第12話 能力の始まりと塔下り
ひとまず塔に戻って来られた。
リンゴのおかげで体力も戻ったし、なんか体を起こす事もできている。
魔王級のフロアも雑魚魔物は来ていないようだし、ひとまずは安心だろう。
「少し休ませてもらうよ」
「うん、無理だめ。ゆっくりしよ」
ミュナも床にぶつかった時のダメージはなかったようだ。
守った甲斐があったってものだ。
しかし俺自身は割とキツい。
痛みが引くまでは安静にしていよう。
やせ我慢で笑って見せたのはいいものの、ミュナにはバレてしまっているみたいだし。
ただその代わり膝枕をしてもらえた。役得だな。
「なぁミュナ?」
「うん? なぁに?」
「聞きたいんだけど、さっきの精霊ってなんなんだ?」
「んーーーわかんない!」
「おいおい……」
せっかくだからとさっき気になった事を聞いてみたが、答えは微妙だった。
詳しい話をミュナから聞くのは野暮だったかな。
「でもね、声、聞こえるの」
「へぇ?」
「こっち、とっても綺麗に聞こえる!」
「あっちでは?」
「ううん、めったに聞こえないよ。運が良い時、聞こえるケド……」
きっとそれは彼女に備わった素質ゆえなのだろう。
実感が先行すると説明が難しいというのはよくある事だ。
俺も〝リテイカー〟に気付いた時は説明なんてしようもなかったし。
――最初に気付いたのはフィルのあの一言だったな。
俺達は孤児で、それでいて仲が良かった。
だから小さい時から郊外に出てピクニックにも行って。
そこで俺の注いだ水筒の水がいくらでも出てくる事にアイツは気付いた。
〝なぁアディン、おまえ、もしかしてそれって何かの能力なんじゃないか?〟
他の皆がポカンとする中、俺はそれでふと試しに地面へ延々と注いだっけか。
そうしたらちょっとした池ができそうなくらい水がドバドバ出てきて大変だった。
でもこの世界で先天性能力が希少なのは有名な話。
能力如何によっては子どものうちに拉致され、奴隷にされるという話も多い。
俺も同じような類の能力だからバレたら大変なことになっただろう。
だから仲間達は俺の能力を誰にも言わないよう隠してくれたんだ。
大人になるまで、強くなるまで一緒にいよう、と誓って。
こうしてアルバレストが結成され、冒険者として成長を果たした。
その末に認められ、そこで俺はギルドマスターのような信頼できる人物に初めて能力を伝えられた。
おかげで今では非公式職〝薬闘士〟という職を名乗る事が許されている。
まぁこれは表向きじゃ語れないから普段は薬士になってしまうんだけども。
……まぁつまり、だ。
ミュナにももしかしたらそういった先天性能力があるのかもしれない。
その精霊とかいう存在と会話でき、力を借りられるような。
だとしたら、この世界に慣れるまではミュナを守ってあげなければ。
仲間たちがしてくれたように、今度は俺が、何があっても平気になるまで。
「ミュナ」
「うん?」
「俺が君を守るよ。何があろうと」
「うん、ありがと、アディン!」
さて、痛みも引いてきた。
よし、体も起こせるし体力も戻っている。
ならこれから塔を降りなければ――
……いや待て、降りる、だって?
そ、そうだ、すっかり忘れていた!
どちらかと言えばこっちの方がずっと辛いかもしれない……!
魔王級が消えて雑魚魔物も少ないだろうが、遭遇したらどちらにせよアウトだぞ!?
それに五〇階層を降りるのにどれだけ時間がかかると思っている!?
登って来るのに二日くらいはかかったはずなのに!
それほどの長さで罠だらけの道中を薬なしで突破できるのか!?
まずい、これはハードオブハードだ。
どうすればいい、どうすれば……!
「アディン~~~! お外すごーい! たかーい!」
ミュナはミュナでいつの間にか楽しそうにフロア端で外を眺めているし。
ああ、あの気楽さが俺にも欲しい。
――外?
ふと気付き、俺も誓いの短剣を拾いつつミュナの下へ歩み寄ってみる。
そうしたらさっそく、壁に設けられた窓穴から外が一望できた。
さすが五〇階だけあって、地上が白むほどの高さだ。
でもこれって、もしかしたら。
「ミュナ、まだ精霊と話はできそう?」
「うん、できるよ。いっぱい遊んでるみたい!」
「だったら俺たちをあの地上まで運んでもらえないか頼めないか?」
「わかった、聞いてみる! みんなーっ!」
そう、ミュナの力があればわざわざ塔を駆け下りる必要はない。
この窓から飛び降りられるなら、それが一番の近道で安全策だ。
「できるって、アディン!」
「よし、それならここから地上へ帰ろう!」
「うんっ! じゃあついてきて、アディーーーン!」
そしてミュナもまた行動がとても早かった。
そう決まるや否や、すぐに窓から身を投げていたのだ。
俺も覚悟を決め、窓枠へと足をかける。
それで楽しそうに浮くミュナへと向けて勢いよく飛んだ。
――おおっ、体が浮く! これが精霊の力か!
緑色の風が周囲を舞い、俺たちを包んでくれている。
その中でふわりとミュナが近づき、俺の手を取ってくれた。
「いこーっ! ふぅーーーっ!」
「ああっ! いくぞおっ!」
そうしたらもうあとは一気に落ちていく。
さっきのふわりとした感覚が消え、一気に自由落下状態だ!
だけど不思議と怖くない!
精霊が、ミュナが先導してくれているから。
彼女の笑顔が俺を励ましてくれているから。
だから俺もまた笑顔でこのフリーフォールを楽しむ事ができる。
時には二人で両手を掴み合いながら体を広げたり。
時にはダンスを踊るようにくるりと回ったり。
そうして近づく地上を待ち焦がれながら、俺たちは存分に空を楽しんだのだ。
「もうすぐ地上だ、大丈夫か!?」
「うん、任せて!」
でもその楽しい時間もとうとう終わり、青々しい草原がハッキリと見えてくる。
すると途端にふわりとした感覚がまた体を撫で、勢いが収まっていった。
それでそのまま地上へ、なんてこともなく足を付く事ができた。
おや、なんだろう?
今、子どもの笑い声が聞こえたような……?
「みんな、楽しかったって!」
「そうか……ありがとうな、精霊さん」
きっと今の声が精霊という存在のものなのかもしれないな。
だから俺は見上げるミュナに合わせ、空へと向けて手を振った。
どこにいるかは見えないが、きっと俺の感謝は伝わっているよな?
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