第16話 やはり無知なる王と淡々と語る国宝たち
「国王陛下、まもなくアルバレストが帰還してまいりますぞ」
「うむ、くるしゅうない」
私が国王に即位してはや一ヶ月と半月。
小うるさい反乱分子の追い出しも済み、私のためのラグナント王国が始まった。
まだまだ余事を抜かすギルドもいるが、いつかは黙ることになるだろう。
それは! 私が! 王だからっっっ!
余計な報酬など渡しはせん!
野蛮な冒険者がのさばるなど許さん!
この国は我々ラグナント人のもの、他所から来た者が口出しすることではなぁい!
そして今回のアルバレスト出向でその成果はより堅実となるだろう。
我がアルバレストならば冒険者ギルドなど不要なのだとぉ。
……かつて父上は言った。
〝恐れるな、塔との戦いはゲームだと思えばいい〟と。
すなわちそういうことなのだっ!
結果、塔を攻略すればそれでよい!
さすればギルドへの必要以上の報酬など不要!
それが嫌ならさっさと塔など壊してしまえばいい!
ならなぜ壊さない?
その答えなど決まっている! 壊す訳にはいかないからぁ!
そう、塔の攻略とはつまるところ国家間の勢力ゲーム。
どの国がもっとも塔の侵略を防ぐか、それを競う代理戦争なのであるっ!
そしてっ!
我が国の領土には最多の三塔がそびえ立っているっ!
この優位性こそ我がラグナント王国が不動の頂点たる由縁なのだっ!
だからこそ私もまた頂点……!
ゆえに誰も逆らうことは許されないのである。
ンハハハハーーーーーーッ!
「アルバレスト一行、御到着~~~!」
おっと、いささか興奮して自語りが過ぎたな。
さて、我がアルバレストを讃えてやるとしようか。
「控えよ、皆の者」
「「「ハハッ」」」
やはり下々がひれ伏す姿はいつ見ても良い。
「さて、ではそのまま戦果を報告せよ」
「ハッ、第二塔で発生した魔物進撃に対する結果報告です。我々は三階にまで到達後、不慮の事故により帰還。その後B級パーティ〝アヴセンティア〟に攻略を託しました。以上」
「……は?」
待て待て待て、コイツは何を言っている?
三階で帰還? B級に託した? は?
「はっはっは、フィル、そんな冗談はよしたまえ」
「いいえ冗談ではありませんミルコ国王陛下」
「……なにぃ?」
コイツ、今私に意見したのか?
国宝パーティとはいえ、主君でもあるこの私にィ~~~!?
一体どういう了見で――
「今回の塔攻略では陛下の進言通り、僧侶長殿を仲間に加えた状態で進行を始めましたが、その結果がこれなのです」
「お、おい、ちょっと待ちたまえよ。それでその僧侶長はどこに行ったのかな?」
「死にました」
「えっ?」
「
ば、ばかな!?
そんなはずはないっ!!
彼奴は我が国の兵力の中でもとびきり能力の高いヒーラー部隊の長だぞ!?
あの男が遅れを取るはずなどっ!
「ええい、お前達が守らないから――」
「守れる訳がありません。彼は最後方にいたのですよ?」
そ、そうだとも、最後方なら安全だと考えた。
その配置なら彼奴も存分に回復の力を使えるはずだと!
「塔攻略において最後方はいわばパーティの要、前衛を支えつつ後方からの伏兵を処理するという最重要ポジションです。しかし彼はそのポジションに就くと言い張りながら声を荒げ、我々に進撃を命令してきたのです」
「えッ!?」
「しかし声を荒げれば当然、倒していなかった階下の魔物も我らに気付きます。そうなれば伏兵がいくらでも来るのは必然。それで騒いでいた張本人の僧侶長殿は背後からの接近に気付けず、頭をパックリとやられてしまった訳です」
「ううっ……」
「まさかとは思いますが、最後方の役割を王はご存知ではなかったので?」
し、知らん、そんなの知らんぞ!
いや、だが僧侶長の奴は自信満々だった、つまり奴も知らなかったのだ!
だから私のせいではないっ! そうだともっ!
「も、もちろん知っていたとも! だが僧侶長はそのことを知らなかったのだなぁ~~~いやぁそうかぁ、てっきり常識だから知っているものかと!」
「ですよね、王ともあろう御方が間違いを教えていたなどありえませんから」
「うむ、もちろんだ。まぁ今回のことは僧侶長のミスもあったから多めに見てやろう」
「ありがたき幸せ」
ふう、なんとか流せたか。
だが参ったな、僧侶長がいなくなったとなると回復の要がもう思い付かぬ。
……そういえば反乱分子の中にもヒーラー職の奴がいたな。
奴を先に行かせればよかったか、クソッ!
「そこで陛下に進言したく」
「な、何かな?」
「次の出撃までに冒険者の出から一人ヒーラー役を選出していただきたい」
「冒険者から、だと……?」
「経験者であればいくらかマシになると思われますゆえ」
冒険者の出なんてこの城にいたか!?
どうなんだ大臣!?
――首を横に振るなァァァ!!!!!
いるのかいないのか、ハッキリと言えェェェ!!!!!
だが今さら冒険者に頼るなど私のメンツが立たぬ!
ど、どうしてくれようか……!
「わ、わかった。次回の出撃までになんとか都合しよう。だが必ずしも貴様の望み通りにはならないということは覚えておけ」
「ハッ! それでは失礼します」
フゥゥゥ~~~~~~!
行ったか、なんとかやり過ごしたぞ!
だがヒーラーなどどう見つければいい、どうすれば……!
「あ、あの、国王陛下?」
「なんだ大臣!? 私は考えるので忙しいのだ!」
「あの、その、今しがたギルドから要求がありまして」
「くっ、内容はなんだっ!?」
「実は第三の塔で魔王級を倒したとされるアディン=バレルが生還したと」
「んなにぃぃぃ!?」
ば、ばかな、奴は死んだのではなかったのか!?
奴が死んだと思って報奨金を支払わないとしたのに!
「そこでギルドが再三、魔王級討伐の報奨金の要求に来ておられまして」
「追い返せっ! もう時効だっ! 一ヵ月も前の話ではないかっ!」
「し、しかし世界塔攻略連盟の条項には時効は一年と……」
「うるさいっ、私の命令が聞けんのかあっ!」
「た、大変申し訳ございませんっ! 今すぐにっ!」
ぐっ、クソォ! 私は王だぞ! 絶対的権力者なのだぞ!
他の二流国とは違うのだっ! それをわからぬクズどもめっ!
……もういい、今回は何も問題はなかった!
私には何も落ち度はない、ただ役立たずどもが失敗した、ただそれだけだ!
しかしアディン=バレルめ、厄介事をまた作りよってぇ……!
今度また余計なことをしてみろ、貴様をこの国から追い出してやるからなぁ……!
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