全にこちらが悪者扱いだな。

 事情も知らない奴が多そうだが。


「ふふっ、ちょっとこの数はまずいですねぇ~どうします? 金貨三枚ほど詰めばワタクシ本気になれますけれど?」

「くっ、こうなったら仕方ないか――」


 こうなったら強行突破するしかない。

 そう思って金袋に手を伸ばそうとした時だった。


「うおっほおおお~~~やっと追い付いたぜぇ~~~!」

「アディンさーん!」


 ドルカンか! それにピコッテも!

 二人がようやく追いついてきたのか!


 だけど丸裸にしたとはいえさっきの兵士も立ち塞がっている。

 この状況はそう簡単には覆せなさそうだが!?


「久々にやるぜピコッテェーーー!」

「はいですーっ!〝ガーディアンズ・ハート〟!」


 ピコッテのあれはまさか!

 ガーディアンズ・ハート――自身の体を最大硬化させるアビリティ!


 しかもそれを丸まった状態で使用!

 さらにはドルカンが片手で掴み、全身で引き込むように構えた!?


「いっけぇえええい俺様とピコッテのォ合体技ァ! ――〝マグナキャノン〟!!!!!」


 そうして放たれたのはピコッテを弾にした砲弾技。

 マグナブレイクの爆発力を射出力に換えた遠距離攻撃だ!


 それもピコッテの意思によって軌道修正が可能な自在弾丸。

 一瞬にして周囲の兵士たちの間を跳ね飛び撃ってしまった。

 あいかわらず威力も速度も精密性もすごいな。


「――しゅたっ!」


 それで最後にはピコッテが華麗に着地。

 結果的には暴力に頼ってしまったが、これでひとまずは安心だ。


「よしみんな、落ち着いている暇はない! 今すぐ使者と合流するんだ!」

「なにぃ!? また走るのかよぉ!?」

「ドルカンはどこかで馬車でも借りて追い付けばいい。フェターンで落ち合おう」

「ああ~アディンさん、できればピコッテは担いでいただけると~」

「ああそうだったな。よし、なら俺たちだけで使者と合流しよう!」

「チクショウ! あとで覚えてやがれアディ~~~ン!」


 ピコッテはアビリティの影響でしばらくロクに歩けない。

 だからと彼女を抱え、四人だけで馬に乗って北街路を進むことに。


 もうずいぶんと離されてしまったようだ。

 おかげで街を出ても追いつききれなかった。


 しかし街道に出た辺りでその姿を再確認し、一気に距離を詰める。

 追い付いたら御者に話を付け、並走させてもらうことができた。


「何か?」


 すると馬車の窓枠が開き、キタリスの使者が顔を見せる。


「すでにお気づきかもしれませんが、あなたは王国に命を狙われております!」

「やはりか……それで君は?」

「俺はアディン=バレル。友人にあなたの危機を報らされて助けにきました」

「君があの噂の!? おお渦中にいるだろうによく来てくれた」


 さすが貴族ともなれば俺の名くらいはわかるか。

 ならば話は早い。


「そこでぶしつけで申し訳ないのですが、このまま守らせていただけますか?」

「そういうことなら是非とも、こちらからも頼みたい」

「良かった。このままキタリスに入国することになると思いますが、急いで来たので俺たちはまだ入国手続きの書類も用意していないのです」

「そこは私の権限で特別許可を出す。安心してくれたまえ!」


 助かった、渡りに船だ。

 これで余計な手続きをしなくて済む。


 なんたってキタリスはラグナントと元々そこまで仲が良くない。

 昔はよく衝突しあっていたという歴史もあって、双方の国民が行き来することは難しくなっている。

 時間のかかる厳正な手続きが必要となってしまうのだ。


 それを無条件クリアして出国できるのなら丁度いい。

 あの陰湿国王とも大きく距離を取れるからな。


「だが報酬は高かろう? 悪いが持ち合わせがなくてな」

「いや、そこはかまいません。戦争を止められるのならそれだけで充分だ……!」

「ふ、さすが噂の男だ。面構えが違う」


 武面のこの人が言うか?


「よし、ではキタリスまで護衛を願おう。アディン=バレルよ、よろしく頼む」

「承りました。ではひとまず次の街まで全速力で」

「うむ、その点に関しては抜かりないから安心せよ」


 さすがだな、相当な策士とみた。

 おそらくこうして襲撃されることも予想して動いているに違いない。

 護衛が一人もいない辺りも何かの策なのだろうか。


 交渉も済み、ひとまず馬車から離れて仲間と並走する。

 ミュナはなんだかもう馬に振り回されているが、まだ手綱を必死に掴んでいるし、いざとなれば空を飛べるから平気だろう。

 ピコッテは俺に担がれて「のへ~」としているし問題はない。

 あとは――


「アディン、報酬がないとはどういうことなのでしょうか?」


 この守銭奴ウプテラをどうにか説得しなければ。

 すでに不機嫌極まりなくギリギリと歯軋りしている訳だが。


「少しは敬虔な神教徒として煩悩を振り払ったらどうだ?」

「いいえ神はおっしゃっております。お金とは人に与えられし試練の値なのだと。つまり稼げば稼ぐほど神へのたゆまぬご奉仕となるのですよ」

「人を殺さないようにすることの方がずっと奉仕になると思うけどな」

「それはそれ、これはこれでございます」

「ったくもう、便利な言葉ばかり言い回して……」


 これは一歩も引き下がらない感じだな。仕方ない。

 使者殿もああは言ったが報酬も出ると思うし、それで我慢してもらおう。

 俺にはバイアンヌで貰った報酬がまだたくさん残っているしな。


 さて、とうとう正式にラグナント出国も決まった。

 アルバレストのみんなを置いて去るのは少々寂しいが、新たな門出と思って気分を上げて行こう!

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