15撃 カプ!?


「――っ! 相手は女だぞ」


 斬れないと判断した俺は、自分の身で受け止める判断をした。


「関係ないカプ! 戦場に立てば性別の壁など関係ないカプ!」

「戦場に立たせたのはお前だろ、そう言うセリフは自ら立ったやつに言えボケ」


 右肩に響く鈍痛を誤魔化すように、俺の呼吸は浅くなる。

 小刻みに肩が揺れる俺を見ながら桃谷は、心配そうに見ている。


「その肩、しばらくは痙攣して剣を振れないんじゃないカプ? それじゃあ女を護ることは出来ないカプねぇ!」

「バカか、肉壁くらいにはなれるわ」


 俺を挑発しながらも、マゾックは壁になる俺に向けてカプセルを投げ続ける。頬を掠めたり、目に直撃したりで、肌や視界に血が滲むのを感じる。


「リアムさん! ワタクシのことはいいですわ! お逃げください!」

「心配するな、なんとかする」

「お前は自分の愚かさを心配するべきカプ! くたばれカプゥ!」


 渾身の一撃。そんな雰囲気でカプセルの投球フォームをするマゾック。これはちょっとまずいかもしれない。ダメージが蓄積しているし、これ以上は流石に気を保つ自信がない。


「――ワタクシは! やっと見つけた王子様の、力になりたい!」


 俺の目の前に割り込むと、桃谷は自分の胸に俺を抱き寄せる。そして、大きく声を上げた瞬間、周囲がうっすらと光り始める。


「桃谷、その姿……」

「何ですの、これ」


 俺を抱き寄せている桃谷の姿は、見慣れた全身スーツの、別カラーバージョン。スマホのインカメラで確認したピンクの全身スーツに困惑する桃谷だが、徐々に何かを理解したのか、納得したように何度かうなづく。


「どうした……?」

「どうやらワタクシ、治癒の力とやらを得たようですの」


 言うと、魔導士が使うような大きな杖が手元に現れる。


「ヒーリングシステム。起動ですわ!」

「……!」


 俺を中心として、ピンクに発光する魔法陣が俺の傷をみるみる癒していく。体の痛みなんてもうすでにない。


「なぜ変身できた?」

「分かりませんわ」

「そうか……」


 なぜ今ここで桃谷が変身できた? それが分かれば俺も変身ができるキッカケになるかもしれない。


「でも、ワタクシはリアムさんの力になりたくて願いましたの!」

「願った……」


 願うだけで変身できたっていうのか?


「すみませんリアムさん、どうやら治癒は体力を使うらしく……」

「そうか。だったらすぐここを出て安静にしないとな」


 さっきとは逆で、俺が胸に抱いている桃谷を一度背後に寝かせて、マゾックの前に立つ。


「回復したからって関係ないカプ!」

「全回復してんだ。もうお前に勝ち目はない、絶対に桃谷は守るぞ」


 グラムが存在を主張するようにオーラを放っている気がする。それに、思考が素早く回っている気がする。

 体の動かし方が、いつも以上に分かる。視野も広い。マゾックが次にどう動くかもある程度の予測ができる。


「俺……こんな気分は初めてだ。掴んだぞ、新たな自分のイメージ」


 スチュアート、あの時言った聖にあって俺にないもの。何か分かったぞ。


「俺に足りなかったのは誰かを護る心だろ、なぁグラム」


 マゾックを倒すイメージ、ここから出るイメージ。色々なイメージを広げていくうちに、グラムはますます存在感を主張してくる。

 そして、俺の脳裏に直接焼きつくように声が響く。


『グラッツェ! 君が気付いてくれたからようやく力を解放出来るよ! ほら、早く変身して! 戦おう!』

「ああ、頼むぜ。グラム」


 あの時、聖もこんな感じだったんだろうか。変な気持ちだ、剣と話すのは。


「変身! さぁ、悪を蹴散らすぞ!」

「カプ!? お前も変身できるカプ!?」


 伝わる、グラムの闘志が。感じる、新しい力を。

 いつもより体が段違いに軽い、いつもより剣が異常に軽い。抵抗するマゾックの攻撃の軌道も驚くほど単調に見える。


「異空間の主もこんなもんか」

「カ……カプゥ……!!」


 深く下に潜り込むようにしゃがみ、一気に剣を上に突き上げる。頭部のカプセルを壊すように伸ばされた剣は、煮えたじゃがいもに串を刺すようにスムーズに突き刺さる。


「お邪魔しました」


 突き刺さったグラムの平面部分で押し上げるように、全力で振り切りカプセルを破壊する。


「くそ……やられた……カプ!」


 大胆に爆裂したマゾックはそう言い残して、薄暗い異空間はジワジワと明かりを差し込ませ消えていく。と同時に、派手な爆発に巻き込まれて深傷を負ってしまう。

 これ演出とかじゃなくてまじで爆発してんのかよ。近くに倒れる桃谷に怪我はないようだが、防風とカブセルの残骸から庇った俺の背中はヒリヒリと疼いている。


「これ変身できてなかったら即死レベルだろ……」


 変身は解除されたものの、この全身スーツがなかったら今頃どうなってたことか……。


「桃谷……意識あるか?」

「なんとか……ありますわ……」

「そうか、この異空間から出たら多分俺たちみたいに変身できるやつが戦ってると思うけど、俺のことは内密にしてくれるか? 知り合いなんだ」


 不思議そうに俺を見ていたものの、次第にニマっと笑った。


「王子様とワタクシ、二人だけの秘密ですわね!」

「……うん、まぁそんな感じだ」


 めんどくさいし、傷が痛いのでそのままスルーし、俺は言葉を続けて行動を指示する。


「俺が異空間から出てきたらあいつら俺に事情聞くと思うから、桃谷に助けられたって言っていいか?」

「真実とは異なりますがいいですわよ」

「助かる」


 助けられたのは事実だし、何も異なってはいないんだが、桃谷は俺の指示に納得してくれたようだ。

 そして根回しが済んだ頃、異空間から解放される。


「――リアムくん!?」

「おー、りぃちゃぁん。サプライズゲストォ?」

「リアムっち! 大丈夫か!? 怪我してるじゃん!」


 今にも変身してカプセルマゾック本体を倒そうとしている三人だが、俺を視認するや否や武器を隠して俺に集まってくる。マゾックを放置するなよ。まさか放置されるとは思ってなかったんだろう。困惑してるぞそいつ。


「買い物しにきたら変なやつに襲われた。居合わせた変身できるこの人に助けられた。帰る。お前らも怪我しないうちに逃げろよ」


 心なしか早口になってしまった気がするが、伝えたいことは伝えた。あとはもう聖たちの前から去るだけだ。


「う、うん。怖いから私も早く逃げないと……あはは」


 どんだけ嘘が下手なんだよ。というか聖だけじゃなく、ジンもグエンも武器が隠せてると思ってんのか? まぁあえてツッコミもしないが。


「桃谷、これ連絡先な。聞きたいこともあるし、気が向いたら連絡してくれ」


 一刻も早く去りたかったが、桃谷に自分の連絡先を渡してから去ることにした。


「感謝しますわ! 必ず連絡します!」

「リアムくんがナンパしてる……」


 不本意な言葉を背に、俺は帰ることにした。これ以上桃谷と言葉を交わせば変な勘違いされそうだしな。

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