第19話 巨大蜘蛛とその正体
「うっおぅおぅおおおっ!!? でっけえええ~~~っっっ!!?」
ドルカンが唸る。
ミュナが怯える。
それほどの巨大な蜘蛛が頭上で音もなく潜んでいたのだ。
しかも奴はすでに尻尾の先を俺たちに向けていて。
「くっ――!!?」
俺は咄嗟にミュナを掴んでその場を離れる。
すると途端、俺たちのいた場所に糸が吹きつけられた。
「ひょえええ~~~!!?」
ダメだ、ドルカンじゃ避けきれない!
あっという間に包まれて糸玉化だ!
しかも速攻で引き寄せられ、長く鋭い足でドスドスと突き刺されてしまった!?
くっ、いい奴だったのに!
こんなあっさりとおしまいかよ!?
「ギギギ……ニンゲン、コロスゥ!」
「――ッ!?」
今、奴は喋ったか!? 知能がある!?
じゃあ魔獣じゃない……だとすれば奴は魔物!?
ならどうしてこんな森にいるんだっ!?
「クソおッ!」
さらに糸が吹き付けられ、俺を追ってくる。
それを鋭敏に飛び跳ねてかわし、なんとか太い幹の裏へ。
おかげで糸攻撃が止んだ。かわしきれたらしい。
「ふうっ、ふうっ」
「ア、アディン……」
「ミュナ、ここにいる、わかった?」
「や、やー」
ミュナはすくんで自分で動けそうにない。
そこで俺は彼女に茂みの中へ潜むよう指を差して教える。
ミュナはそれだけでもう頭を抑えて隠れてしまった。
でも今はそれでいい。後は俺一人でどうにかするしかない!
「頼むミュナ、動かないでいてくれよっ!」
再び幹の影から飛び出して駆け抜ける。
すると奴も気付いたらしく、即座に糸を放ってきた。
だが奴自身は動いていない。
糸を撃つことに全力を注いでいるからか?
ならばと幹の間を交互に抜け、奴の糸を防ぎながら回り込む。
そうしてまた太い幹を見つけたら隠れてやり過ごした。
ただ今回の目的は少し違うが。
「よし、糸をちょっと拝借と」
零れた糸先を採取ナイフで切り取る。
それで取った糸の性質を手感で確かめてみた。
粘性あり。
靭性それなり。
復元能力はなし。
毒性確認できず。
魔力伝導性高め。
成分は……やはりデミベタイトを含むか!
薬学、錬金術をたしなむ者ならばこれくらいはすぐわかる。
微弱な魔力を流すことで素材をある程度判別できるから。
つまりあの蜘蛛が採取場を荒らしたのは確定、都合の良い餌場となっただろう。
そうなると別の採取地もやられている可能性があるな。
そして最悪、奴が繁殖している可能性も――つまり定着だ。
そうなったら最悪だぞ!?
仮に重度に定着していれば森一つを消し去らないといけなくなる。
さもなければ周辺地域にまで広がり、手が付けられなくなってしまう。
それを防ぐためにも、まずは奴を倒さなければ!
「手持ちの薬品はヒール1、マナ1のみ。ただ素材は幾つか調達済み、調薬は可能。なら身体強化を入れておこう」
そこで鞄より薬を取り出し、瞬時に調合。
――〝
素材の関係で今はせいぜい初~中級の品質が限度。
だが仕方がない、これで何とかこの状況を乗り越えてみせる!
俊敏薬を使用し、脚力を増強。
その加速力で一気に飛び出し、蜘蛛へと向けて走り込む。
糸をいくら吐いても無駄だ、特別配合で集中力も向上しているからな。
細かく鋭く跳ねながら糸を避け、一気に距離を詰める。
奴の物量はすさまじく、後ろを覗けば木々の合間がもう糸だらけだ。
しかしそんな狭い森の中だからこそ、俺にも攻撃するチャンスがある!
木々の合間を、幹を蹴って跳ね上がるのだ。
そうして進みながらも一気に樹上へ。
「ギギッ!?」
おかげで気分は猿だ。
お前の姿が空からもう丸見えだぞッ!
それに地上に向けていた尻尾を空に向けることはできないはず!
「ギュエッ!」
「――ッ!?」
そう思った時だった。
奴は俺へと顔を向け、なんと口からも糸を吐き出してくる。
「くっ、しまった!?」
その糸は俺へと当たり、絡み取られてしまう。
しくじったな、口からも吐けるとは思いもしなかった。
――だけどなッ!
そこで俺は焔魔剤に魔力を込め、着火。
すると途端に糸が溶け、拘束が解かれる。計算通りだ!
さらにはすぐにその糸の先端を掴み取る。
そうした途端、俺の体が奴めがけて一気に飛び込むことに。
奴がドルカンの時のように糸を引き込む習性を利用してやったのだ。
けれど今の俺はフリー状態!
このまま一気に真っ二つにさせてもらうぞっ!
そうしてすれ違う中、奴の腹へと斬撃を見舞ってやる。
「ううっ!?」
しかしあろうことか剣の方が砕けてしまった!
安物の剣だったからか!? くっ!
そのままなんとか着地を果たしたが、体勢を立て直さないと。
そう察して飛び跳ねたのだが。
途端、左足に引っ張られる感覚が走る。
「ぐうっ!? く、くそおっ!?」
足先に糸が絡まっていたのだ。
どうやら避けきれなかったらしい。
しくじったか……!
「ぐうあああっ!?」
たちまち俺の体にまで糸が絡まっていく。
ついには視界もが奪われ、身動き一つできなくなってしまった。
なんてこった、これじゃあもう……!
もう絶望しか無い。
頼れるドルカンも開幕でやられ、ミュナも震えているはず。
すなわち今の俺にはもう何の助かる要素が残っていないのだから。
すまないミュナ、俺は――
「アディーーーンッ!!!」
「――ッ!?」
だがその時、突如としてミュナの叫び声が聞こえる。
そしてそれと同時に俺の拘束が解けていた。
糸が細切れに切り裂かれていたのだ。
落ちていく中、声がした方を見ればやはりミュナ。
腕をまっすぐとこちらに構え、緑の風を鋭く放っている。
しかも糸や魔物だけを切り裂くという芸当までやってみせた。
――そうかこれは、精霊の力か!
驚いた。
まさかミュナがこんな力の使い方もできるなんて。
それに戦えるくらいに強い子だとは思わなかった。
けどこれなら、もしかしたらあの大蜘蛛を倒すことができるかもしれない……!
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