19撃 低俗下ネタ頭

 槍を間一髪でかわしたマゾックは、息を切らしながらも自称いい女の下半身を凝視している。


『お、おと、男……コス? 女……? いや、騙されないコス! お前はおと……』

『おい、潰すぞ低俗下ネタ頭。男じゃねぇよせめてオカマって言えや、あぁん?』


 一閃。まさしくそんな表現が相応しい右ストレートのパンチは、ヒクヒクと動かす先端を抉るように砕いた。


「かっくぃぃ! リアムちゃんあのオカマさんかっこいいよ!」

「変な人間に興味を持つのはやめなさい」


 姉貴が何かいけないものに魅了されそうで怖い。


『アンタたち、ほらシャキッとしなさいな! アタシと同じで変身できる子たちがいるって知って期待したのにこの始末』

『す、すみません……?』


 プリプリと怒るオカマに気圧される聖は、流されるまま謝罪を述べる。そしてそのオカマは、尻餅をついてまだ状況を理解できていないようなグエンの頬をガシッと掴む。


『それに、アンタはそもそも足手纏い。なんのために戦場にいるのかしら』

『俺は本気になれば』

『は? 本気になれば? 仲間が身を挺してアンタを護ってるのに出せない本気? 笑わせてくれるわね』


 挑発するように淡々とグエンを詰めるオカマ。


『敵前でおしゃべりとは舐めてるコス?』

『アンタ今邪魔。あとで潰してあげるから大人しく待ってなさい』

『コス……』


 ギロリと睨みつけられ、マゾックは大人しく待つことを選択した。おいマオウ軍それでいいのか。


『アタシ、言い訳に”本気になれば”なんて言う根性なし嫌いなのよ。タマついてんだろ、根性見せてみろよ』

『……初対面のくせに俺っちのこと随分貶してくれるじゃんゴリラ男!』

『挑発に乗って欲しいならまずは変わって見せなさいな。アンタはいつまでも理想の自分に縛られて過ごすつもりかしら?』


 マゾックが怖気付いた眼光すらものともせずに挑発するものの、完全に眼中に入れられていないグエンは諭されている。


『他の三人、アタシに合わせてねぇん。変身!』

『う、うん!』

『何が何だかですが……今は従いますわ』

『オネエさんの指示承認』


 取り繕うような猫撫で声で変身すると、雄叫びを上げてマゾックに突っ込んでいく。


『コスゥウ!? 急に一致団結!?』

『覚悟してね!』


 オカマが繰り出す槍の閃光を合図に、波状攻撃が始まる。

 桃谷が聖を強化し、強化された聖はジンと共にマゾックに斬りかかる。状況は優勢、このオカマが現れてから確実に状況が変化した。


『こ、こうなればぁ……コスゥゥ!!』


 最後の抵抗。そう言わんばかりの力任せのタックルをジンに炸裂させる。


『女性を一人攫って逃げてやるコス!』

『ワタクシですの!?』


 狙いを定めたマゾックは、多方面にトナースプラッシュとやらを炸裂させ、吹き飛ばされたジンだけでなく、オカマや聖も身動き出来ない瞬間が生まれる。


「リアムちゃん!」

「落ち着け、画面の端見てみろよ」


 桃谷が攫われると感じた姉貴は焦り、俺に向かうよう黒魔法を展開して促すが、その必要はない。三人が動けなくても、あと一人。


『俺っちを眼中に入れなかったのが敗因じゃんね』

『コスゥウ!?』

『ニュー俺っち爆誕! こっからが俺っちの本気っしょ! 変身!』


 弓を構えたまま、黄色の全身スーツに身を包むグエンは、自信満々にピースサインを掲げた。


『お前変身できたコス!?』


 グエンあいつ……オカマに挑発されたのがよほど悔しかったのか。


『その子は俺っちの後輩のお姫様につき、丁寧に扱ってよ。傷付けるってんなら俺っちがぶちのめす!』

『いい顔になったじゃない? アンタ連絡先教えなさいよ、今度アタシが可愛がってあげるわよ』

『いらね』


 オカマはグエンに目を付けたらしい。お気の毒に。


『すごい、全員変身した!』

『圧巻ですわね』

『弓使いやれば出来んじゃぁん』

『俺っちはそういう男なんよ』

『ほらほらアンタたち、ビシッとキメるわよ』


 変身した五人は、それぞれ聖を中央に整列する。

 何かを決意するように頷く聖は、一歩踏み出して声を発し始めた。


『燃やせ正義の炎! アヴァンフレイム!』


 武器を構えてその場に停止。そしてそれに続くジン。


『泳げ大海! アヴァンアクア!』


 またしても武器を構えてその場に停止。


『走れ雷光! アヴァンサンダー!』


 次はグエンが続いた。俺は今何を見せられているんだろう、なぜ各々名乗り始めたんだ? これ打ち合わせ無しだろ?

 疑問点は多いが俺は一つ、自分の記憶の中に答えを見つけた。

 これ、こいつらが主役の漫画の世界じゃん。出来て当然、こう言う演出なんだろうと考えると納得のいく疑問点だった。


『大自然にジュ・テーム! アヴァンリーフ!』


 そうこう考えているとオカマが名乗り終えていた。


「次だよ次! 萌香ちゃんもあれやるんだよきっと!」


 ウキウキとスマホでビデオ起動する姉貴は、それをモニターに向けて撮る気満々だ。


『桃色の癒し! アヴァンピーチ!』


 姉貴待望の桃谷による名乗りは数秒。その後聖が場を引き締めるように大きく声をあげる。


『アヴァンズ! 行くよ! さぁ、正義を燃やそう!』


 結局最後はそれで締めるのか。

 五人で一斉にマゾックを退治しにかかる絵面に、俺は数の暴力の恐ろしさを思い知った。一人一撃、それだけでマゾックは大爆発ののち生き絶えた。


「圧巻だったな……」

「それはそうでしょう。武器に選ばれた方々です、その方々が揃えば力を遥かに高めてくれます」

「でもなんか集団でいじめてるみたいだよね」

「ローズ様……確かにそうですが、相手は平和を脅かすマオウ軍。対するは変身できるとはいえ人間です。これは致し方ないのです」


 いじめ。と言われてもおかしくないが、マゾックと人間を比べれば数に頼るのは無理もないことか。あいつら特殊能力とか使うしな。

 それに、五人でレアルタに現れるマゾックを倒してくれるなら、俺はファンシルでの本拠地を潰す時間が生まれる。

 俺がそれを達成するまで、五人には漫画通り主役でいてもらおう。その方が動きやすいしな。

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