31撃 弱くなったか? 爆弾マゾック

 ***


   

「ボムゥゥ! ボムゥゥ!!」

「……」


 派手に吹き飛ぶ周囲の建物、その真ん中には以前見たことのある爆弾がいた。


「聖、あいつ」

「うんそうだね。なんだかすごくボロボロだけど、間違いなく爆弾マゾックだね」

「だよな」


 晴人やジンはもうすでに戦闘に入っている。グエンも合流し、ラフォーレも現れる。


「リアムさん! お待たせしました!」

「俺たちも今来たところだ」

「ボムボムゥゥ!」


 二人を相手する爆弾マゾックは、変身しようとする俺たちを認識して、爆弾を何発も投げてくる。


「あいつ見たら思い出すな、俺っちたちを初めて助けてくれた時のリアムっちを」

「そうね、痺れたわぁん」

「俺はお前の不死身さにビビったぞラフォーレ」


 爆弾が爆発する寸前で、俺たちは変身して防御に徹する。と言っても、グラムを一振りするだけで封じれるんだけどな。


「弱くなったか? 爆弾マゾック」

「ボム!? お、お前は……! あの時の忌々しい名乗りもしないヒーロー! あの時は六人目じゃないと言ってなかったボム? だが今のお前は正真正銘こいつらの仲間に見えるボムよ?」

「七人になってパワーアップしてしてるぞ」

「!? ほんとボム! 七人いるボム!」


 気付いてなかったのかよ。


「でももう騙されないボムよ! どうせお前は珍妙なポーズも、名乗りもしてくれないボム!」

「蹴散らす暗撃! アヴァンダークネス!」


 爆弾マゾックの前で、俺は大袈裟に動いて剣を目の前で構えてみる。するとマゾックも含め、聖や晴人たちもピタリと止まる。


「ボム……! ボムボム!!?」

「リアムがノリノリで名乗ってる!? めっちゃレアやん!」

「リアムくん血迷った!?」


 血迷ってない、うるさい。

 普段名乗りを渋るせいか、いざやればこの扱い。世の中はなんて理不尽なんだ。


「一体どういう風の吹き回しボム!? なぜ名乗るボム!? こいつらを仲間と認めたってことボム!?」

「有り体に言えばそうだな……」


 ピッ、ピッ、とゆっくり響く電子音が徐々に早くなっていく。おそらくこの音はマゾックが発している。何か興奮しているのか、ピカピカと液晶も光り始める。


「ついでに俺もな」

「銀色のお前は興味ないボム」

「よーし分かったどついたる!」


 適当にあしらわれるように爆弾を投げ渡される晴人は、「十秒後に爆散ボム」と言われてパニックに陥っていた。


「東くん! とにかくどこかに投げて! 空とか!」

「あかん! 俺ボール投げの記録六メートル!」


 周りは言葉を失った。晴人の腕力の話じゃない、晴人の命の危機に関してだ。


「情けないわね、貸しなさい」

「姐さんおなしゃす!」


 呆れたように槍を地面に突き刺すラフォーレは爆弾を受け取ると、大きく歪むように爆弾を構える。まるで砲丸投げの要領で大きく投げ飛ばすと、遥か遠くで爆発した。爆風がこちらに届きすらしない遥か遠くで。


「アヴァンダークネス、一つ聞かせろボム」

「なんだ」


 ラフォーレによる見事な投擲を無視して爆弾マゾックは俺に語りかけてくる。どこか安心感のある声で言われ、俺は素直に聞き返してしまう。


「仲間といるのは楽しいボム?」

「……騒がしい毎日だ。まぁ、退屈はしない」

「そうボムか……良かった」

「は?」


 電子音が激しく鳴り響く中、マゾックの爆弾型の顔につけられた液晶がニコッと光る。


「もう潮時ボム。お前が逞しく育っていて良かった、少し捻くれてるけどな」

「は? 何言ってんだよ?」

「トドメを刺せボム。仇は討ってくれたし、成長した姿も見れた。さぁ早くやれボム! これ以上街を壊させるなボム!」

「お前……まさか……」


 いやそんな訳はないだろ、死んだんだろ? でも、仇って言ってるし……成長した姿とか……。

 俺の脳が停止する。だが完全にこいつは俺の父親、その結論にしか辿り付かない。


『リアムちゃん! 早くトドメを刺してあげて! 辛そうだよ……!』

『坊っちゃんの予想は当たっているはずです。坊ちゃんの前にいるその方は、紛れもなく旦那様! 放つオーラが旦那様そのものです! お辛いとは思いますが、どうか……どうかトドメを……』


 地面から姉貴とスチュアートの声が聞こえる。スチュアートは断言した、爆弾マゾックは間違いなく父親だと。なぜ父親がマオウ軍としてこの世界を壊しているか分からない。ただ……。


「ローズにスチュアートか。ローズはあいつに似て美人なんだろうなぁ……スチュアート、懐かしい声が聞けて良かった。リアム! 遠慮はいらない! 一思いにやれ!!」

「……理由はしらねぇけど、悪に手を染めた事実は消えない。そもそも遠慮する気なんてねぇよ……」

『トドメ! イチゲキ!』


 両手を広げるマゾックは、俺の攻撃を潔く受け入れる。全力で振り下ろすグラムに対してだが、悲鳴を上げることもなく、技を全身で受けている。


「暗黒大斬撃」


 完全にグラムを振り切ると、弱々しい光でまた液晶がニコッと点滅する。


「いい……技と、武器だ……さすが俺の息子……」

「何が息子だ、ガキ残してくたばりやがって……!」


 もう爆弾マゾックは言葉を吐くことすらままならない状態。対して俺も全ての力を技に乗せたため変身が解けている。そんな俺は、目の前で虫の息の父親に悪態しかつけていない。違う、分かってるんだ。死にたくて死んだ訳じゃない、残したくて俺たちを残した訳じゃない。けど、感情がもう追いつかない。


「ごめんなぁ……リアム。何もできずに死んだ挙句、情けない姿を見せちまった……ほんと、ダメな父親だ」

「……俺、感情がクチャグチャで……けど。情けないとは思わねぇ……俺もアンタみたいに命を張って誰かを助けられる、立派な男になるよ……父さん」

「お前はもう、俺の立派な自慢の息子だよ……」


 そう言い残し、俺の前には爆弾マゾックの残骸だけが残った。

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