第5話 這いよるんじゃない
バスの中―おこる
小野寺さんと遠足の時にいろいろあった。あったはあったが、それはそれ。今日も今日とで彼女は暴れる。
「いやぁ昨日のコント見た?テレビでやってたやつ」
彼女は朝からフル稼働。
小野寺さんは昨日の夜にやってたお笑いのテレビ番組のことをいっているんだろう。おそらく俺がテレビを消した要因の。
「あの『笑いの絶頂、抱腹絶倒、怒り心頭、意気消沈‼』ってやつ?見てないなぁ。おもしろかった?」
小野寺さんが嬉し気に説明し始める。
「いやあ、面白いのなんのって。まず最初の10分で前振りがあるんだけど...」
「おい、それは果たして前振りなのか」
「永遠にボケないだけのコントだったんじゃないのか」
俺と
「いやもうツッコむ人がいなくて、だれもコントを止めらんないの」
「それは放送していいのか...お笑いだよな。台本あるよな。レールがあって秩序が無いのはどういうわけだ」
「
「うまいこといったと思うなよ」
なぜ芸人の代わりに俺たちがツッコまないといけないんだ。小野寺さんまでボケはじめてるし。
「なんでツッコむ人がいなかったんだよ」
「いやぁ、トリオのひと全員ボケ担当だったみたいで」
「それもうただの老人ホームじゃねぇか」
「視聴者参加型の新感覚コントだったとか」
「それスタジオの雰囲気どうすんだよ」
「いや前振り10分ってどゆこと...」
「ツッコミがたらん‼」
おいどうしてくれるんだ昨日のお笑い番組。放送終了後もなお御茶の間を凍らせるつもりか。ていうかなんだよ『怒り心頭、意気消沈』って。
「んなことより、今日一限目は体育だから用意しとけよ」
小蕾が思い出したように放った。よくやった。
「はぁい、ショートほーむるぅーむしますよぉ~」
オギセンもいつも通りだ。
――――――――――――――――
「で、今日は体力テストをする。さっさとやれ」
さあこの体育教師どうしてくれようか。高1に対してシビアな放棄だと思うぞ。なにするかの説明とかもろくにされてないし、そのくせ高圧的だし。
「体力テスト嫌いなんだよなぁ」
「なんだ、運動苦手なのか?」
小蕾が意外という顔でこちらを見ている。
「小蕾、お前みたいにいかにも運動得意そうなやつにゃぁ俺の気持ちはわかんねぇさ」
「まぁそう気を落とさずに。早く終わったらドッジボールさせてもらえるらしいし」
「私も運動苦手だよー」
どっからわいたんだこの人。
「小野寺さんはなんというか、勢いでどうにかしそうな感じがする」
「そーなの。得意じゃないけど全力投球。目指して狙ってホームラン‼」
「よしよし、投げて打たれちゃったら世話ないねー」
そう、小野寺さんはおそらくほんとに運動自体は得意ではないのだろうが、本当に勢いでどうにかしてしまう人なのだ。走るだけで背後に「ドドドドドォォォ‼」ってエフェクトが入るような感じで、得意ではないものの、全力でやってしまうせいで下手に運動得意なやつより運動できたりするのだ。好きこそものの上手なれ、とか言ったやつ出てこい。お前の固定観念をぶち壊してやるから。
「よし、じゃあちゃっちゃと済ましてドッジやるぞ」
「「おぉ~‼」」
―――――――――――――――――――
そして今、我々はドッジボールをしている。
「いくぞぉ桜田、くらえ!」
ドッジボール―発祥はイギリスといわれ、その原型は二十世紀前半のアメリカにある。当初それは「デッドボール」と呼ばれ、現在の名に改称。その由来は英語のdedge、すなわち避けるというわけで、呼び名は「ドッジボール」や「ドッヂボール」と地域によって異なる。
「諸説あり」
「なに言ってんだしょうらぁあああ…‼」
バスッ
「あぶなかったね、桜田くん」
「……‼お、小野寺さん!?」
俺の顔面の目と鼻の先でボールが手に収まって静止している。なんてイケメンな取り方なんだ。眼前にて右手に立っていた小野寺さんの右手が
「よし、じゃあ反撃いくよっ!」
「小野寺さん...さすがに元気だね…」
「桜田くん、こういうのはワクワクしてやらなきゃ!」
なんかこの人食ったのか。変な実でも。
「いこう桜田くん」
「え、俺も...?」
ATTENTION ATTENTION ATTENTION ATTENTION…
「熱き友撃、速必殺」
おいそれ以上はだめなんじゃないのか。
「いやなんでこっちに向かってくるの小野寺さん!」
俺がふっとぶ
「友情コンビネーション‼」
なんだよ友情コンビネーションって。
「白爆発!」
「だから俺はとんだのか」
「いくよSS!」
ほんとにそれ以上はだめんなじゃ。
「我は堕天の王なり」
「速必殺つけてて正解だったね」
「黙れ小蕾」
そして内野の仲間全員が走り出す。
―――――――――――――――――
「いやぁ勝った勝った」
小野寺さんが満足げに飛び跳ねている。
「違うことにハラハラさせられたがな」
気疲れここに極まれり。小蕾、こないだはごめんな。
「なんでもかんでもパロってたらいつかえらい目に遭うぞ。ただでさえカオスなんだから」
「いつもヘラヘラ田んぼの桜に這いよる混沌、ニャルラ…」
「パロディアニメならパロっていいと思うなよ」
「こないだは桜田くんもノリノリだったじゃない」
「あれは他んところもしまくってるからいいの!」
※全っ然良くありません
「うん、良くないからな」
小蕾がテロップに激しく同意している。おまえも今日はノッてたからな。
まったくもうこの無秩序の中で、おれは本当に大丈夫なんだろうか。
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