21撃 ボムゥ!?

 ***


   

 派手に爆発して倒壊していくビルの数々。そこをしばらく走ると、大暴れするマゾックが視認できる。カチカチと響く音は、あのマゾックから出てるのか?


「俺はここで待ってるから頃合い見て戻ってきてくれ」

「承知しましたわ、助かりました」

「気を付けろよ。凶暴らしいから」


 バイクの後ろから降りる桃谷はヘルメットを俺に預けて勇足でマゾックのもとへ、倒壊するビルの数々を駆け抜ける。


 近付く桃谷は、何もないところから浮き出すように杖を取り出し、物理攻撃を先制で仕掛ける。


「ボムゥ!? な、なんだボム!?」

「街の破壊は許しませんわよ。変身!」


 頭を抑えて驚きの様子を見せるマゾックは、変身する桃谷を見て警戒を高める。


「お前……あの方が言っていた奇怪な五人衆ボムね?」

「あの方……? 誰のことかしら」

「質問に質問で返すとは、なってないお嬢さんボム! お仕置き爆弾プレゼントボム!」


 目に見えないほどの速度で腰から何かをちぎり、桃谷に投げたマゾックは嬉々として解説する。


「それは衝撃で爆発する爆弾ボム! この爆弾マゾックの十八番技ボム!」

「わざわざ説明ご苦労様ですわ。ボン!」

「ボム!?」


 自信満々に投げられた爆弾は、桃谷に届くことなく空中で爆発した。桃谷の空撃は、精度が高く威力のコントロールもなかなか上達してきていた。


「萌香ちゃんお待たせ!」


 一芸を披露しマゾックを気圧させたところ、タイミングよく聖たちも徐々に集合し始める。


「みなさん、このマゾックはあまりにも危険ですわ。はやくケリをつけますわよ」

「りょ! 俺っちの本気みせちゃる!」

「桃ちゃん随分強くなったわね、努力する人好きよ」

「いいね、がんばろぉ」


 自然に横並びになる五人。桃谷以外の変身していない四人はキメ顔で武器を構える。

   

「「「「変身!!」」」」

   

 同時に変身する四人は、すでに変身済みの桃谷がすぐに馴染むほどカラフルな見た目になった。肉眼でマジマジと見るとなかなかに派手だなアヴァンズ。


「燃やせ正義の炎! アヴァンフレイム!」

「泳げ大海! アヴァンアクア!」

「走れ雷光! アヴァンサンダー!」

「大自然にジュ・テーム! アヴァンリーフ!」

「桃色の癒し! アヴァンピーチ!」


 スムーズに名乗りを終えると、聖が場を引き締めるように大きく声をあげてあのセリフを言う。


「アヴァンズ! 早めに片付けるよ! さぁ、正義を燃やそう!」


 聖の合図とともに各々攻撃の体制に入るアヴァンズだが……。


「刺激が足りないボム」


 激しい爆風が辺りを包み込む。


「何が起きたの!?」

「やば……俺っち意識飛びそ……」


 離れたところから見ていた俺だから分かった。五人の名乗りの間に、マゾックは極小の爆弾を投下していたんだ。それもおそらく衝撃で爆発するものだろう。五人が力一杯地面を踏み込んだ時が起爆の合図だ。


「ワタクシも……油断しましたわ……」

「足挫いたぁ……!」


 爆発に巻き込まれ深い傷を負う五人に、爆弾マゾックは躊躇なく追加で爆弾を投下する。五つの爆弾は、密集して倒れる五人に一つずつ飛んでいく。


「随分と太っ腹なことしてくれるじゃなぁい? 全部……防ぐけどねん!」


 仲間を護るため、五つの爆弾を一手に引き受けるオカマだが、マゾックの投げた爆弾は一味違った。


「防ぐ? 甘いボムね」

「――ッ!? やってくれるじゃな……」


 爆弾の軌道がランダムに変わり槍で受け流すことの出来なくなった途端オカマは、槍をマゾックに向けて投げたのちに自分の体で全ての爆弾を受け止めた。


「ボム!? 相打ち覚悟ってわけボムか……! それに爆弾を五つ喰らっても死なないだと!?」


 マゾックの左腕を掠めて地面に刺さる槍。その槍の持ち主は、身体中から血を流し、目の焦点が定まらずフラフラしている。


「オカマのフィジカルなめんじゃないわよ! 爆弾こときで死んでたまるもんですか……」


 そうは言うが、倒れたきり起き上がる気力は残っていないようだ。

 このまま放置すればシャレにならないほどの出血量だぞ。

   

 他のメンバーも、余力はほぼない。対するマゾックは左腕に軽傷を負っているだけで、まだピンピンしている。このままでは全滅が安易に想像できる。


「……強すぎる!」

「俺っちたちじゃ勝てなくね?」


 わずかに残る気力で立ち続けるのは、剣を握る聖と、弓を構えるグエン。


「まだ立つボム? しつけぇボムなぁ! マゾック軍が誇る傑作、爆弾マゾックがここ一帯を消し飛ばしてやるボム!」


 聖たちに、ジリジリと近づく爆弾マゾック。両手を上に突き上げ、なにやら力を溜めている。だが現状、この場に動ける人物なんていないぞ――俺を除いては。


『そろそろ必要でしょ?』

「……ああ、ちょうど今頼もうと思っていたとこだ」


 地面に魔法陣が展開され、姉貴の声の後に俺の魔剣グラムが現れる。俺はそれを掴むと、一息。前回の変身を思い出せ。

 今護るべきは、この街とこいつら五人だ。


「これで終いボムゥゥウ!!」


 トドメを指す気満々で、激しく叫ぶ爆弾マゾック。


「――変身」


 言うや否や、俺はマゾックの方へと一気に詰め寄る。


「――ッ!! 誰ボム!?」

「誰でもいいだろ」


 退治に時間はかけてられない。聖たちが回復すれば厄介だ。

 素早い斬撃と、以前スチュアートに渡された紋章が刻まれたカードを使って繰り出す必殺技で時限爆弾型の頭をカチ割る。


「ばかな……! 名乗りもしないヒーローに、この俺がやられるとは! 不覚ボム……」


 早々に倒してこの場を去ろうとした時。


「君は……誰なの?」

「……話す必要はない」


   

 ***


   

 トレジャー学院、一年棟。俺がアヴァンズの前に現れてもう数週間が経った。その間にもマゾックは現れ、何度か俺はあいつらのピンチを救った。決して馴れ合った訳じゃない、姉貴が桃谷を助けろとうるさいからだ。


「ここ数週間や! ここ数週間で聖お姉様が何回ボロボロになってたと思う!?」


 一年の教室が集合する、敷地内の一つの建物で騒々しい声が聞こえる。声の主は当然、一年内でトップを独走するやかましい代表の晴人だ。


「知らない、興味ない、うるさい」

「興味持てよ! もしかしたらバイオレンスなクズ男に引っ掛かってるんかもやで!? そこを颯爽と救えば俺もワンチャン……ぐへへ」


 クズな男とは、俺の前で下卑た笑みを浮かべている東晴人とかいうやかましい人間のことだろうか。


「お前の方がよっぽどやばいぞ」

「場を和ませる冗談やん、本気で心配しとんねん。言われへん事情があるんかもしれんけど、困ってるなら助けたい。そしてあわよくば好感度を上げて二人でお出かけする程度の中には発展したい」


 晴人の話を適当に聞き流しながら、俺は自分の席でスマホを触っている。姉貴や桃谷や聖やグエン。色々な人物にメッセージを返信しないといけない。今までなら確実にスルーしていたが、爆弾マゾック退治後に姉貴に諭されて、少し変われたかもしれない。


「本音漏れてるぞ」

「おっとうっかり」


 だがそうだな、こいつが騒ぐのも分かる。最近他の生徒たちも聖が傷だらけなことについて色々な憶測が飛び交っている。


「まぁ、気になるなら本人に聞けよ」

「どアホ! 聞けるかいなそんなもん、そもそも二年棟に行くのすら躊躇うわ。っちゅうか門前で会っても挨拶が限界やぞ」

「別にいく必要はないぞ」


 俺は晴人に、教室のドアの方向を見るように促した。

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