第33話 遊ぶことしか考えない王と問う首脳たち

「クソおッ! アディン=バレルめ、奴はいったいどこへ行ったのだ!?」


 せっかく世界塔攻略連盟の前で大見得を切ったというのに!

 あれから一ヵ月、未だ奴の発見報告が来ないだと!?

 これはいったいどういうことなのだ!


「奴め、さては私の威光にくらんで逃げだしたな……?」

「あ、いえ、バイアンヌに買い物に行ったと噂を伺っておりますが」

「いいやそうだ、そうに違いない。私を恐れたのだ奴は」


 ……まぁいい、どうせ約束した相手は三下国家のユーリス。

 別に話一つ履行しなかった所でなんてことはなかろう。


「ところで陛下?」

「なんだ大臣? 私はこれから嫁どもと戯れるので忙しいのだ」

「世界塔攻略連盟から緊急会議のご要求が来ておりますがぁ」

「なに!? それをさっさと言わんか!」

「もももうしわけございませんっ!」


 クッ、そういうことなら仕方ない。


 嫁たちはひとまず置いておき、会合装置の椅子へと座る。

 おっと、さっそく首脳達の姿が見え始めたぞぉ。


「やっと揃ったようですね。大変お忙しい中を集まっていただき、皆さまどうもありがとうございます」


 まったくだ。

 せっかく楽しみにしていたことを先延ばしにさせられては困る。


「さっそくですが、皆さまに報告せねばならないことがあります。つい先日、とうとうユーリスの一地域において魔物の定着が確認されました」

「「「な、なんと!?」」」


 おぉ大変なことになっているではないか。

 まったく、弱小国はこれだから大変だ。


「その原因は新しく現れた塔に合わせ、もう一つの塔が活性化したため。そのせいで魔物の流出を防ぎきれず、近隣の森への魔物の定着を許してしまったのです」

「我が国の力が及ばず、皆に迷惑をかけて申し訳ないと思っております……」


 そうだとも。

 早く責任を取りたまえよ弱小三下。


「我がグワント帝国もA級パーティ、グレイズを送ったが力及ばず。奴らめ、この期に及んで数で攻めてくるとは卑怯極まりない!」

「我らシャンテラルを始めとした隣国も冒険者を大勢派遣したが間に合わず」

「その結果、豊かで実りの多いユーリスの聖広森が犯され、現地で暮らしていたエルフたちもが犠牲に」

「「「なんてことだ……」」」

「その結果、エルフの集落は森ごと燃やさざるを得ず、彼らも帰る家を失ってしまい、今は路頭に迷っているそう」

「一部住民は魔物に捕まり、定着のための道具にされたそうです。なんと嘆かわしいことか」


 戦略が甘いのだな。

 所詮は烏合の衆でしかないということだ。

 やはり我がアルバレストのように優秀なパーティがいなければなぁ!


「そこでラグナントに問います」

「――え?」

「いつ、アディン=バレルを派遣するのですか?」


 は?

 なぜ今さらそんな話を?

 もう一ヵ月も前の話ではないか。


「ああ、アディン=バレルか。彼はいない」

「えっ?」

「いなくなったのだ。きっと今頃どこかで細々と薬屋でもやっているのだろう」

「「「……」」」


 なんだ、いきなり静かになってしまったぞ?

 な、なぜだ、なぜ皆こっちを見る?


「ふぅー……以前から思っていたのですが、あなたはなぜアルバレストを国宝パーティに指名したのです?」

「そ、それは父上の願いでもあったからだ!」

「デリス=カイル=ラグナントの願い、ですか」

「そうだとも! その父上の願いを聞き入れ、私は即位後に彼らを国宝パーティへと指名したのである!」

「そうですか」


 そう、これは父上の夢。

 常々零していたからな、「アルバレストが国宝パーティであったなら」と。

 これだけは間違いない。

 だから私も間違ってはいない!


「どうやらあなたの知るデリスと、私たちの知るデリスとは別人なのかもしれませんね」

「はい?」


 な、なんだそれは。

 どういう意味で――


「彼はこの場でハッキリとこう言ったのですよ。〝我がラグナント王国は今後も一切、彼らアルバレストを国宝パーティへと迎えるつもりはない〟とね」

「なっ!?」

「それはなぜか。デリスはこうも伝えてくれましたよ。〝アルバレストは一国に納まる器ではない。彼らこそ世界を練り歩き、諸々の問題を解決できるであろう英雄である〟とね」


 う、うそだ、そんなはずは!?


「そしてこう締めたのです。〝ゆえにアルバレストとは世界の宝である。その宝を我が国だけが独占するなど到底ありえない〟と」


 あ、あうあ……。


「その言葉があったからこそ我々は感銘を受け、彼の言葉を信じ、そして尊敬し讃えたのです。だからこそのラグナント王国なのだと」


「しかしあなたが即位してからのラグナントはどうにもおかしくなったように感じます。アルバレストを国宝パーティにすることもしかり、ギルドとの連携の悪さもしかり」


 そ、それは……!?

 違う、それはギルドの奴らが悪いだけで――


「あなたは本当にラグナントの王なのですか? 私にはそこすら疑問に思えます」


 ぐっ!

 それが私、ミルコ=カイル=ラグナントに向けて言える言葉かババァめ!

 それに他の奴らもだ!

 どいつもこいつも私を見下してきやがる!


 私はラグナントの国王だぞ!?

 世界最高峰の貢献度を誇るラグナントの王なんだぞっ!!?


 貴様らは黙って我が国の庇護に預かっておればいいものを……っ!


「……ではラグナントからの協力は得られないと思ってよろしいですね。ユーリス、大変申し訳ありませんが現状の戦力でどうにかするしかありません」

「それは仕方のないことです。ですがこれからもどうか皆様の助力をお願いしたい」

「うむ、貴国産の食材にはいつも助けられておる。これくらいは当然よ!」

「こういう時こそ助け合いですな!」


 なのになんだ、まるで私以外で話をしているかのようじゃないか。

 私があの輪に入れていないかのような……。


 ぐううう~~~~~~!!!!!


「では以上で閉会といたします」

「ま、待っ――」


 ……会合装置が止まってしまった。

 私の意見などまるで聞きもせずに。


 クソクソクソクソクッソオオオオオオ!!!!!!!!

 あのクソババァどもめええええええ!!!!!!!!!!

 私のことを舐め腐りやがってぇえええええええ!!!!!!!!!!!


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 もういい、忘れることにするっ!

 約束を守る義理もないっ!


「こ、国王陛下?」

「今度はなんだっ!?」

「あのう、例のヒーラー枠の募集の件ですが」

「ええい、結果だけ話せ!」

「広場の掲示板にて応募をかけた所、三名の応募がありまして」


 さんめい!?

 なんだその異様な少なさは!?

 国宝パーティのアルバレストに入れるチャンスなのだぞ!?


「応募してきたのは聖術士レベル3、賢者14、治癒士21です」


 しかもレベルが低すぎる! 

 奴らは平均レベル57だぞ!?

 国宝パーティをバカにしておるのかあ!?


「……治癒士を雇え。それでもういい。私は女を抱いてくる!」

「ははーっ!」


 もう考えるのも面倒だ。

 このストレスは女どもで発散してやる。


 まったく、今日はなんて日だ!

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