29撃 助かったのは事実だ

 七人がそれぞれに戦闘員数十人をまとめて相手していても、数は一向に減らない。このままじゃ圧倒的に俺たちが劣勢だな。

 満身創痍の肉体に、増え続ける敵。桃谷の回復魔法で回復したとしても、魔力には限界がある。あまり頼りすぎるのは良くないだろう。どのみち、消耗戦は負けが濃厚だろう。何か手はないか? この戦いを短期で終わらせる良い策は。


「リアムくん! 東くん! ここは私たちが引き受けるから、二人はジョーカーを!」

「アタシたちが道を作ってあげるわ。行きなさい、あんた達」

「みんな考えることおんなじなんね。俺っちたちがお膳立てしてやるよ、しっかり落とし前つけてやれ!」


 戦闘員の群れに道を作るために、聖達は真ん中を引き裂くように戦闘員を左右に押し込めていく。そして道を確立するかのように、グエンが矢を無数に連続して放ち壁を作る。


「グエンさんめっちゃすげぇ!」

「器用だな」


 矢は雷を宿しているため、俺たちに寄ってくる止め漏れた戦闘員は、バチバチと感電して周囲にも伝播していく。


「ほら、りぃちゃぁん。早く行きなぁ。あと東」

「リアムさん! お早く! あと東さんも」

「ああ、助かる」

「俺のおまけ感!」


 作られた道の先には、ニヤリと笑うジョーカーが立っている。今すぐそのにやけ面を歪ませてやるよ。


「早くおいで、サリバン・リアムくん。ついでに銀狼も」

「言われなくても行ってやるよ」

「ハッピーセットかますぞクソボケ! 俺を巻ける長いもんは、もうお前じゃなくてリアムやからな!」


 待ちきれないのか、ジョーカーは俺たちの方へ走ってきて、道の真ん中でエンカウントする。

 初激の一振りは、刀で受けられる。そして晴人の攻撃は扇で受け止められる。俺たちを受け止めてジョーカーは笑う。


「小生には勝てないんじゃないかな?」

「勝てるんだよそれが」

「俺たちはヒーローやからな」


 止められても止められても、俺たちは波状攻撃で隙を見計らう。どう動けば、ジョーカーはどう防ぐ。晴人はどこまで俺に合わせられる。考えろ、攻撃も思考も止めるな。


「思考を巡らせてる? 攻撃に迷いを感じるよ」

「喋んな、舌噛むぞ」


 俺は紋章が刻まれたカードをグラムにかざす。だが今までの技では勝機はない。だったら、今から変わればいい。仲間を受け入れたように、今の弱さも受け入れろ。


『トドメ! イチゲ――』

「いや、足りねぇな。一撃じゃお前を倒せない、だろ? ジョーカー」

「何をしても小生は倒せないよ」


 勝手に言ってろよジョーカー。俺はグラムから聞こえる声を遮るように、何度も。何度も何度もカードをグラムに当て続ける。何かが変わる気がした、そんな曖昧な勘だけで動いている。

 カードを当て続ける俺は隙だらけ。そこを当然ジョーカーが狙うが、ハッピーセットがそれを許さない。


「もうちょい待っとけよ、多分すごいのかまされんで」

「そんな予感がするから焦ってるんだよ小生は。どいてよおまけくん」

「おまけに飽きんの早すぎるで、もうちょい遊んでえな」

「お断りしたいんだけどなぁ……」


 晴人の隙をついて俺に近付こうとするが、それは叶わない。二本の武器を上手く使い、ジョーカーの動きを完封している。


「晴人、でかした」

「親の仇、バシッとやっつけたり」


 腹部に一発。重い音がなるレベルの右ストレートをジョーカーにかますと、晴人は俺が立ち回りやすいように気を利かせてか、少し距離を取ってくれる。


「――ッ!」


 カードを何回当てただろうか、覚えていないが、グラムが異様なオーラを発していることは分かる。


『トドメ! ミダレザキ!』

「闇桜」


 グラムが纏うオーラを空に解き放つように、俺は不規則に斬撃を飛ばし続ける。それはジョーカーに掠りもしない。


「どこを狙っているのかな? 小生はこの場から動いてないのに当たってない……え……」

「気付いたか」


 無数の斬撃は黒く発色し、ジョーカーの周囲に停滞し続ける。まるで木の先で咲くのを待つ蕾のように。


「咲け」

「っ!?」


 空中に停滞した斬撃は俺の言葉に応えるように、細かな斬撃となってジョーカーを斬りつける。幾重にも展開され続ける闇の斬撃は、ジョーカーの鮮血を纏いながら舞い散っていく。

 無造作に散るように見える斬撃の花びらだが、ジョーカー以外に当たることなく、確実に傷を与えていく。


「終わりだジョーカー、ここでお別れだ。お前とも、マオウ軍とも」

「小生を倒しても……まだ何体かはマゾックがいる。そいつらがきっとマオウ様を復活させる……それに小生だってまた……」

「諦めろよ。何体マゾックがいようとも、俺たちがいることに変わりはない。何度だって潰す、それだけだ」


 斬撃が止むと同時に俺はもう一度グラムにカードを当てる。


『トドメ! イチゲキ!』

「晴人、合わせろ。相乗りさせてやる」

「よっしゃ! 妹誘拐の件落とし前つけさせる!」


 随分弱らせたが、あと数撃は耐えるだろう。だったら、こいつにも手伝わせよう。こいつもジョーカーに因縁があるしな。


『サワゲ! キゲキ!』


 二本の武器を地面に突き刺し、交互にカードを当てる晴人。それに応えるように武器はバチバチと火花を散らして騒いでいる。持ち主に似てとても騒がしい。


「どでかいの打ち上げる! カーニバルバースト!」


 真っ向から突っ込む晴人はまず一撃、胴体に軽めの斬撃を入れる。バン! と大きく音を立てるその攻撃は、鮮やかな光の花を咲かせて大袈裟に輝く。


「どや、すごいやろ。発想の勝利や! ほらリアム、フィナーレぶちかませ!」

「良いサポートだ」


 無数の花火と共に打ち上げられたジョーカー。見据えるように俺はグラムを構える。


「暗黒大斬撃」


 大きく飛ばす斬撃で、打ち上げられたジョーカーを追撃する。


「くそ……小生がやられる……とはね」

「お前のおかげで俺は人と関わりを持てたと思う。そこだけは礼を言ってやる」

「律儀なんだね……あぁマオウ様……やはり悪はそう簡単に栄えないようですね……」


 花火の残響が響く中、ジョーカーは静かに存在を消滅させた。


「終わったん……か?」

「あぁ、終わった。ジョーカーとの戦いはな」

『トドメ! ミダレザキ!』


 ジョーカーは消滅した。だが、ジョーカーが残した戦闘員はまだ聖たちと戦っていた。


「闇桜、咲け」

「その技の範囲どないなってんの」

「未知数」


 聖たちには当たらないように調整しながら斬撃の花を咲かし続けて、数十秒後にようやく全ての敵を掃討することが出来た。視界にはもう変身を解除した聖たちしかみえない。


「リアムくん! やったね!」

「キレイな技だったわよ、アタシが褒めてあげるわ」


 全員ボロボロの姿で、立っているのもやっとだろうに、楽しそうに笑い合っている。これが仲間ってやつか。


「お前ら、あんまり動くと体に響く。スチュアートが迎えにくるまで大人しくしとけよ」


 周りに言い聞かすように言うが、正直自分に言い聞かせている節もある。戦っている時はドーパミンが出て感じなかったが、あちこちが痛い。特に腕が悲鳴を上げている。闇桜を出す際に、自分の限界を越えた速度でグラムを振り回しているからだろうか。あの技は連発出来ないな。


「りぃちゃぁん、他人の心配するほど優しかったぁ?」

「何言ってるんですの? リアムさんは不器用ですけれど優しさは誰よりも持ち合わせていますのよ?」


 大人しくしてろってのに、ジンと桃谷が討論を始めだした。


「へいへーい! 優しい優しいリアムっち、この偉大な先輩のアシストでスムーズに仇を取れた感想はどうよ」

「この俺の最高サポートも忘れてもらったらこまるでー!」


 喧しいのが二人、俺を左右から挟む。こいつら落ち着きがなさすぎる。


「助かったのは事実だ。ありがとう」

「き、気にすんなよ……」

「お、おう……」


 なんだこの歯切れの悪い反応は。人が素直に感謝してるってのに、酷い連中だな。


「なんか素直なリアムって調子狂ってまうな……」

「蹴られたいみたいだな」


 失礼なことを言う晴人に必ず蹴りを加えようと決意しながらスチュアートを待っていると、聞き慣れたエンジン音が耳に飛び込む。どうやら迎えが来たようだ。

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