個人デスゲームマスターの恐怖のゲーム

ちびまるフォイ

終わりなきデスゲーム

「こ、ここは……」


最後に覚えているのは忘年会で飲んだ記憶。

道路の端っこで休んでいたとき、たしか車に押し込まれてーー。


「気がついたようだな」


「お、お前はいったい!?」


お祭りの縁日で売っているお面をつけた人が現れた。

スポットライトのかわりに懐中電灯をつけている。


「私はデスゲームマスター。

 人間の恐怖の叫びと、苦痛の表情でご飯を食べる

 そんな男だ」


「いや性癖は聞いてない」


「ともかく、君は晴れてデスゲームの参加者となった」


「デスゲームだって!?」


「ククク。人間の裏の醜い本音をさらけ出すがいい。

 デスゲームはコレだ!!」


デスゲームマスターはかぶさっていたクロスを引き上げた。

そこにはデスゲームの機材が姿をあらわした。


「こ、これがデスゲーム……!」


「そう。これからお前は"ウルトラ・マルオ3"を遊んでもらい

 残基がなくなったらお前は死ぬというデスゲームだ!!」







「え?」


「ん? わからなかった?」


「いや、なんか思っていたデスゲームと違うなあって」


「……」


「こういうのって、もっとオリジナリティあふれるというか

 デスゲーム主催側が工夫を凝らして作るもんじゃないの?」


「え、そう?」


デスゲームといえばまだ見たこともない新しいゲームに触れ、

手探りながらにも恐怖と心理戦を繰り広げるもの。


しかし、既製品でデスゲームをやるとなると

友達の家でゲームをする空気感となんら変わらない。


ぴんと張り詰めていた緊張感がゆるゆるにやわらいでしまった。


「……だって、デスゲームなんて作れないし。お金ないし」


デスゲームマスターは冬休みの宿題を忘れた学生の言い訳のごとき顔で反論した。


「お前、最初のほうで人間の恐怖とか醜い本音とか言ってなかった?」


「うん」


「死ぬのは確かに怖いけど、この普通のゲームじゃ恐怖しないんだけど」


「フハハハ。それはあれだ。残基がまだあるから余裕こいてられるのだ!」


「え?」


「いざゲームを始めてみろ。命がかかるプレッシャー。

 普段やっているゲームであってもその緊張感でミス連発。

 迫る死の恐怖に震えるに決まっている!!」


「俺、このゲームはタイムアタックするくらいクリア慣れしてるんだけど」



「え」


デスゲームマスターの仕掛けたデスゲームは、

デスゲームがはじまるまえに看破されてしまっていた!


「それっ……それずるいよぉ! デスゲームの予習とか反則じゃん!

 あーーあ、もうデスゲームする気なくなったぁ!

 今、めっちゃデスゲームするつもりだったのに!!」


「お前がオリジナルのデスゲーム用意してこないからだろう?」


「じゃあデスゲーム作れるんですか!

 かわりに作ってくださいよ!」


「なにも大がかりなものじゃなくてもデスゲームできるだろう?

 そもそも人間の本音をさらけ出させるのが目的なら、

 ……そうだな、たとえばトランプとか使えばいいじゃないか」


「ゲームに負けたらトランプが突き刺さって死ぬとか?」


「なんでおもちゃを武器としてしか認識しないんだよ」


「知らないよ! だってデスゲームなんて学校じゃ教えてくれなかったもん!!!」


デスゲームマスターはみるみるIQが下がってしまい、

マスターを冠することすらあやぶまれるレベルに堕ちる。


「トランプでもゲームはできるだろう?

 それにトランプなら新しいゲームだって作りやすい」


「なるほど!!! その手があったか!!」


「やっとわかってくれたか。それじゃあ……」


「ハハハハハ!! では恐怖のデスゲームを始めよう!!

 デスゲームの名前は……ババ抜きだ!!!」






「……」


「あれ? なんでそんな冷めた顔してるの?」



「なんでこう……新しいものを作れないんだろうね、君は」


「う、うるさい! 私はデスゲームマスターでお前は参加者だ!

 おとなしくマスターのいうルールに従えばいいんだ!!」


こうして恐怖のババ抜きが始まった!!


人間を恐怖のどん底に陥れるような

斬新かつ特殊な追加ルールは一切ない!!


デスゲームマスターがルールを理解できるように

非常にシンプルかつプレーンにして素材の味を感じられる

"ありのままのババ抜き"が2人ではじまってしまった!!!!



「ククク。命をかけたババ抜き。貴様がどんな顔をするか楽しみだ」


したり顔でデスゲームマスターは微笑んだ。


しかし、まだ彼らは知らない。



トランプの枚数が足りておらず、

けして決着のつかないババ抜きになるということを……!

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