第18話 薬素材探しと森の異変

 今、俺たちは街から離れてとある森へと訪れている。

 ただし、もうこれでもかってくらいに密着してくるミュナと共に。

 しかも街からずぅーーーっと怒りっぱなしでぷーぷー言ってる。


 まったく、これで魔獣が出たら対処が大変そうだ。


「おうアディン、この先にそのデミ何とかがあんのかよォ?」


 ついでに言うとなぜかドルカンがついてきやがった。

 どうしてお前までいるんだ、まったく。


「なんでってそりゃもォ~~~ミュナちゃんを守るためよォ!」


 なんでわかんだよお前は思念術士か!


「ミュナちゃんは良い子だぁ、ぜひとも嫁に迎えたい。迎えざるを得ない」

「で、それ言うの何人目だ?」

「今度こそ本命だよォ! 見まごうことなき俺様の天使だ」


 しかしその天使は今も俺の腰に抱きついてぷーぷー言ってる。

 そろそろ離れて欲しいんだが……あ、まぁこのままでも悪くはないが。


 ああ、こんな事になるなら強情になんてならなければよかった。

 出発前にあんな言い争いになるなんて思わなかったよ……。


 ――それというのも出発前、ギルドにて俺とミュナは衝突した。


 争点は森に誰が行くか、という話から。

 危ないからとミュナを置いていきたい俺と、何が何でもついていくと一点張りのミュナ。


 そしてこの争いは結局、俺の根負けという結果となってしまった。

 だけどミュナの怒りは未だ収まらず、今もこの状態だ。

 こうなるともう怒っているのか甘えているのかよくわからない。


 ならばもう一刻も早く意思疎通薬を作らねば。


「さて、そろそろ見えてくるはずだが」

「何がだよ」

「採取場だ。デミベタイトのな」

「んだよォ、そんなんあるなら他の冒険者にやらせろよォ」

「その報酬を誰が出すんだって話だよ」

「おォそうかァ。今お前、文無しだもんな」

「グッ!」


 ドルカンめ、珍しくナチュラルに図星を突きやがって……!


 金貨一枚をもらっても、それを無駄遣いする訳にはいかないからな。

 魔王級討伐の報奨金が期待できない以上、切り詰めていかなければならない。


 だからギルドにクエスト発注もできず、自前で取るしかないんだ。

 ともあれ俺も冒険者のはしくれだからな、採りに行くこと自体に抵抗はない。


「ヌハハッ、なんなら俺が貸してやろうかァ~?」

「ここまで来てそうイキれるそのNO天気がうらやましいよ。よし見えてきた」


 幸い、俺にもある程度の素材産出地の知識がある。

 新人だった頃にみんなで走り回ったからな。


 それならここでデミベタイトが採れるのも――


「――なッ!?」


 だが現場に辿り着いた時、俺は堪らず驚いてしまった。


 採取場がすでに跡形もなく掘られて無残な姿を晒していたのだ。

 元は綺麗な湧水でひたされた源泉だったのに……!


 デミベタイトはいわゆるミネラル結晶。

 岩塩に近い性質を持つ魔力含有物質だ。

 だから自然の豊かな地で育まれ、生成される。


 だけどこれではもうデミベタイトは生成されない。

 湧き水の噴出口を奥深くまで掘られた痕跡が見受けられるからだ。

 流れて蓄積した泥を見るに、掘られてもう一、二週間は経っているだろう。


 おかげで今ではただの泥湿地帯と化してしまっている。

 自然回復を待つのは無駄だな。


「で、どうなんだ、デミなんたらは採れそうなのかよォ?」

「無理だ。これではとてもじゃないが素材どころじゃない」


 しかしなぜだ? どうしてここまでやる?

 どこぞの冒険者が金欲しさに掘り返したか?

 この規模を? それなりに広いぞ?


「アディン」

「なんだ、ミュナ?」

「こわとわ、ぷりおけ精霊こなわ……」

「ッ!?」


 なぜだ、精霊って言葉だけが伝わった。

 何かこの言葉に意味があるのか?


 ――というより、ミュナは何を伝えたい!?


「……おぉアディンよォ」

「なんだドルカン?」

「俺様はオーガの血があるからよォ、その血が騒ぐとわかんだよ、危険が迫ってるってなァ」

「ううっ!?」

「ビンビンしてやがるッ! 来るぜェ、やべーのがよォ!!!!!」


 ドルカンもがこれ以上ない危険を感じている!?

 これはいよいよもって覚悟しなければならないらしい。


 この採取場の荒れた原因が人為的ではない、と受け入れる覚悟を。




 そして直後、俺たちは気付くことになるのだ。

 知らず内に頭上で蠢いていた巨大な化け蜘蛛の存在に。

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