26撃 小生はまだ消えるわけにはいかないんだ

『変身! みんな行くよ!』

『応!』


 聖に呼応するように各々が変身し、全員がジョーカーを警戒してアヴァンチェンジャーを構える。


『あらら、小生すごく嫌われてるみたいだね』


 呑気に言うジョーカーは、パチンと右手の指で音を響かせる。


『手伝ってよ、銀狼』

『……』

『ありがと』


 無言の銀狼だが、剣先はアヴァンズへ向いていることから、意思の疎通は出来てるようだ。


『私はジョーカーを!』

『ならアタシは銀色の彼をお相手するわねん』


 言いながら大胆な歩幅で詰め寄るオカマは、『適宜サポート頼んだわよ』と仲間の援護を促す。


「スチュアート、俺も行く。あいつの相手は俺がする、聖じゃない」

「そう言うと思い、すでにバイクは前へまわしております」

「さすが」


 バイクの鍵を姉貴から受け取り、俺はすぐさまジョーカーが現れているレアルタへ。


「認めたくないがあいつの戦闘力は高い。銀狼に関しても強い。少なくとも今のあいつらでは勝てないな」


 かと言って、今の俺でも勝てるかは断言できない。

 それほど不利な戦いだが、挑まなければいけない時がある。


「はぁ……。自分より劣る存在を相手にするのは退屈だなぁ」

「ほざいてろよ。今からその劣る人間がお前をぶちのめしてやるから」


 聖たちに身バレしないようにすでに変身している俺は、開口一番でジョーカーに斬りかかる。


 だがその一撃は軽く扇で受け流される。


「わぁお! やっぱり生きてたんだね! 小生嬉しいよ!」

「俺は憎くて憎くて仕方ねぇよ」


 剣筋を読まれないように脱力しつつ剣撃を繰り出すが、赤子の手をひねるように流される。

 この扇が厄介なのか? それともこいつの戦闘センスが俺より上なのか?


「単調な攻撃では小生を倒せないよ? あの男みたいにテクいの見せてよ」

「それは父さんのこと言ってんのか?」

「そうだよ。彼は君と比べて慈悲がなかったからね。それはもう凄かった」


 なんだか引っかかる言い回しだな。


「まるで俺に慈悲があるみたいに聞こえるぞ」

「そう言ってるんだよ」

「あ?」


 相変わらず決まらない剣撃を繰り返しながらも、俺はジョーカーと言葉を交わしている。


 戦いの中で会話をするのに神経を使うが、ジョーカーは全然平気そうな顔ですかしている。


「彼ならあの時、小生の暴魔風から仲間を庇ったりしなかった。目的のためには仲間も利用する。そんな男だったよ」

「庇ってねぇ……お前の目論見を阻止しようとしただけだ」

「嘘が下手だね」


 ジョーカーから聞かされる父さんの人物像。

 きっと父さんは平和のためにそうするしかなかったんだろう。スチュアートから聞く話は、どれも人徳者のような印象を感じた。


「嘘じゃなく事実を述べただけだからな。わかったフリしてイキんなよ」


 斬撃を繰り出す動きを囮に、俺は多少無理な体勢から一撃重い蹴りをお見舞いする。


「……っ! やるじゃない。小生もちょーっと真面目に――」


 ジョーカーがニヒルな笑みを浮かべながら扇を構えようとした時、口から鮮血が滴り落ちるのを見た。


 なんだ? クリティカルヒットしたか? いや、違うな。今の一撃でくらったダメージだとは思えない。


 外部から受けた衝撃からのダメージではなく、臓器などの損傷、内部からのダメージに感じる。


「なんだ、持病か?」

「そんな概念、小生たちマゾックにはないけど……似たようなものかな」


 先程まで浮かべていた余裕の笑みは消え、今では顔に苦痛が浮かんでいる。


「まだ体と魔力が馴染んでいなくてね。今日は帰らせてもらうよ」

「そうか、またな。とはならねぇぞ?」


 明らかにジョーカーは今、確実に弱体化されている。

 卑怯かもしれないが、この機を逃せばいずれ大きな損害になる。


「銀狼」


 俺が斬撃を繰り出す時、受けながすように剣先を当てていなす銀狼。


「……」


 相変わらず言葉を発さないが、敵ということに変わりはない。邪魔をするなら斬るまで。


「どけよ銀色」

「……」


 剣を交えてわかることが、少なからずある。


 相手の真意であったり、戦う理由。色々な内情は剣筋に現れる、俺はそう教わった。

 だが、こいつからは微かな怒りと悲しみしか感じない。


「何に怒ってる? 何が悲しい?」

「……」


 左足を軸に右で銀狼を蹴ろうとするが、察した銀狼はそれをかわし俺へカウンターを仕掛ける。


 グラムで受け止め、そのまま一定の距離を保つ。


「お前は一体何者なんだよ、言わないなら蹴るぞ。言っても蹴るけど」


 こいつだけはどうしても、どうしても蹴り飛ばさないと気が済まない。


「ダークネス! ここは一旦私が受け持つから、君はジョーカーを!」


 そう言って、聖は俺と銀狼の間に割り込み、銀狼の意識を自分に向ける。


「あるんでしょ? 因縁!」

「……恩に着る」


 聖と銀狼が睨み合う状況から背をむけて、俺はふらふらとその場から去ろうとするジョーカーへ声をぶつける。


「今ここで、俺はお前をぶちのめす!」


 グラムを力強く握り、それに呼応するようにグラムからは熱い力を感じる。


「ふふ、どうやら小生は君を甘く見ていたみたいだね」

「そうだな」


 意識を剣先と標的に絞り、ゆっくりとグラムを構える。


「まぁ君も小生のことは言えないけどね?」


 あ?


「暴魔風!」

「しまっ――!」


 残りの力を全て振り絞ったのか、ジョーカーは吐血しながら最後の抵抗をする。


 最悪だ。完全に油断した。


 しかも以前食らった技だぞ。あー、くそ!


 暴魔風の射線上には聖がいる。せっかく気を利かせてくれたのに、このままでは申しわけが立たない。


「衝撃に備えろ!」


 聖の前に立ち、俺はグラムを構えて攻撃をある程度いなす。

 聖を守ろうとすると、近くにいる銀狼も守ることになるが今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 以前の時と比べて規模が大きい。


 奮闘虚しく、俺は当然のように押し負けて後ろにいる二人も一緒に飛ばされる。


「……クソが!」

「また飛ばされた!?」

「……」


 俺もそうだが、聖は吹き飛ばされるのに少し対応していた。

 二度目ともなると少しはなれるみたいだ。


「じゃあね、小生はまだ消えるわけにはいかないんだ」


 そうこぼすジョーカーは、苦しさを堪えながらニヒルに笑った。

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