28撃 リアム、俺ら2人でぶちかますぞ!

 ***


   

 自宅。

 俺はリビングのソファに深く腰掛けながら、アヴァンズに囲まれていた。


「事情は全てわかった、私たちはマオウ軍を倒すよ。でも私たちだけじゃ勝てないかもしれない」


 聖は、半円形に並ぶメンバーの顔を確認して、ワンテンポ置いてから言葉を発した。


「改めて言うね。リアムくん、アヴァンズとして一緒に戦おう」

「足引っ張ったら速攻で関係を解消する、そこは忘れるなよ」

「言うねぇ、逆も然りってことも忘れないでよ」


 挑発を返してくる聖は、にやけながら俺の隣に座る。


「生意気ね、顔は好み」

「近寄るなオカマ」

「あぁんその視線ヤ・ミ・ツ・キ」


 俺の前に立つオカマは、ごつい腕を前に突き出す。


「アタシは風山・ラフォーレ・岳志。ラフォーレお姉さん、とでも呼びなさい」

「ごつい、暑苦しい」

「アンタほんっといい性格してるわ」


 岩のようなオカマを視界から外して、俺はジンに言葉を投げる。


「俺も変身できたからな」

「知ってるよぉ、そもそも時がくれば変身できることは昔に師匠から聞いてたしぃ」


 なぜ改めて言った? みたいな雰囲気で返事するジンは、スチュアートの方へ行く。


「リアム、俺っちもリアムに負けないくらい強くなるからな」

「勝手になっとけ。それと、なんだ……桃谷のこと助けてくれてありがとう。あの時だけはカッコよかったぞ」

「やっと俺っちの良さに気付いたか、その調子で敬っていいぜ?」

「無理」


 敬えとだる絡みしてくるグエンは、笑顔の桃谷に突き飛ばされて俺の前から強制退場する。しつこくてうざかったのだろう、その気持ちよく分かる。


「リアムさん、これからは一緒に戦えるなんてワタクシ嬉しいですわ。秘密を知ってる特別感が失われるのは名残惜しいですけれど」

「今までも俺と桃谷は一緒に戦ってただろ」


 桃谷は嬉しそうにしているが、俺からしたら別にいつもと変わらないんだけどな。


「なぁんか嬉しそうだねリアムくん」

「別に?」

「リアムちゃん、みんなと仲良くできて嬉しいんだよねー」


 俺の気持ちを解釈して話しているつもりだろうが、全然違う。やめろお前ら、そんな目で俺を見るな。

 こんなに騒がしいのは嫌いだったはずなんだけどな、何故か少し心地良いと感じている俺がいる。が、そんな和やかな雰囲気も束の間。


「坊ちゃん、皆様。レアルタにジョーカーが出現しました!」


 リビングには警告音。その音はジョーカーの出現を知らせ、モニターにはその姿が映し出されている。


『リアムくーん、生きてるよね? 早くおいで? 小生待ちきれないや。この抑えられない高揚感は街を壊して誤魔化しとくね』

「こいつだいぶ頭イカれとんな」


 無作為に破壊行動を取るジョーカーに、街で平和を楽しむ市民は恐れ慄き逃げ惑う。モニターを見て率直な感想を漏らす晴人に同調してしまう。


「とにかく行くぞ、このままじゃ死人が出る」

「そうだね! 急ごう!」

「リアム、俺ら2人でぶちかますぞ! マブダチパワー炸裂や」

「それはマブダチしか出せないパワーだぞ」


 闘志を震わせ外へと出ていく晴人に投げかける言葉に対し、「俺らなら問題ないな!」なんて言いながら本人はマブダチと言い張った。

 そんな晴人に続くように聖達も順番に外へ出る。表には使用人が車を持ってきている。


「姉貴、晴人の妹助けてくれてありがとな」

「いいよ、リアムちゃんのマブダチの妹ちゃんだもん」

「だからちげぇって」


 どうあがいてももう、晴人とのマブダチというレッテルは拭えないらしい。


「あの……」

「ん?」


 グラムを握りながら晴人たちを追おうとする俺だったが、背後からオドオドと声をかけられる。だが声の主は姉貴ではなく。


「晴人の妹か、どうした」

「今から危険なことするんですよね……?」

「そうだな、決して安全とは言えないな。晴人が心配か?」


 あんなやつでも、この子にとっては大切な家族。心配になるのも当然か。


「いえ。うちのバカ兄貴は……調子乗りでクソ雑魚やから、皆さんの足引っ張ってまうかもしれん。それが心配で」

「そうか、けど大丈夫だと思うぞ」


 口ではこう言っているが、実際はシンプルに怪我などを心配しているんだと思う。素直じゃないな。


「聖たちも、俺もいる、それに、あいつは強いぞ」

「リアムさんがそう言うんやったら、うち信じときます。バカ兄貴をよろしくお願いします」


 姉貴や晴人の妹に見送られながら、俺たちは暴れるジョーカーの待つレアルタへ向かった。


   

 ***


   

 レアルタに着くとすぐ、街の大破損が目に付く。もうすでに数々のビルは見る影もなく、大抵が一階建くらいにはなっている。


「やぁ、来たね」

「来たね。とちゃうねん、どつき回すぞクソが」

「ちゃんと生きてて小生嬉しい」


 街を壊す攻撃を止め、俺たちの前に立ち塞がる最大の脅威。勝てる保証はない。だが、今はなぜか負ける気がしない。


「もっと喜べ、今からお前の人生を終わらせてやるからよクソ野郎」


 今までのジョーカーにはなかった、悦に浸るような、理性が飛んでいるような表情を見せながら、奴は言う。


「多数で攻めてくるのに随分強気じゃないか。小生も数の暴力でいかせてもらおうかな」


 数の暴力、痛いところ突いてくるじゃないか。

 ジョーカーがパチンと指を鳴らすと、地面の底から大量の雑魚そうな敵が現れる。要するに下っ端の戦闘員ってやつだな。


「みんな! 行くよ!」


 襲いかかる戦闘員を各々の武器で斬りつけながら、俺たちは数を減らしてジョーカーに近付こうとしている。


「変身!」


 斬りつけてそのまま聖は叫ぶ。


「燃やせ正義の炎! アヴァンフレイム!」


 炎を纏った大きな一振りは、聖を囲む戦闘員を数十体を軽く吹き飛ばす。だが数はまだまだ減ったことを実感できない。恐らく次々出てくる仕組みなんだろう、数の暴力なんてレベルじゃねぇぞ。


「へんしぃん! 泳げ大海! アヴァンアクア!」

「変身! 走れ雷光! アヴァンサンダー!」


 ジンが砕いた地面にバランスを崩された戦闘員を、グエンが雷を乗せた矢で追撃。何発も放たれる矢で、幾多もの戦闘員を痺れさせている。


「アタシたちも行くわよ! 変身!」

「ええ、遅れをとるわけにはいけませんわ! 変身!」


 槍と杖での乱舞ののちに変身する桃谷とラフォーレは変身する。


「大自然にジュ・テーム! アヴァンリーフ!」

「桃色の癒し! アヴァンピーチ!」

「全員に強化魔法をかけれるかしら?」

「ええ、もちろんですわ!」


 半歩下がる桃谷は杖を上へと掲げる。そして、俺を含めた他のメンバーの上に魔法陣が現れる。

 体がジワジワと熱くなる感覚が数秒続いた後、その熱は消える。


「うぉぉぉ! なんか強なった気がする! よっしゃ俺らも行くで! 変身!」


 晴人は、強化魔法を実感しているらしく、斬撃を繰り返しながら闘志をあらわにして変身する。


「騒げ祭りや! アヴァンシーフ!」

「お前まで名乗るのかよ……」


 いつ考えたのか。晴人まで嬉々として名乗り、そのまま戦っている。素早い斬撃で敵を翻弄しながら確実に一体ずつ仕留めている。


「リアム、はよ変身しいや。ちゃんと、するんやで」

「……変身」


 ちゃんと。その言葉の真意はきっとそういうことなんだろう。


「蹴散らす暗撃……アヴァンダークネス!」


 ここに来るまでに、晴人から教えられた名乗りをそのまましたが恥ずかしくて顔が茹で上がりそうだ。顔まで隠れる全身スーツでよかった。

 その恥ずかしさの捌け口にするように俺は、近くの戦闘員をことごとく叩きのめす。


「八つ当たりしとるやん、うける」

「うるさい、さっさとジョーカーのとこまで行くぞ」

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