第14話 暖かいギルドと悪態をつく大男
「ああっ! アディンですー! アディンが帰って来たですーっ!!!」
「ぐはっ!?」
まだロクに回復していない体で肉弾タックルを受けるのは正直きつかった。
けれど悪くはない。ピコッテもあいかわらず元気そうで何よりだ。
もう抱きかかえる気力もないが、降りた彼女に笑顔で返す。
すると足元で両手を掲げて嬉しそうにしてくれていた。
「やっと帰って来たかアディンよぉ……! いったいどれだけ心配をかけさせやがるぅ!」
ギルドマスターグレフも涙目でやってきた。
歳をとったせいで涙腺が緩んだんじゃないか?
「だがよくやってくれたよアディン、お前が魔王級をやったんだろう?」
「ああ、もう必死でどう戦ったかすら覚えてないけどね」
「やはりかぁ! よくやってくれた。ほんっとうによく……!」
ただ本当に感謝してくれているのは伝わってくる。
肩を掴んでは叩き、すすり泣きまでしてくれていて。
周りにいる冒険者たちも俺へエールを送ってくれていた。
こうしてみると自分がやったっていうようやく実感が湧いてくる。
魔王級を倒せて良かったっていう喜びと共に。
「ただすまないおやっさん、ちょっと色々あってもう体がボロボロでさ」
「お前がか!? また珍しいこともあるもんだ」
「それでちょっとヒールポーションを譲ってくれないか? すぐ使いたい」
「なに、お前が薬を切らすなんて」
「それくらいだったってことだ。詳しくは後で話すから頼む。それと意思疎通薬も」
「ああかまわんよ。ちょいと待ってろ」
事情を知るおやっさんなだけに半信半疑みたいだが、皆がいる前だから押し通させてもらおう。
その気持ちも伝わったみたいで、おやっさんが自ら支給品棚から薬品を選んで持ってきてくれた。
「ほら、ヒールポーションだ。それとすまん、意思疎通薬は今在庫がないみたいだ」
「なら素材を手配してもらっていいか? 少量でもかまわない」
「承るが、ちと最近は物流がきつくてな。もしかしたら手に入らんかもしれん」
なに? 今はそんなに厳しいのか?
ラグナント王国はそこまで財政事情に困っていないはずなんだが。
この一ヵ月の間に何かあったのだろうか?
ともあれダメなら仕方ない。最悪の場合は素材狩りに行けばいいからな。
ひとまず今は置いておき、受け取ったヒールポーションを口に含んで傷を癒す。
……ふう、これで少し楽になった。
ただ市販品だからか、思ったより回復度が低い。
全快とまではいかないか。
「すまん、支給品もここ最近で質が落ちちまってる。一般薬士や錬金術士も自分とこの商品を充実させるので手一杯らしくてな」
「そうか、彼らも生活があるし仕方ない話だよ」
そうか、そこまで素材事情が悪くなっているんだ。
もしかしたら俺も薬士として仕事をした方がいいかもしれないな。
「ところでそこの嬢ちゃんは? 耳が長い所を見るに、もしかしてエルフかい?」
「だと思うけど詳しくはわからない。それと語るには少し込み入った話になる」
しかし今はひとまずおやっさんに説明をしないと。
ミュナがいた場所のことも何か知っているかもしれないしな。
「そうか、それじゃあ詳しい事情を聞かせてもらうと――」
「アディィィィィィン!!! アディィィン=バレェェェェェェルッ!!!!!」
「「「――ッ!?」」」
だがそんな時、耳を覆いたくなるような大声がギルドに響く。
それで咄嗟に振り向けば、入口を丸ごと覆い隠すほどの巨大な影が。
や、奴はまさか……!?
「久しぶりだなァ~アディン=バレルゥ! そう、俺様だよォ!〝
くっ、やはりドルカン=ガッズ!
あの不自然なまでの腕の大きさを誇るのは奴しかいない!
「ドルカン、お前がなぜここにッ!?」
「決まってんだろうがよォ~~~! 魔王級が出たっつうんで急いで来てやったんだ、感謝しろォい!」
さすがだな、こう喋るだけで威圧感がすごい。
伊達にレベル58、俺やアルバレストのメンバーと並ぶほどの実力者ではない。
それにオーガ族を血縁に持つがゆえのあの体格はまさに天性。
この粗暴ささえなければパーティにも恵まれたんだろうがな。
「しっかしテメェがさっさとくたばらねェからよォ、俺ァ外でお零れ退治しかできやしねぇ。つまんねぇったらありゃしねぇよォ!」
「悪いな、急ぐ必要があったからお前なんか待ってられなかったんだ。お前、脚が遅いもんな?」
「あァ!?」
「おまけにそのガタイだ、馬にも乗れなくて不便だもんな」
「おぉ~~~言ってくれるじゃねぇか万年シャブ厨がよォォォ!?」
「なんだ、オツムが悪くて薬と麻薬の区別もつかなくなったか。ポーションを使い過ぎで思考がバグってるんじゃないか? 少し人の話を親身に受け取った方がいい。〝妙薬口に苦し〟だ」
「ホホォォォオウ~~~!!!??
「いい度胸だ、やるかテメェ!!?」
「ああやりたいというのならやってやるよッ!!!」
こうなったらもう止められない。
互いに歩み寄り、睨みつけ合う。
それでついには互いに両手での取っ組み合いが始まる。
「うおりゃあああ!!!」
「ぐうおおっ!?」
だが万全とは言い難い俺に勝ち目はない。
たちまち持ち上げられ、掲げ上げられてしまった。
「ぐっはははっ! ざまぁねぇなぁアディ~~~ン=バレルゥゥゥ……!」
「万全だったらこうもいかないがな……!」
「抜かせぇ、この負け惜しみ野郎があっ!」
すると途端に手が緩んで体が落ち、そのまま奴の胸元へ。
直後、奴の太い腕で抱き締められることに。
「ギャッハハハハ!!!!! この死にぞこない野郎っ! よぉく帰って来やがったあ!」
「ハハハッ、すまん、心配をかけたあっ!」
――とまぁ社交辞令はここまでだ。
あいかわらず、睨みを利かせると怖い野郎だドルカンめ。
いつものことだがちょっと焦ってしまった。
「その悪態、あいかわらずだな。お前に会えて嬉しいよ」
「テメェの鼻に付く返しもだよォ! アルバレストから抜けたって聞いた時ァ俺様だってどうすんだぁって焦ったぜェ!」
「すまん、伝える前にこんな事になってしまったんだ」
「気にすんなヨォ! 俺たちの仲じゃねェか!」
そう、俺たちは親友。
パーティという枠組みから外れてしまったが、気の合う仲間に変わりはない。
もし六人パーティという制限がなければ奴もアルバレストの一員だっただろう。
バカで単純で粗暴だが、人情に厚い男の中の男。
それがドルカン=ガッズという奴なのだ。
そんな奴の胸から降り、改めて握手を強く交わす。
おもわずニヤけてしまうくらいの力強さだな。
「おぉ、終わったか?」
「ああ、すまないおやっさん。バカごとに付き合わせてしまった」
「おうアディン、テメェ!? 今俺様のことバカって言ったろ!?」
「「「違う違う」」」
まぁちょっと小うるさいが悪い奴じゃない。
そう信頼できるコイツに再会できたのは俺的にはとても嬉しいことだったんだ。
※妙薬口に苦し……こちらはこの世界のことわざとなります。「ポーションの使い過ぎには注意しましょう、という進言は無視できない」と、とある高名な冒険者が言い放った一言だそうな。
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