第17話 足りない薬品と楽しいお買い物
「申し訳ございません、意思疎通薬は売り切れでして」
これは驚いた。まさかの全滅だ。
この街すべての薬屋から意思疎通薬が姿を消していた。
今来た店も品ぞろえに自信ありと聞く通向けの薬屋だったのに……。
こ、これは何かの陰謀か!?
俺とミュナを会話させないためのっ!?
……いやいや落ち着け、考えればわかることだ。
意思疎通薬に必要な感応粉薬デミベタイトは高い魔力吸収率を誇っている。
それをエーテル原剤と配合するとより高い効果を発揮するんだ。
すると正規品よりも少ない量でより高い効果が得られるデミエーテルとなる。
デメリットとして依存率が高くなるけれど。
しかし今、全体的に薬の素材の流通量が減っているらしい。
だから消費先が必然と、恒常的に使われるエーテルに使う方が得になる訳だ。
だけど参った。
まさかどこももう作ってないとは。
素材屋ももうデミベタイトは扱っていないって話だし。
「アディン、とまこっぱ」
「元気出して、かな? ありがとうミュナ」
落胆していたらミュナに励まされてしまった。
頭をポンポンとされるのは意外に悪くないな。
こうなったら仕方ない、明日はデミベタイトを直接採ってくるしかない。
他の素材はもうあるし、それさえどうにかすれば平気だから。
「ミュナ、あちそふぁるちた」
なんだろう、今度はミュナがなんだか寂しそうにしているな。
なら俺も頭をポンポンとしてみよう。
「ぷー! ぷー!」
「え、なんで怒るんだよ!?」
わ、わからない。
これは早く意思疎通薬をどうにかしなければ!
「むい」
「なに、ついてこいって?」
「むいー」
「わ、わかった、行こう」
こうやって行動に移してくれればまだわかりやすいんだけど。
ともかくとしてミュナが腕を引っ張るままに俺もついていく。
そうしてやってきたのはバザール広場。
人と商品が織りなす街一番の繁華店街だ。
「ミュナあちそふぁるちた!」
「もしかして、ここに来たかった、のか?」
「や!」
そういえばさっきもここの横をすれ違った時、ミュナは眺めていたな。
もしかしてここにずっと来てみたいって思って我慢していたのだろうか。
だとしたら悪いことをしたな。
ずっと薬のことで引っ張り回していたから。
……よし!
「なら行こう。ミュナが欲しい物もあるかもしれないからな」
「むいっ!」
どうせもう引っ張り回す理由はない。
だったら今度こそ彼女の好きにさせてあげよう。
そこでバザールへ向けて指を差し、頷きで返す。
そうしたらミュナは跳ねるように喜んで駆けていった。
「アディーン!」
おや、ミュナがもう何かを見つけたようだ。
立ち止まって大手を振っている。
「ああリンゴか。好きだなぁ君は」
でも辿り着くや否や、彼女がリンゴを手に取り齧ろうとしてしまった。
それなので素早く手首を掴んで制止する。
「待って、まだ、お金、払ってない」
「?」
「店主さん、これ一個ください」
リンゴ一個、黄銅貨一枚。
それを店主に見せつけ、貨幣受けへと置く。
そうしたらミュナの手首を離し、頷いて食べさせてあげた。
そうだよな、ミュナはお金のことなんて知る由もない。
だったらこれからのためにも教えてあげなければ。
どうやらミュナはリンゴ一つ食べると満足したらしい。
それからは歩きながらも俺の話をよく聞いてくれた。
この国には青銅貨、黄銅貨、銀貨、金貨、白金貨があること。
青銅貨が一ラグ、黄銅貨が百ラグ、銀貨が一万ラグ。
そこから桁上がりが緩くなり、金貨が十万ラグで白金貨が百万ラグ。
まぁ金貨以上なんてもう実物が残っていないから言葉でしか示せなかったが。
そう教えたら実際に使ってみたいと言ってきた、のだと思う。
だからとお金を少し渡したら、別の果物に興味を示していて。
あとは俺の顔を伺いながら貨幣を数え、お店の人に示して渡す。
いいね、しっかりと理解できている。
だから頷いて微笑み、彼女を褒めてあげた。
「ミュナ、てま!?」
「うん、てま!」
「てまーーー!」
できた、だな。嬉しそうに飛び跳ねている。
そこで今度こそと頭を撫でてあげたら、ちゃんと受け入れてくれた。
よかった、正しい使い方だったみたいだな。
よし、それなら!
調子に乗った俺はその後、ミュナの服と靴もここで買うことにした。
もちろん彼女に選んでもらって、お金も自分で支払ってもらって。
お金の勉強も兼ねた買い物実習だ。
その実習がミュナの自信にも繋がったらしい。
彼女が楽しそうに貨幣を握って踊る姿を、俺はいつまでも眺められる気がした。
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