第23話 勘違い王と冷めた首脳たち
ククク、ついにこの時がきたっ!
この私、ミルコ=カイル=ラグナントが世界へ鮮烈アピールする時がっ!
そのアピールに選んだ場はもちろん――
世界塔攻略連盟、戦果報告会議!
半年に一度行われる、各国首脳が一同に会するのこの会議。
これほど私の実力を見せつけるにふさわしい場はあるまいっ!
……さぁ見えてきたぞ、各国首脳達の姿が。
ついに戦果報告会議の始まりの時っ!
「みなさん、集まったようですね。それでは定例の戦果報告会議を始めるとしましょう。取りまとめは議長のワタクシ、聖フィンドール共和国大統領のケレンが務めさせていただきます」
おお素晴らしい、目の前に全員が集っているかのようだ。
さすが魔導通信会合装置、三面鏡の前に座っただけなのに手に取れるくらいにはっきりと見えるぞぉ!
「そこで一つみなさんに報告だけ。我々が尊敬していたラグナント前国王、デリス=カイル=ラグナントが先々月、息を引き取りました」
「「「おお、なんということ」」」
「「「残念な別れであった」」」
「そこでラグナント王国では新たにミルコ=カイル=ラグナント殿が即位いたしました。そこでミルコ殿、新たな同志となるみなさんに一言ご挨拶をお願いしたく」
「了解した、ふふっ」
さぁ始めるとしよう。
これこそ我が覇道の始まりとして。
「新たに国王へ即位したミルコ=カイル=ラグナントである! この度は報告の場を設けて頂き感謝したい」
「「「……」」」
……あれ? なんだ、全員おし黙っているが?
ここは喝采する所だろう。
「この私ミルコは誓おう! この世界の平和は我がラグナントが――」
「一言でよろしい。ではさっそく本題に入りましょう」
グッ!? あ、あのババァ!?
この私の言葉を遮っただとぉ!?
私はラグナントだぞ!? な、舐めやがってェェェ……!
「まずは各国の塔に対する防衛状況の提示をお願いいたします」
「ハハッ、そこはまず我が国からさせて欲しい!」
まぁいい。ここで力を見せつけるのも一興だ。
新国王だと舐めているのも今の内だぞ、老害どもめ。
「ではラグナント王国、どうぞ」
「見よ、我が国の防衛率を! 92.7%ォ! ふははは! 素晴らしいでしょう!?」
「「「……」」」
……あれ? なんだ、全員またおし黙っているが?
ここは喝采する所、だろう? なぁおい?
「グワント99.2%」
「ユーリス97.9%」
「バイアンヌ99.5%」
……は?
「98.1%」「98.7%」「99.0%」「99.4%」「99.2%」
「……以上ですね。少し不安な数字がいくつか見られますが、ほとんどの国はほぼほぼ完封しているようで安心しました」
ま、待て、バ、バカな!?
ラグナント以外ほぼ98%越えだとおおお!!!??
ど、どういうことだこれは!? 大臣ンンン!?
「しかしラグナント王国だけは不安を感じる数字ですね。これはまさか定着などは発生していませんよね?」
「て、定着……?」
「塔から流出した魔物を放置すれば、どこかの地に定着し、繁殖し、手がつけられなくなってしまう。そうなればその地域から魔物が溢れ、他の国にも至ってしまうでしょう。それこそ世界の終わりの序曲、それだけは避けねばなりません」
そ、そんな重要なものだったのか、塔攻略って!?
私はそんなこと父上から聞いていないぞ!?
「前王デリスはそのことを最も恐れ、我らをまとめ上げてくれた素晴らしき人物でもありました。ゆえにこのような結果を示されたのは残念でなりません」
「ま、待ってくれ、これには理由があってだな」
「理由とは?」
「私が即位する際、父上と引継ぎを行うのに少し手間取ってしまってね。そこで少し手違いがあったのだ。決して不備はないし、テイチャクも起こしていない」
「なるほど。自慢げに見えたのはあくまでも『問題があったがそれでも平気である』とおっしゃりたかったと?」
「も、もちろんだとも!」
「わかりました、信じましょう」
フゥゥゥ~~~……! 危ない、危うく醜態を晒す所だった!
クッ、父上め、どうしてこんな大事なことを伝えてくれなかったんだ!
塔攻略はゲームなのでしょう!?
「すみません、そこで一つ相談があるのですが」
「農業国ユーリス代表、なんでしょう?」
「非常に申しにくいのですが、我が国は98%の絶対防衛率を落としてしまいました」
「わずか0.1%ですが、何かあったのですか?」
「それがですね、我が国にもう一本の塔が出現したのです」
「「「なんだと!?」」」
お、なんだ、途端に矛先が変わった?
ユーリス……なんだ三下弱小国か。
塔一つ増えたくらいで大袈裟な。
「活性化した所をギルドの機転により救われましたが、このままでは戦力が乏しく。もう一本の塔が活性を始めれば大流出は免れません」
「それは由々しき事態ですね」
「ええ、そこでどうか各国に協力をお願いしたく!」
なんだ、自分で対処できなくなったから他国を頼るか。
まったく、これだから弱小国は図々しい。
「わかりました。即座に対応しましょう。我が国でも人員は出せます」
「我が国では先日に塔攻略を済ませて手が空いたはず。A級パーティ〝グレイズ〟の派遣を要請しましょう!」
「くっ、遠方でなければ増援を送れたものを……力になれずすまない!」
「ありがとう、ありがとうございます……!」
な、なんだ、こいつらなんでこんなに協力的なんだ?
ああそうか、傷の舐め合いだな?
まったく、卑しい奴らめ。
だが大国として私も黙っている訳にはいかん。
少しでもアピールのために力を誇示せねば。
――そうだ、いい事を思い付いた。
「ではこのラグナントは冒険者を一人出しましょう。薬士アディン=バレルをっ!」
「「「――ッ!!!??」」」
丁度いい機会だ。
奴はまだラグナントにいるというし、うっとおしいから遠方に送ってしまおう。
……あれ、なんだ?
なんで議長どもが狼狽えている?
「まさかあのアルバレストを出すとは思いもよりませんでした。どうやらあなたを過小評価していたようです。大変申し訳ない」
「彼らを国宝パーティにしたという話を聞いた時は驚いたが。なるほど、貴殿は思ったよりも寛大な国王だったようだな」
「あのアルバレストが、アディン=バレルが来る! よかった、これで我が国は助かる!」
「ははは、どうやらグレイズを出す必要はなさそうですな」
え、何?
どういうことだ?
なんでこいつら、こんなに喜んでいるんだ?
い、いやまぁいい、この私の偉大さに気が付いたということだろう。
ならば鮮烈にアピールさせてもらうとしよう。
「いやいや、なんてことはありません。アディン=バレル一人を送ることなど造作もない」
「「「えっ?」」」
「「「一人?」」」
「「「どういうことだそれは……?」」」
なんだ、また雲行きが変わったぞ?
「……大変申し訳ないのですがミルコ、それは一体どういう意味なのです?」
「あぁ、簡単な話です。アディン=バレルはアルバレストを国宝パーティに任命した際に追放させました。よって奴は今フリーなのでいくらでも協力できるでしょう」
「あの、アディン=バレルが……」
「アルバレストを抜けた……!?」
うん? 何が問題なんだ?
薬士ごとき、そこらにいくらでもいるだろう。
それなのに狼狽えて、変な奴らだ。
「ええと、ラグナントの好意を受け取り、アディン=バレルの派遣を認めます。ユーリス、それでよいですか?」
「え? ええもちろん。他にも助けを頂ければ幸いですが」
「あ、ああ、我々も宣言通りグレイズを出すよ」
「ではこの件は以上とします。それで次の議題なのですが――」
まぁいい、終わったなら問題はなかろう。
あとでギルドに適当に伝え、奴をユーリスへ送らせるとしようか。
さぁ次の議題はなんだ!?
「――大変申し訳ないのですがワタクシ、これから急用がありますのでこれで失礼します」
「ああ~~~それならこのグワントも。すまない、急用があるんだ」
なんだなんだ、上位国がどんどん抜けていくぞ?
まったく、議会なんぞこの程度の集まりでしかなかったか。
フン、まぁかまわんさ。
あとは会議の雰囲気だけでも楽しむとしよう。
よくわからんが私の偉大さを見せつけることができたのだからな。
ふははははっ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます