第2話 言いたいことがわからないんじゃない

 世の中には、ピーナッツが好きでバターも好きなのに、ピーナッツバターが嫌いな人がいる。


 そう、小野寺さんだ。彼女がなぜそういう感性を所持しているのかは深堀りしないとして、やはりどこか変わっている。


 味覚ではなく着眼点が。


 小野寺さんと席が隣になって数日。

当初のイメージが、崩壊した。

 あんな「平安美少女ですけどなにか」顔をしておいて…なんだあの天然美少女。


俺がそう思う節はいくつかある。


 数日前、課題のプリントを集めて英語担当の先生のところに持っていく作業を面倒くさがっていた(隙あらば男女をくっつけようとする)荻野先生、通称オギセンの視界に俺と小野寺さんが入ってしまったのが運の尽きだった。

良かったわね♪頑張って!と言わんばかりの笑顔で大量の紙々を押し付けられた。

一体どこの世界に公務員の仕事を押し付けられて嬉しい未成年がいるものか…


 仕方なく俺と小野寺さんは英語の先生がいらっしゃる職員室までブツを運んできた。あとはドアにノックして入るだけなのだが、何故か急に小野寺さんが立ち止まる。


「多人数の前より1人の前で演技を披露する方が難しいと思うの」


「…へ?」


藪から棒の使い時がわかった。今だ。


「1人の前でもできないんじゃ当日大勢のお客さんの前でなんてできるわけないって言われることあるじゃない」


「(無いけど…)あるね」


「でも1人の前でやるのって改まった感じがしてかえって恥ずかしいと思うの」


うん…は?いや、言ってることはわかるよ。言わんとしてることも、言ってること自体を否定するつもりもない。

でもね………ここ職員室の前なんだ。


「ま、まぁ確かに…?でもなんでいま言っ…」


「コンコン失礼します!」


Why?


―――――――――

後日


「推しをちゃんと推す基準って推しに対して寛容かどうかだと思うの」


うん、え?


「はぁ」


「例えば今日推しの配信があるからってポップコーンとコーラを買って机に置いて椅子を用意して完全にいつでも配信を終始見届けられますっていうセッティングをしたとするじゃない」


うん、え?


「はぁ」


「そしたらいきなり『大事な用事が入って今日の配信は中止します!』って投稿されるとするじゃない」


うん、え?


「はぁ」


「その時に、ちゃんと推しを推してる人は『そうかぁ大事な用事があったのかぁ。それはしょうがないなぁ』ってなるけど、推しをエセ推ししてる人は『なんだよ、せっかくお菓子と飲み物用意して完璧なセッティングしたのに用事とか…どうせ嘘だろだるっ』とかってなるのよ」


うん

……………………え?


「は、はぁ」


言ってることはわかる、言いたいこともわかる。

でもなぜ………なぜそれを言うのが職員室の前なんだよ‼︎ 


どうして我々が職員室の前にいるのかについてはこないだと大差ない。

オギセンが職務放棄したのだ。

…一応聞いておくか。


「どうして今言っ…」


「コンコン失礼します!」


Why?

―――――――――

小野寺さんにはこういう一面がある、と言えるならどんなに可愛らしいかわからないが、残念ながら全面なのだ。


 ラブコメの聖地、もとい「お約束の地」に不穏な空気が流れ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る