17撃 いや俺盾なんかい!

 ***


   

「グエンさん! おはざーっす!!」

「おうおはよう、今日も元気じゃん。いいね」

「あざーっす!」


 決闘に負けた日から、晴人はすっかりグエンの舎弟のようになっていた。


「あ、リアムっち。昨日大丈夫だった?」

「ああ、問題ない。グエンたちもちゃんと逃げれたか?」

「お、おう。俺っち達なら問題なく」

「そうか、なら良かった」


 俺を見つけたグエンは舎弟を置いて俺に話しかけてきたが、こいつも嘘が下手らしい。まぁ人としてはそっちの方がいいんだろうけど、隠し事があるならもう少し狡猾に立ち回れヒーロー。

 そんな馬鹿正直なグエンを置いて俺は、生徒会長に絡まれる前に自分のクラスに行こうとしていた。


「リアムくん! 昨日大丈夫だった!?」

「……問題ない、心配かけたな」


 絡まれた。俺に逃げ道はないんだろうか。


「なんか変な間がなかった?」

「気のせいだろ」


 訝しむ聖だったが、ケロッと切り替えるように笑った。


「無事で良かったよ。で、そんなことより萌香ちゃんの王子様ってほんと?」


 聖の口ぶりから、どうやら昨日のうちに随分桃谷と仲良くなったらしい。変身する女子高生同士、意気投合したんだろう。


「……」


 これ以上質問されてもめんどくさいだけだし、俺はグエンに媚び続ける晴人の首根っこを掴み教室へと向かう。


「あれ? リアムやん。あれ? 聖お姉様に話しかけられてない? お姉様無視したらあかんで」

「いいか晴人、時には先輩を無視することも、騒々しいクラスメイトを盾に厄介な先輩から逃げることも必要なんだ」

「いや俺盾なんかい! ついにニコイチを認めたんかおもてちょっと嬉しくなった俺のピュア返せ!」

「うるさい。あとつけ上がってさらにウザくなりそうだからグエンに媚びるのやめろ」


 ズルズルと俺に引きづられたまま移動する晴人はむすっと顔をしかめる。


「しゃーない、ボロッボロに負けたんやから。あいつ強すぎん? ガチでびびった」

「晴人が弱いだけだろ」

「……辛いけど否定できへん」


 自分の弱さを受け入れている点は賞賛に値するが、引きずられたままの晴人は周囲の視線を集めている。仲がいいと思われたくないから廊下で放置することにした。


「あれ? リアム? なんで置いて行くーん!」


 離れていく俺の背に言葉を投げる晴人。なぜそのまま廊下に座り込んだままなんだあいつは。自分で歩けよ。

   

 そんな賑やかな朝から始まる俺の学生生活は、休憩時間も飯の時も、晴人や生徒会長に絡まれる一日だった。


「リアム! ハンバーガー食いに行こうぜ!」


 放課後。教室から出ようとしたところを晴人に止められる。


「用事あるからパス」

「まじかぁ。なら一人で行くしかないか」

「大人しくまっすぐ帰るっていう選択肢はないのか晴人」


 明らかに残念そうに肩を落とす晴人に呆れていたら、背後からニョキっとグエンが現れた。


「よし、なら俺っちと行くしかないっしょ? 奢ってやっからついといで」

「マジすか! あざす!」


 晴人を引っ張って行くグエンは、バチんと俺にウインクを送ってきた。


「今度リアムっちにも奢ってやっから、そん時は付いといでよ?」


 そう言い残して学院からグエンは去っていく。俺も学園を出よう。早く帰らないと姉貴と桃谷が何か俺にとって不利益を起こすかもしれない。そう感じた俺は途端に寒気が走った。

   

「――ただいま」

「おかえりなさいましリアムさん!!」

「リアムちゃんおかえり」


 玄関まで出迎えてくれるのは、セーラー服を着た桃谷。長めのスカートの裾をひらひらとさせながらパタパタと俺に近付いてくる。どうやら桃谷はトレジャー学院付近にある女子校の生徒らしい。

 姉貴も玄関まで出てきて「セーラー服かわいいよねぇぐへへ……」なんてメロメロだ。


「桃谷、ファンシルまで来るの怖くなかったか?」


 レアルタに住む人にとってファンシルは、危険が多すぎるからな。そんな危険なところに呼ぶなんて何を考えてるんだ姉貴は。


「ええ、近くまで師匠が迎えにきてくれましたの」


 師匠……? 姉貴が迎えに行ける程度には気が利くことは分かったが、師匠……? 俺はそこにすごく引っかかった。

 だが桃谷は、姉貴を見て確かに師匠と言った。


「道中でカイブツ出たら危ないから、リアムちゃんが学校まで迎えに行ければ良かったんだけど、萌香ちゃんの方が早く終わるからね」

「いや、うん。そんなことより今姉貴のこと師匠って……?」


 脳みそがついていかない。もしかして俺が下校するまでの間で、師弟関係が結ばれたとでも言うのか?


「ワタクシ、王子様の力になるために魔法師としてリアムさんのお姉様に鍛えていただくことになりましたの」

「お姉ちゃんは黒魔法メインだけど、他のも使える秀才だからね」


 得意げに胸を張る姉貴は、ワシャワシャと桃谷の頭を撫でまわす。桃谷も満更でもなさそうにニコニコ笑みを浮かべている。俺の嫌な想像が実現してしまった。姉貴と桃谷の姉弟関係? 明らかに俺にとって不利益になるだろ。


「と言うことでリアムちゃん。萌香ちゃん連れてカイブツ狩ってきて」

「一人じゃダメなのかよ」

「それだと萌香ちゃんの今の実力わかんないでしょ」


 どうやら姉貴は、桃谷の現状を見てからどう鍛えるかを考えるようだ。そして流れるように俺を巻き込んできた。


「分かった。って言っても桃谷は回復系だろ? することは限られるぞ」

「侮ってほしくはありませんわよ。身体強化も可能ですわ」


 桃谷は自分が今出来ることを把握するために、アヴァンチェンジャーとの対話を試みたと言った。それによって、回復だけではなく身体強化も可能ということが判明したそうだ。

 あとある程度大きな杖のため、振り回せる筋力さえあれば物理も可能になると、アヴァンチェンジャーが提言したらしい。まず筋トレしたら?なんて思うが。


「とりあえず行ってみるか」

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