第36話 憤慨国王と隣国貴族
「クソッ、クソッ、低俗なギルドどもめ、この私をバカにしよってええええええ!!!!!」
やっと帰って来られたものの、なんたる醜態だ!
ここまでの屈辱、絶対に忘れんぞ!
「これもすべてあのアディン=バレルのせいだ! やつめ、性懲りもなくまた私の邪魔をしてからにぃ!!!」
あの男さえいなければすべて上手く行った!
あの銀翠の髪の女だって我が物になったのだ!
それなのに、それなのにいいい……!
……そうだ、奴を国外追放にしよう。
罪状は不敬罪、奴の罪を大々的に広めて辱めてやる。
その上であのミュナとかいう女を捕まえ、我が城に連れて来ればいい。
おおっ、完璧ではないかっ!
さすが私、国王だけのことはあるっ!
「国王陛下」
むむっ、今日はせわしないな!?
兵士ごときが私の時間を邪魔するなどとは!
「なんだ!? 私は計画を練るので忙しいのだ!」
「それが、隣国キタリスからの使者殿が我が国の北方領街の市長とともに謁見を求めておいでにいらっしゃいます」
「なぁにぃ!? くそ、こんな忙しい時に何を……まぁいい、今向かう!」
ちぃ、そういうことなら大臣を通せ大臣を!
帰るのが遅いぞ奴め、いったいどこで油を売っているのだ!
まぁいい、謁見の間へ向かうとしよう。
謁見の間へと辿り着けば、すでに件の奴らがいた。
私が来るなりひざまずく。やはり下々はこうでなくては。
ではさっそく奴らに応えて王座に構えるとしよう。
「何用か?」
「自分はキタリス王国の南方領防衛の任に就いているサーデル=オウル=ディストラと申す者。辺境伯の爵位を名乗らせて頂いております」
「うむ、知っておる。キタリスとの和平懇談会で見たことがあるぞ」
「して、この方が我が国との境目にある街フェターンの市長タルフ殿でございます」
「この度は謁見をお許しいただき誠に感謝いたします」
「うむ、苦しゅうない、顔を上げよ」
市長の方はともかく、サーデルとかいう方はちと顔が怖いな。
引き締まった顔に顎鬚……私の嫌いな真面目なタイプだ。
「それで?」
「本日参ったのは大切なご相談とご報告がありましたゆえ」
「ふむ。では話せ」
「ハッ、では先に相談の方から」
むっ、なんだ、サーデルめ勝手に立ち上がりよったぞ?
そんなことを私は許していないが?
「……実は先日、我が領土の南方にて冒険者が魔物を見つけ、倒したという報告を頂きました」
「ぬ……」
「そこで調査したところ、魔物は南方より向かってきていると。しかし近隣に我が国の保有する塔はございませぬ。近いのは貴殿の国の第二塔のみ」
な、何が言いたいのだコイツは……?
これのどこが相談なのだ?
「我々は事態を深刻に受け止め、ギルドに調査を依頼。すると大変なことがわかったのです。貴国の領土内、フェターンのすぐ傍の鉱山地にて魔物が定着しているという事実です」
「な、なにいっ!?」
フェターンの傍の鉱山地というと、ミスリル鉱山か!?
そ、そんな所に魔物が!? どうしてだっ!?
「そこで我々は部隊を編成し、我が国のギルドともに出兵し、待機しておりました」
「なぜ待機なのだ!? 今すぐ攻めればよかろう!?」
「できる訳がない」
「えっ!?」
「もし勝手に出国して貴国内にて戦闘行為を行えば、たとえこの場で了承を頂こうとも、後々に〝キタリスはラグナントへ侵略行為を行った〟とされかねないのですよ」
な、なにぃ!?
私が許したならばそれでよかろう!?
「しかしこの事実はすでにタルフ市長殿から再三の連絡を受けていたはず」
「へっ?」
「ならばなぜ出兵を行わないのです? 自国で対処しようとしないのですか?」
「い、いつからだ、いつ連絡をしたのだ!?」
「一週間も前の話ですよ国王陛下」
「なにぃ!?」
し、知らん、そんな話は――ハッ!?
そういえば大臣が「今週の報告をまとめた紙を机に置いた」と言っていたような。
あ、でも待てよ。
たしかその紙は嫁と戯れている最中に使って捨てた気が……?
「い、いや届いていない! きっとその連絡がどこかで滞ったのだ! 私はそんな話は知らぬ!」
「……なるほど、やはりそういう手で来ましたか」
「え?」
なんだあのサーデルとかいう奴、私を睨んでいる!?
それになんだ、やはり、とは!?
「ではこれで相談の方は終わりです。それで以降はご報告なのですが」
「ぬうっ!?」
「以上のことから我が国キタリスはフェターンと交渉しました。魔物が定着した地域の浄化をどうするか、と」
「そこで我々キタリスはフェターンを含む貴国北方領土を本日より我が国の領土として受け入れることを決定しました」
な、な、な……!?
なんだとおおおおおお!?
「それこそ侵略ではないか! 勝手に我が領土を奪うなど――」
「何をおっしゃいますか。自国領土を放っておいた者が今さら」
「ううっ!?」
「それに領土は貴殿の物ではございません。その地に住む者達の物。そして彼らの首長たちが国をまとめる王を信頼して初めて領地となるのですよ?」
「すなわち、その首長が信頼する主を変えたとならば領地もまた動く。これが人の世というものですミルコ国王陛下」
ふ、ふざけるな!
今までラグナント王国の恩恵を受けていた者が鞍替えだと!?
ではフェターン領土を収めていた辺境伯はどうなった!?
「顔に書いてあるようなのでお答えしますが、フェターン領を守るグライデン辺境伯はすでにキタリスと盟約を結び、我が軍門に下りました」
「んがっ!?」
「彼も再三忠告したはずです。それにもかかわらず通らなかった。彼は呆れていましたよ、あなたの傍若無人な振る舞いにね。お噂通りの方のようで、言い訳の仕方も実にわかりやすく何よりでした」
奴が裏切っただと!?
そんなバカなバカなバカなああああああ!?!?
「よって彼の願いにより、代わりに私がこの場に参ったのです。グライデン辺境伯と言えば我が国にも知らない者がいないほどの勇猛者。その願いとなれば快く引き受けましょう」
「う、うう……」
辺境伯って遠方に送られるような最下位の爵位なのだろう!?
なのに鞍替えなどしてどうしてまともに扱ってもらえているっ!?
ありえんだろうがあああ!
「以上が報告であります。なおこれはすでに決定事項につき、本日00:00において現地で魔物掃討作戦が決行されているはず。もはや貴国に入る余地はありません」
「うぐぐぐ……!」
「それでは我々はこれで失礼します。行きましょうタルフ殿」
「はい、サーデル殿」
「ま、待てっ!」
「まだ何か? 我々は忙しいのですよ、あなたが放っておいた魔物の退治でね」
「ううっ!?」
言い訳しようとしてつい引き留めてしまった!
それがまさか墓穴を掘るなどとは!? 奴の睨む顔が怖いっ!
「言うことがないのであれば行きますが、その前にこちらからふと思いついたことを一つ言わせて頂きましょう」
「な、なんだ……!?」
「貴殿は前王とはまるで違いますな。まるで駄々っ子のようだ。そのような者に従う部下や貴族たちが可哀そうでなりませんよ」
こ、こいつゥ~~~!?
しかも一礼すらせずに帰るなどとはァ~~~~~~!!!??
許せぬ!
絶対に許せぬゥゥゥ~~~ッ!!!
こうも嫌なこと続きでは、もはや謁見の間が居づらくてたまらぬ!
はやく私室で嫁どもに慰めてもらわねば!
さぁ行こう、我が憩いの地へ!
おや、通路の向こうから大臣の姿が。
「こ、国王陛下、大臣今ここに戻りまして――」
「おお大臣っ! 丁度いい所にきた! 今さっきすれ違った奴らがいただろう!? 奴らに兵どもを差し向けろっ!!」
「へっ!? サーデル殿がたを、ですか? なんで?」
「処刑だっ! この街にいる間に処刑するのだ!」
「そ、そんなことをすればキタリスとの戦争になってしまいますよっ!?」
「かまわぬ! 奴らは我が領土に無断で押し入った不届き者なのだからっ! すなわちチガイホウケンだあっ!」
そう、これは正当な処罰だ!
戦争になろうが、それは奴らの不敬が招いた結果なのだよ……!
それにもしそうなろうものならキタリスなど全力で叩き潰してくれる!
「――ぬ? 今誰か見えたような?」
向こうの角で人影が見えた気がしたのだが。
……いや、気のせいだろう。
まぁそんなことなど今はどうでもいい。
この私の怒りはそう簡単には収まらぬのだから!
もはや私の怒りは有頂天となった! そう、有頂天なのだあっ!
※ここは正しくは「私の感情は怒髪天を衝いた」が正解。
なお「有頂天」は喜びを指します。
間違った表現ですので、良い子のみんなはミルコの真似をしないでね!
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