第5話 かの仲間たちと無知なる王
「国宝パーティ、アルバレスト帰還いたしました!」
兵士の掛け声とともに扉が開かれ、王の姿が遠巻きに見え始める。
王座に足を組んで座るなど、あいかわらず図々しい奴だ。
親である先代王はあれほど威厳と慈しみに溢れていたというのに。
しかし我儘を言っても始まらん。
今の俺たちは国宝パーティの一員であり、奴の私兵なんだからな。
「フィル、もう逆らおうなんて思わないでね」
「アディンの意志を無駄にするなよ?」
「わかってる」
ファーユとクレッツォが小声で注意を促してくる。
だけど安心してくれ、もうあんな醜態は晒さないさ。
親友のアディンのためにも、俺はもう覚悟を決めたよ。
その覚悟の下に表情を引き締めて王の前へ赴き、ひざまずく。
するとさっそく仰々しい拍手で俺たちを迎えてくれた。
「よく帰ったアルバレストぉ! さぁ聞かせておくれ、お前たちの戦果を」
「ハッ! 半月前より始まった魔王級の出現により、三番天穿塔より魔物が著しく流出。それをギルドと協力し、先日ようやくすべての討伐を完了いたしました!」
「おおすばらしいぞアルバレスト!」
なにがすばらしいものか、素人王め。
俺たちが到着する前から乱戦状態、冒険者たちも混乱状態、魔物だってどれだけ見逃しているかもわからん。
それにもかかわらず兵士側から一方的な終了勧告が出れば投げやりにもなる。
最悪の戦果だ。今まででダントツにな。
「それでどうだった?」
「え?」
「私の嫁候補だよ。長いこと離れていたので少し寂しくなって気になったのだぁ」
「もういません」
「……は?」
「彼女は逃げました。恐れの余りに」
「んなっ!? なんだとぉ……!?」
それというのもあの女が速攻で消えたおかげだ。
そのせいで俺たちはヒーラー抜きで戦わなけりゃならなくなったんだからな。
「そんなはずはない! 彼女は実に勇敢で能力にも優れていた! そこらの兵士では比べ物にならないくらいにな! そんな彼女が逃げるなど……」
だが悪いなクソ王よ、俺たちはあの女に同情している。
そりゃそうだよな、常人にもかかわらず魔物と戦わされりゃ同情的にもなる。
普通、魔物と戦うにはギルドに所属しなければならない。
それはギルドが対魔物用の紋章〝退魔紋〟を授けてくれるからだ。
その退魔紋を有した者が魔物を倒すことで〝
そうして高レベルにまで上げる事で俺たちは強力な魔物にも対抗できるようになったんだ。
逆に言えば、そうしないと魔物が強過ぎて太刀打ちできない。
そんなことなんて調べれば誰でもわかる。
それにもかかわらず、コイツは王なのにまったく知らんときた。
あまりにも滑稽すぎるだろうが、スライムでも詰まってるのかその頭には。
「しかしそれは事実なので」
「ぐっ、クソッ! こうなったら大臣、あの女を今すぐ見つけてこい!」
「ハハッ、そしていかほどに?」
「私に恥をかかせたからな、連れてきたら容赦なく処刑してやる!」
探す、か。それも無理だな。
なにせあの女、最初から逃げる気満々だったんだからよ。
賢いのは確かだし、今頃は隣国にまで到達しているだろうぜ。
「そういえば僕、彼女が西に逃げていくのを見ました」
「ええそうですわね、わたくしも西に行くのをしっかりと」
「西なら民道もありますし逃げるのに最適だと思ったのかもしれません」
「西だな!? よし大臣、第三塔の西方面を徹底的に探せ!」
「ハハーッ!」
おや? たしか彼女は東方面に行くとか言ってたような。
ふとそう思い横を覗くと仲間たちのニヤつく顔がチラリと見えた。
おいおいお前ら、なかなかの策士っぷりじゃあないか。
東方面は道もないが、抜けきれば隣国へもすぐ行ける。
それでも追っ手が切れるとは言い難いが、このアホ王の様子なら問題ねぇ。
ならこのまま逃げ切れることを祈ってるぜ、賢者ちゃんよ。
「まぁそれはいい。ともかくとして汚らしい魔物どもは成敗できたのだから。さぁこれから民衆どもへ向けて祝勝の声を上げよう! お前たちも参加するのだ」
「……了解です」
「その後は祝勝会も催すからな、しっかりと英気を養うのだぞぉ?」
ま、俺たちはやれることをやったんだ。
これ以上はさすがに面倒見きれないさ。
ギルドのおやっさんたちには悪いが、今は貧乏くじを引いてもらうっきゃない。
あとで何か詫びるからよ、許してくれよな。
それはともかくとして料理くらいはしっかり頂くとしよう。
それくらいは恵まれたっていいよな、アディン?
……なぁ、お前は今いったいどこにいるんだ?
本当に魔王級にやられちまったのか?
俺たちにそんなことが信じられる訳がねぇよ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます