とある少女の秘めたる片思い
私…
高校三年生という重要な時期に色恋しやがってとかは思わないで欲しい。
隣の席の
奇跡的に席替えで隣になって話すようになった。
好きな食べ物はキャンディで苦手なものは、苦いものだということを知ったのはつい最近のこと。
それまでは話すきっかけがないものだから、少しでも彼を知ることが出来て嬉しかった。
「藍瀬さん今日も放課後まで読書?」
突然彼に話しかけられて私はびくりと肩を揺らした。
もうそんな時間なのかと思って私は本に栞を挟んで閉じた。
「いえ、時間つぶしで読んでいたので教えてくれてありがとうございます」
帰ろうと思って荷物を通学鞄にしまっていたら、夕さんは何か言いたげに私の顔を見ているのが伝わった。
「どうかしましたか?」
「あ、その…今ちょっと時間あるかなぁ、って」
「いつも暇なのでありますけど…」
「本当に?よっしゃ」
小さく浅葱さんはガッツポーズをして喜んでいた。
私も嬉しくて気を引き締めないと表情が緩んで仕方がない。
「浅葱さんは」
「夕で良いよなんか苗字呼びって他人みたいで寂しいし…俺もは、遥…さんって呼ぶから」
私の名前を頑張って呼び捨てにしようと思ったのだろうが彼にはそれが出来なかったみたいで少し寂しく感じた。
「じゃあ私も夕さんって呼びますね」
「俺も頑張って遥…さ、ダメだ!ちゃんと呼び捨てで呼ぶから!」
それが私と彼がよく話すようになったきっかけがこれだった。
彼はバスケ部の期待のエースだ。
そんな人が部活に見に来て欲しいとか、試合に応援に来て欲しいとかって言われたら嫌でも自惚れて期待してしまう。
それは突然におきました。
夕さんは試合で怪我をした。
「リハビリとかは良いんですか」
今度は放課後に私が彼に声をかけることが増えていった。
彼は死んだ目をして私を見ている。
その目を見ると辛くて胸がきゅうっと締まる感覚ある。
「普通に生活は出来るけど、スポーツは本気でできないんだって」
その言葉は彼を殺すには十分すぎる言葉だったのだろう。
私はそれに対して何か言ってあげたいけど言えない。
「そっか」
「遥さん…俺どうしたらいいのかな、生きててもいいのかな」
「そんなこと!…言わないで欲しい、かな」
貴方に私はそれしか言うことが出来ない。
「もう良いよ俺に構わないで」
「何か助けになることあるなら私…」
「もういいって!しつこい!…あ」
明確な怒り。
しつこくしすぎた。
どうしよう。
サーっと血の気が引いて体が小刻みに震えていくのが分かる。
「ごめんなさい」
「待って!」
頭を下げて私は走ってその場を去る。
彼の静止を聞けるほど今の私には余裕がなかった。
家に帰って部屋に戻ると我慢してた涙が出てきて声を出して私は泣いた。
その後は疲れて寝落ちをした。
朝起きると着信履歴があって確認したら夕さんで気まずくなってそのまま見ないふりをした。
学校もズル休みして着替えて布団に潜る。
スマホの音が鳴る度に夕さんの名前で着信履歴が増えていく。
「ちゃんと謝らないと…」
理解しているのに勇気が出ない。
夕さんに謝る事が出来ない。
電話だって折り返しかけ直せばいいのにそれすらできない。
「こんにちは」
「…こんにちは」
外をフラフラと歩いていると女の人に声かけられる。
大きな帽子で見えないようにしていて表情は分からないけど、声色は穏やかだ。
「貴方片思い中?」
「…そうですけど、今絶賛傷心中なんです」
「その片思いは捨てるの?」
「…さっきからなんなんですか?捨てるとか捨てないとか、捨てれるものなら苦労しませんよ!」
女の人の口角がゆっくり上がった。
私はそれが少しだけ気味悪く感じて一歩後ろに下がった。
「できるよ」
「失礼ですけど頭大丈夫ですか…」
「そういう反応のなるよねぇ…必要になったらここに電話してくださいな、忘れたい記憶とかもあるなら貰いますよ」
そう言い残して彼女は歩いていった。
私の手に握られていたのは、お店の名前と電話番号だった。
ネットで【コリウス】なんてお店を調べても出るのは花でそれも叶わぬ恋とかっていう花言葉のやつだった。
確かに叶わない恋だと思った。
チラリと夕さんを見ると読書中みたいでその横顔が綺麗だなと思った。
この恋心と幸せだった記憶を忘れていいのならその方がいいのでは無いのかと思った。
だって、こんな辛い思いを抱えて生きていくなんて地獄じゃないか。
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