第34話 パーティ結成と北の異変

「おおアディン! もう帰ってきていたかぁ!」

「ああ、つい先日にね」


 俺たちは一ヵ月をかけてバイアンヌを歩き回り、多くの素材を集めてきた。

 ウェルリヌール救出の報奨金で装備もある程度揃えられたし、言うことなしだ。


 ただそれはあくまで金でなんとかなる範囲だけ。

 回復系はもう平気だけど、強化・弱体・阻害系の薬品はそこそこまで。

 中級素材は一通り揃えられたが上級となるとダメだった。


 上級素材を揃えるなら、やはり自分で塔に登らなければな。


 塔内部の採取物や魔物の素材はいい薬になる。

 ただしそれと同時に装備素材にもなるから、薬用としては流通しにくい。

 ただでさえ薬よりも魔法で戦力を補うのが一般的だから。


 それなので余裕を見て塔攻略戦にも参加しなければならない。

 そのためにもまずはパーティを結成しないと。


「ピコッテ、パーティ結成誓約書をもらっていいかい?」

「わかりましたですー。はいどうぞー」


 なのでさっそくピコッテにお願いし、書類を用意してもらう。

 ただ用紙を前にしてさっそく筆を止めてしまった。


「パーティ名、か……」

「おう、そこはドルカンファミリーズでいいんだぜ?」

「なんだいたのかドルカン……」

「いたよぉ!? さっきから存在感バリバリだったじゃねぇかァ!」


 いつの間にか背後にドルカンがいるし。

 ミュナもなんだかペンでイタズラ書きし始めるし。

 ウプテラも気付けば布教を始めてやがる。

 もう……みんな落ち着いて待っていられないのか?


「そこはまぁ後回しでもいいですー」

「そうさせてもらおう。メンバーは、と」

「俺も入れろォアディン! パーティ組もうぜー」

「あら、誰ですかこの筋肉だるまは」

「ハッ!? 好きです、僕と結婚してください」

「ワタクシと結婚するなら支度金が白金貨五〇枚必要です」

「白金五〇!? たけェーーー!」

「きゃははっ! たけーっ!」


 あーもう、うっとおしいッ!

 あとミュナに変な言葉教えるんじゃないドルカンッ!


「おぉアディン、パーティ組むなら応募者リストもあるぞ」

「お? せっかくだから見せてもらおうかな」


 後ろは後ろで大騒ぎだし、ちょっとこっちに集中しよう。

 どれどれ……。


 ほう、どれも小粒だけど優秀な職業ばかりじゃないか。

 しかもヒーラー枠に聖術士がいるぞ、レベルはまだ3だがこれはいい。

 聖術士ということは以前に治癒士や僧侶を挟んでいるから相当な手練れだろう。

 俺が薬闘士じゃなければ是非とも迎えたい人材だ。


 賢者もいるぞ、これも珍しい。

 大概の賢者って冒険者にはならずに国に仕えがちだからな。

 それにレベル14か、これから成長が楽しくなる頃合いだろう。

 迎えるパーティがうらやましいくらいだよ。


「んん~~~? なんだ、仲間が欲しいのか。それならそうと言ってくれればいいのに」


 リストを閲覧する最中、また横から声が聞こえてきたと思えば。

 なんだ、チョビヒゲのバルックか。

 こう言いながらも親指を自分に向けてアピールしている。


「なんなら俺がパーティに入ってやろうか~? 今なら手すきだぞ?」

「いや、お前は別にいいかな……」

「な、なんでだよォ!」

「だってパッとしないし?」

「酷いな!? こちとら重戦士なのよ!? 大事なパーティの壁なのよぉん!?」

「壁役ならドルカンがいるしなぁ」

「うぐぐっ!? ……はぁ、また入り損ねたか」


 しかしパーティの盾役はもう決まっているのだ。

 それにドルカンは人の三倍は大きいからな、戦術的に見てもう普通の盾役はいらないんだ。

 強いて言うなら、奴の周りを飛び跳ねられる小さくて小回りが利く奴の方がいい。


 そんな訳でバルックを追い返した訳だが。

 再び冷静になって応募リストを見てみたらふとしたことに気付いた。


 リストに挙がった人物がいずれもこの国の出身じゃない。

 いや、なんだ、むしろここのギルドの所属者がほぼいないぞ。バルックぐらいだ。


 これってどういうことなんだ?


 ……気付いたらおやっさんがなんだかソワソワしているな。

 これは何か裏で事件でもあったと見るべきか。


「それでおやっさん、何か事件でもあったのか?」

「ッ!? い、いや~何も、何も無いぞぉ!」


 あいかわらず隠しごとが苦手な人だ。

 普段から吹かない口笛なんて吹けば余計に怪しいだろうに。


 だからと机をペンでコツコツと突き、ギロリと睨む。

 するとおやっさんもタジタジとなり、ついに溜息を吐いた。観念したようだ。


「……王国北端のミスリル鉱山地で定着が起きた」

「――ッ!?」

「規模は小さい。だが営巣したらしくダンジョンが生成されたそうだ」

「なんだと……!?」


 そんなのを隠しごとしていたのか!?

 だがなんで!?

 しかもどうしてこんな小声で言う!?


「だから今、大勢の冒険者が現地にてだ」


 待機、だって!?

 はやく攻略しなければならないんじゃないのか!?

 そういう緊急事態だろう!?


「だがな、手出しができんのだ」

「なぜ?」

「そこはお国の事情があってな」

「お国!? そんなこと言っていられる余裕はもうないだろう!?」

「わかっている。しかしそれほどにデリケートな状況だ。だから口外もできん」


 本来なら国事情に左右されないギルドが手をこまねく状況だって?

 それはいったいどういうことになって――


「ハッハッハーーー! 控えよ諸君、この私が直々に視察へ来てやったぞ! 光栄に思うがよいっ!!!」


 だがそう聞こうとした矢先、建屋内部に大声が響いた。

 しかも思わず顔を歪めてしまうほどに聞きたくもない声が。


「ミルコ=カイル=ラグナントである! 皆の者、図が高いぞ! ハーッハハハッ!」


 まさかの陰湿国王自らのご登場かよ……!


 おやっさんが頭を抱えている所を見るに、きっとこいつが元凶なんだろうな。

 むしろこのご時世、こいつ以外に政治的な問題なんて起こせる訳もないか。

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