24撃 強調する必要あったか?

 こんなもんか? とでも言わんばかりに、片手でクイっと俺を挑発する。クソ腹立つ、何がなんでも蹴り飛ばさないと気が済まない。

 次の攻撃で仕留める。そう決めた時――

   

「――思考が浅いんじゃない? サリバン・リアムくん」

「は……!?」


 俺のグラムと、銀色が持つ剣の二つが交わる時、背後から聞き覚えのある声が響く。その後、腰に鈍痛が響く。


「てめ……!」

「強いでしょ、この子。さぁ銀狼、小生と二人で片付けようか」


 急に湧いて出た親の仇は、着物の帯に刺した刀に手を乗せる。


「……」


 前後から迫り来る脅威。どう来る? どう攻める?

 銀色は素早い斬撃、それをかわす俺の動きを予測して仇は攻撃を仕掛けてくる。


「……っ! クソ邪魔!」

「……」


 一方だけでも苦戦を強いられる敵が二人。めんどくささは桁違いすぎる。親の仇を仕留めるために攻撃を仕掛けても、自由に動くことは銀色が阻止して来やがる。


「小生を倒したいよね、でも銀狼が邪魔だよね、もどかしいよね」

「煽ってんのかクソ野郎が」


 不快感が蓄積していく。分かってる、挑発に乗るだけ無駄なことくらい。もし挑発に乗っても動きに荒さが現れ綻びる。


「小生がトドメを刺してあげるね、あの世でお父さんと仲良くね」


 殺気を纏い、振り下ろされた刀。

 グラムは銀色に弾かれ手元にないし、背後にはその銀色がスタンバイしている。俺が避けたところを攻撃する魂胆だろう。バカでも分かる、これは詰みだ。

 親の無念を晴らそうと奮起しても、実力が伴わなかった。それだけだ。


「させない!」


 刀が俺の首に触れるか否かの瀬戸際。聞きなれた、正義感に溢れる声が響く。

 一瞬刀の動きが止まった時、綺麗な軌道を描いて光の矢が仇の手を射抜き、刀が地面に落ちる。


「いつも俺っちを見下したようなそぶりのダークネスは、こんなとこで終わんないっしょ? 一旦頭冷やせ、俺っちたちより強いんだから一対一なら負けないっしょ」


 矢を二撃追加で放つグエンは、落ちた刀を狙い、仇から遠ざける。


「ミステリアスないい男が消えるのは世の損失よねん。せめてアタシに顔拝ませるまでは死なせてあげないわよん」

「ダークネスはなぜか親近感あるし、いつも助けられてるからなぁ。助けてやるよぉ」


 槍と斧の波状攻撃で銀色を遠くへ飛ばす、脳筋寄りな二人。そのまま戻れないように銀色の前方をガッチリ防ぐ。


「回復しますわ! 体力も少しなら回復できるようになりましたの!」


 俺の背後に回る桃谷は、背中に優しく触れて魔法を使用する。


「無茶しすぎですわよ、ワタクシ達のことをいつも助けてくださるんですもの。みんなあなたの力になりたいと思ってますわよ」

「別に助けたつもりはねぇよ……けど、ありがとな」


 浅くなっていた呼吸が正常に戻り、肺も苦しくなくなった。少しなら、なんて言っていたが十分すぎる。


「ダークネス! 一緒に! 戦うよ」

「強調する必要あったか?」

「だってダークネスの戦いって独りよがりで悲しくなるんだもん」


 立ち上がり仇を睨みつける俺の隣に立ち、聖は俺に共闘するよう念を押す。


「ムカつくなぁ……小生は独りで死んでいく君を見たいのに。あの男のようにね。戦いに燃え尽きて孤独のまま死にゆく姿は見てて美しい」

「悪趣味が……」


 もうこの際なんでもいい、口を開けば俺を不愉快にさせるこいつを倒せるなら、アヴァンズにだろうがなんだろうがなってやろうじゃないか。


「合わせろよ」

「任せてよ!」


 直線で走り込む俺はそれだけを言い残し、グラムを仇へ振り下ろす。


「つまらない」

「……!」


 俺の大振りの斬撃を、小さな扇でいとも容易く止める仇は、退屈そうに周りを見渡す。どんなに力を込めようとも、びくともしない。フィジカルが異次元、どんな筋肉してんだよこいつ。


「その他諸々が邪魔!」


 仇は、俺の斬撃を止めたまま。


「漂う魔力に小生、ジョーカーが命ずる。乱舞する空撃で全てを薙ぎ倒せ」


 二秒ほどの静寂の最中、空気が周囲に圧をかけるように体が重くなりはじめる。廃工場の窓や、置かれた機械は派手に損壊していく。


「何しやがった……!」

「まぁ見てなよ、君以外が吹き飛ぶ爽快な景色をさ」


 表情を踊らせ、高らかに笑う仇ジョーカー。今すぐグラムをもう一度振り下ろそうとした時、見えない何かが聖を襲う。

 それを合図にするかのようにジンたちもその体を宙に舞わせる。


「暴魔風、吹き飛ばせ」

「させるかよ!」


 聖たちを襲う見えない何かは、動きが計算されているように思える。現に、全員中央に集められている。そこになぜか銀色もいるが、目的はただ一つだろう。


「俺以外を退場させる気だろ? だったら俺がこの集まりにいれば暴魔風とやらは出せねぇだろ」


 こいつらは攻撃を喰らいすぎている。暴魔風がどんな攻撃かは知らないが、これ以上危険になれば命に関わる気がする。


「……! 戻って来るんだ! もう魔法は発動している!」

「マジかよ……」


 ジョーカーの思考を完全に読んだ気でいた。だが実際は違った、すでに魔法は発動され、俺の足元はグラグラと揺れ動いている。


 次第に、俺を含め密集している聖たちを、地面から吹き荒れる強風が浮かせ始める。そして強風がさらに強くなっていく。


「……小生は、君の死を見届けられなくて残念だよ。じゃあね」


 悲しげな瞳で俺を飛ばす暴魔風を眺めるジョーカーの表情がほんの一瞬目に入り、そののち廃工場の天井を突き破り散り散りに飛ばされていく。


   

 ***


   

「坊ちゃん! ご無事ですか!?」

「なんとかな……」


 完全にしてやられた。

 俺たちは分断され、仇であるジョーカーにまんまと逃げられてしまった。


 姉貴が俺を黒魔法で俺を家まで飛ばしてくれなかったら今頃迷子だろうな。馬鹿みたいに長距離に飛ばしやがって。


「リアムちゃん、大丈夫?」

「ああ、助かった。あいつらは?」

「みんな怪我はしてるけど、なんとか無事だよ」


 姉貴に「なになに? 優しいじゃぁん」なんて揶揄われながらも、俺は怪我の手当てをする。


 ただ包帯を負傷箇所にグルグルと巻き付けて、カーゼが落ちないようにしっかりと固定。だが手際の悪い俺を見かねてか、姉貴が代わりに巻いてくれた。


「なぁスチュアート、ジョーカーを倒す方法、なにか知ってるか?」

「……いえ、残念ながら。旦那様も過去に仕留め切れていないため、現状では倒す算段は一切ないでしょう」


 悔い締めるように渋い顔をしながらそう断言するスチュアートは、父さんの肖像画を仰ぐ。


「リアムちゃん。仇のことは気になるだろうけど、今は他のマゾックや、銀狼? とかいう人を倒すのが先決なんじゃないかなってお姉ちゃんは思うよ」

「確かにそうかもな……」


 ジョーカーだけを追いかけても、他にも敵はいる。銀狼と呼ばれる敵は強かった。

 おそらくアヴァンズだけでは苦戦するだろう。


 任せきりにはできない。


「今はあいつらを適度にサポートしながら様子でも見とくわ」

「うんうん! それがいいよ!」


 満足そうに笑う姉貴は、「今日はもうゆっくり休んで」と優しくささやいた。

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