16撃 姉貴の好みなんて興味ない

 ***


   

 自宅、姉貴に包帯を巻かれながら紅茶を飲んでいた。今日買ったちょっといい感じのフルーツフレーバー。


「坊っちゃん、変身出来たのですね」

「ああ、桃谷のおかげでな」


 甘味と酸味が美味しいフルーティーな紅茶の、爽やかな香りが漂うリビングで、スチュアートは涙を滲ませていた。


「お姉ちゃんは、聖ちゃんの方がタイプだなぁ」

「姉貴の好みなんて興味ない」


 スチュアートが用意してくれた洋菓子を食べつつ、壁に飾るように置かれたグラムに目をやる。変身が出来なかった時より、心なしか輝いて見える。


「変身してどんな感じだった?」

「身体能力と防御力上がった感じ。視野も広がったし、強くなった」


 俺は感じたことを簡潔に話したんだが、姉貴に「雑すぎる」と指摘された。


「にしても坊っちゃんが自ら女性に連絡を渡すなんて珍しいですね」

「まぁ、最初にあいつが聞こうとしてたしな。聞きたいこともできたし」

「とか言って、おっぱいでしょおっぱい」


 確かにグラマーではあったが、断じてそんなことは考えていない。姉貴はどうしてこんなに低俗な思考を平然とさらけ出せるんだろうか。


「……疲れたから寝るわ」


 バカなことを言い出す姉貴をスルーしたいがために、まだ眠くもないのに自室に移動する。だがこの時、スマホを机に置きっぱなしで移動したことを俺は翌朝、大いに後悔することになる――


「――あ、リアムちゃんおはよー。今日の放課後、萌香ちゃんが家に来るから寄り道なしで帰ってきてね」


 午前六時。寝起きの俺はリビングに移動して、珍しく早起きしている姉貴に遭遇した。いや、それよりもなんて言った? 俺の耳には、桃谷が家に来るって聞こえたんだけど?


『おはようございます、リアムさん』

「……え?」

「昨日リアムちゃんが寝た後に萌香ちゃんから電話があってね。出ないのもあれかなぁと思って出たら仲良くなったよ!」

『リアムさん、いいお姉様ですわね。羨ましいですわ』


 寝て起きたら知らぬまに姉が俺の知り合いと仲良くなっていた。聖の方がタイプなんてほざいてたくせに。

 スマホを置いたままにした俺が悪いが、俺に電話を掛けたはずが見知らぬ狂った女と話すハメになった桃谷の気持ちを考えろ。朝まで通話をするくらいだから、心から嫌ではなかったんだろうけど、可哀想だ。


『リアムさんもお姉様も、世界の平和のためにマオウ軍と戦うなんて素晴らしいですわ!』

「姉貴から色々聞いたみたいだな」

「リアムちゃんが聞きたがってたことも聞いといたよ」

「俺姉貴に何を聞きたいか話したっけ?」


 姉貴はたまにしれっと超能力じみた才能を発揮する。行動だけでなく、思考も監視されてたりするのか? なんて思ったことはあるが、そんな魔法は存在しないらしい。


「アヴァンチェンジャーをどこで入手したか。でしょ? 聞きたかったことって。異空間で初めて現れたらしいよ」

「へー、みんなそんなもんなのか」


 グエンは知らないが、残りの二人も武器が急に現れた。本来アヴァンチェンジャーは条件を満たせば目の前に現れるものなのか?


「不思議だよね、特に武器と会話できるなんて」

「ああ、そうだな。と言うかそろそろ通話切ってやれよ、桃谷も多分学生だろ?」


 詳しい年齢は聞いていないが、おそらく同世代ってことだけはなんとなく分かっている。


「あ。ほんとじゃん、引きこもり感覚で話し込んじゃってた。ごめんね」


 引きこもりの姉は今から寝るだろうが、学生の俺たちには学校での退屈な授業がある。姉貴に電話を切らせた俺は、身支度をして朝ごはんを食べてから、学校へ向かった。

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