第21話 魔力吸収素材と薬調合
「報告に感謝します! 早急に調査班とギルド要請を行ってまいりますので!」
大蜘蛛を倒した俺たちはすぐに森を出て、近くの駐屯地に寄った。
そこで大蜘蛛の破片を見せて彼らを説得、すぐに対策を打ってもらうことに。
定着していたら大問題だからな。
ただ、あの大蜘蛛は調べた限りだとオスだった。
それとデミベタイトを大量に採って急激に成長した節もある。
それを考えると定着するほどの成長率には至っていなかったかもしれない。
とはいえあの大きさだ、普通の冒険者じゃどうにもならない。
もしかしたら魔王級に近い能力を誇っていた可能性もある。
これ以上放っておいたらまずかったことに違いは無いだろう。
「ふぅー……デミベタイト採取の楽しい遠足のつもりが、どうしてこんなことに」
「アディン、とまこっぱ」
「魔獣狩るの楽しいもんなァ! 俺様も好きだぜ遠足」
「それはお前だけだ」
ともあれ全員無事で良かった。
ドルカンも言うほどの負傷ではなくヒールポーションで事足りたし。
「しっかりどうすんだァ? デミなんたらは結局採れなかったじゃねぇか」
「いや、実はそうでもない」
「あァン?」
それに目当てのモノも少量だがしっかり採れた。
あの蜘蛛の糸をそれなりに拝借していたからな。
そこで俺はすぐに糸を取り出し、素材化の作業を開始した。
兵士からもらった水を器に注ぎ、糸をまんべんなく浸す。
水分を吸わせたところでゆっくりほぐし、溶き、柔らかくする。
そうしてトロトロになった所で魔力を流しながら指でかき混ぜた。
「おおーーー」
「ほぉ、薬士ってのは器用だなァ」
すると俺の魔力に反応したデミベタイトが指へと付着していく。
まるで自分で泳いでやってくるようにユラユラとした瞬きを放ちながら。
「まだそれほど馴染んでいなかったんだろうな。粒が割と大きい」
あとは指を引き上げて採取完了。
水切りのために紙の上へと落とすだけでいい。
乾燥まで少し時間を置いてから調合を始めるとしよう。
そんな結晶をミュナが興味深そうに覗き込む。
澄んだ青い結晶だから綺麗だし、心惹かれたんだな。
そういう所はやっぱり女の子だなぁって思う。
「ミュナ、薬、少し待って」
「や!」
しかし分量的には効果時間一日分といった所か。
〝リテイカー〟のおかげで回数制限はないにしろ、ちょいと不便だな。
早く正規分量くらいの素材が手に入ればいいのだけど。
「なぁアディン、俺様にも薬くれよ。ミュナちゃんと話がしてェ」
「気が向いたらな」
――だがテメーには絶対にやらんッ!
なんたって意思疎通できてないのにプロポーズする奴なんだからな!
悪いなドルカン、こればかりは俺も譲れない。
……と、駐屯地の兵士たちにこれ以上厄介になる訳にもいかない。
そこで俺たちはひとまず街へと戻ることにした。
――街へと戻った俺たちはまずギルドへ報告。
ギルド側もまた先ほどの兵士から話を伺っていたらしく、夕方だというのに慌ただしかった。
でもそれ以上俺が付き合う理由もないので宿へと戻ることに。
ついてこようとしていたドルカンを適当にあしらい、無事に部屋へと帰還だ。
ミュナがたまらずベッドで遊び始めるも、俺はその間に調合を始めた。
薬に必要な素材は三つ。
・思考を可視化させられる花、カルコナの根
・思考伝達でよく使われる油剤、テロパ油
・魔力伝達力に優れたミネラル塩晶、デミベタイト
上の二つは冒険者がよく使う魔道具『ステータスチェッカー』の素材にもなる。
おかげで大量生産されるほどなので入手には困らなかった。
まずはカルコナ根とデミベタイトを個別で粉末に。
テロパ油にデミベタイトを混ぜ、馴染むまでしっかりとかき混ぜる。
その後、微量の魔力を帯びさせた根の粉をまぶし、反応を待つ。
すると魔力分散反応が出るので、これを俺が魔力で抑えて数分我慢。
納まった所で瓶に詰め――よしできた、意思疎通薬だ。
丁寧に作ったからクオリティも高い。
もしかしたら二日くらいは保つかもしれないな。
さて、さっそく俺自身で毒見だ。
「……まぁ悪くないかな。気分はよくないけれど」
なにせ魔物から抽出した素材を使ったしな、さすがに怖い。
念のために毒消しも用意していたが、でもそこまでは必要なかったみたいだ。
「ミュナ、俺の言葉は通じるかい?」
「アディン!? やー!」
効果もしっかり出ている。
魔物産の素材も意外に悪くはないな。
ならばと、喜んで飛び跳ねているミュナにも飲ませてあげる。
「アディン! やっと自由に話せる!」
「すまないミュナ、ここまで時間がかかってしまって」
これでようやく言葉問題は解決だ。
思ったよりもずっと長い道のりだった……。
だったらさっそく聞きたいことを聞いてみるとしよう。
「そういえばミュナ、どうして森に行く時に怒ったんだ?」
「えー? それはねー、ミュナずっとアディンと一緒、言ったのに、一人で行く、言ったから! ぷー!」
「ああ、そうか、そういうことだったか……すまない」
俺はてっきりミュナが「自分もどこかに行きたい」と駄々をこねているのかと思っていた。
だけどそれは違った。
ミュナは俺と交わした約束を守りたかっただけなんだな。
「なら今度からはどこまでも一緒に行こう。色んな所を見て、楽しめるように」
「うんっ!」
「だったらそのためにも明日ちょっとギルドに行こうか」
「わかた! 行くー!」
そうなるとミュナも冒険者登録をしておいた方がよさそうだ。
一般人の立場だと、人前で攻撃魔法を使うだけで犯罪になるから。
でも登録すれば一緒に戦える。
むしろ精霊の力があれば百人力かもしれない。
ああ、彼女との冒険がもうすでに楽しみで仕方がないな!
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