第2話初めてのオフ会はまだ終わらない

オフ会は始まったばかりで未だに僕は緊張した面持ちでドギマギしていた。

「そんなに緊張する?大丈夫よ。シラフで悪ノリはしないから」

スギザキが美しい微笑みを携えて僕に向き合う。

「スギザキのぺぇを見て脳が処理落ちしているんでしょ」

世界宇宙が呆れたように苦笑するとクリームソーダをストローで啜っていた。

「私達をおじさんだと思ってきたら…全員お姉さんだった…なんて緊張して当然だよね。直接会わないと女性だって信じてもらえないと思ったから。騙し討ちみたいなことしてごめんね」

ライ麦一番は後れ毛を耳に掛けながら眼鏡の位置を直す。

「まぁ…はい…女性慣れしていないので…」

正直な気持ちを口にすると世界宇宙は嬉しそうに表情を明るくさせて食いついた。

「女性慣れしてないだって!可愛すぎるんだけど!」

興奮して声量が少しだけ上がった世界宇宙は身を乗り出して今にも僕にむしゃぶりつきそうだった。

「宇宙ちゃんは年下好きだもんね」

ライ麦一番は呆れるような表情でテーブルの上のマグカップに手を伸ばして口に運んでいた。

「私も年下は好きよ。ライ麦だってそうでしょ?」

スギザキはアイスミルクにガムシロップをいくつも入れてストローでかき回していた。

「そうだけど…宇宙ちゃんみたいに大々的に言うつもりは無かったのに…」

「ごめんごめん。一応言っておいたほうが良いかなって。甘ちゃんのためにも」

彼女らの話を聞いても僕は意味がよくわかっていなかった。

問いかけるように彼女らに視線を彷徨わせる。

「あぁ〜。うん。気付いたと思うけど…私達は皆、甘ちゃんのファンって言うか…良いなぁ〜ってずっと思っていたんだ。動画も配信も追っていて…そうしたら幸運なことにバーチャル配信者限定のサーバーが出来て交流が可能になったの。どうにか近付いて仲良くなれて。やっとオフ会で会うことが出来た。そう見えないかもしれないけど…実際の甘ちゃんを見て私達も興奮してテンション上がっているのよ。許してね」

スギザキの告白のような言葉に僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。

彼女らのような美人や可愛らしい人達が僕のファンだとは思えなかった。

容姿に特別な自信が無かったので顔出しの配信者にならなかったわけで…。

バーチャルの僕を好きになってもらうのは理解できるのだが…。

直接会ったというのに彼女らは僕に好意の様なものを示している。

それが信じられなくて言葉に詰まる。

「今日は予定空けているんだよね?」

世界宇宙に問いかけられて僕はすぐさま頷いて応える。

「じゃあ夜は飲み会にしよ?」

「え…大丈夫ですか?」

大丈夫とは、この間の配信でのノリを思い出したために出た言葉だった。

「大丈夫。今日は女子会じゃないから」

ライ麦一番が苦笑交じりに応えるので僕はほっと胸をなでおろす。

「それまで少し買い物でもしましょう」

スギザキの言葉によって僕らはカフェを出ると街に繰り出すのであった。

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