10撃 変な怪物と戦ってたからってことでオーケー?

『クラッ! クラッ! クラッ! 弾けろ! 割れろ! デリシャスクラッカー!!』

『やめなさい! クラッカーは食べ物! 人を傷つける道具じゃない!』

『妙な剣を持った女! お前もクラッカーに変えて粉々にしてやるッカー!』


 指先から妙なビームを放つクラッカーのマゾック。

 聖は避けるが、背後のビルはサクッとしたクラッカーに化ける。


「これ……当たってたらあいつもクラッカーになってたのか……?」

「多分そうだと思うよ」

「どんな原理だよ……」


 謎原理でクラッカーに化けたビルは、マゾックのパンチによって軽快に粉砕されてしまう。


『もう絶対許さない!! 変身!』

『クラッ!?』

『そのクラッカー頭、サクッと割ったげる! さぁ、正義を燃やそう!』


 サラッと残酷なことを言った後、前回も言った決め台詞を放つ。そして、大きく振りかぶって宣言通り頭を狙う。


『――ッ!?』

『クラッ! クラッ! クラッ! 吾輩のクラッカーヘッドは割と硬いッカー!』

『最っ悪! 手が痺れる』


 剣を地面に突き刺し、手をブルブルと振り続けて痺れを誤魔化そうとしている聖。だがそんな聖には、クラッカーが飛ばされていた。


『わっ! よそ見してた!』


 地面に突き刺した剣を取ろうとしたが、ギリギリ間に合わない。


「何してんだあいつ……! 俺も行けばよかった」

「リアムちゃんがお友達の心配してる〜!」

「あぁ坊ちゃん……!」


 避けきれないほど、顔の近くにくるクラッカー。


『まじやば――』

『――ショット!』

『えっ!?』


 攻撃をくらうと誰もが確信した時、そのクラッカーは一筋の光の矢によって粉々にされる。


「何事だ?」


 光の矢が飛んできた方角にある監視カメラに移し替えて、誰が何をしたのか確認する。そこには、真剣な目つきのあいつがいた。


『まさか聖っちもそれ、持ってたとはね。形違うけど。でも変身できるとか俺っち聞いてないんだけど!?』

『え!? グエン!?』

『傷だらけだったのは、昨日も変な怪物と戦ってたからってことでオーケー?』

『まぁ……そうだけど』


 グエン。あいつ、どうして武器持ってるんだ?


「リアムちゃんに絡んでた先輩くんじゃん」

「あれもアヴァンチェンジャーか?」

「ええ、ご認識の通りです」


 グエンが持つ大きめの弓。あれは俺たちが持つものとはジャンルが違い剣ではない。だがアヴァンチェンジャー。いまいちアヴァンチェンジャーの定義が分からない。


『聖っち、援護するからバシッと決めちゃって』

『よろしく!』


 グエンが放つ矢は三本。

 その三本に気を取られるマゾックは、忍び寄る聖の存在に気付かない。そのまま、容赦なく聖は斬撃を胸部に繰り出す。


『クラ……カァ……!』

『うぃん!』


 消えゆくマゾックに背を向け、ピースサインをする聖。


『ヒュー! カックイイ!』

『揶揄わないでよ』


 変身を解除する聖に向けて、グエンは揶揄うように言う。

 そんなグエンは変身をしていない。と言うことは、あれはアヴァンチェンジャーではないのか。ならなぜ武器を持ってマゾックに挑んだ?


「あの先輩くんは変身しないんだね」

「出来ない、が正解じゃないか?」


 理由は分からないが、武器を持ってマゾックに挑むやつが変身しない理由なんて、出来ない一択じゃないだろうか。

 変身できるなら、変身して戦った方が確実に勝率が上がる。よって変身しないのではなく出来ないという選択肢に至る。


「まぁどっちにしても、リアムちゃんの需要がまた減ったね。ドンマイ!」

「クソ姉貴……」


 楽しげに俺を揶揄う姉貴をよそに、スチュアートは深刻な顔を見せる。


「坊っちゃん、この頻度でマゾックが出ては、いずれレアルタでもカイブツが周知されるでしょう」

「何かまずいのか?」

「ええ。レアルタは、ファンシルと違い技術が進歩しております。なので、レアルタ政府は最新技術で対処しようとするでしょう」


 最新技術で対処するのであれば、問題ないんじゃないか? 俺たちが武器を持って戦うより、早く片付く気がする。


「政府が動き出せば、抽象的な情報で市民を困惑させ、レアルタでは混沌な状況になるでしょう」

「人を護る行為のために、人を犠牲にする。本末転倒な政策。レアルタ政府はやりかねないね。リアムちゃん、レアルタの政治状況ややり口を勉強すべきだよ」

「そういうのは俺はいいよ。姉貴とスチュアートが詳しいから問題ない」

「坊ちゃん、そのお考えは旦那様が悲しみます。あの人は、常に知識を追い求める方でした」


 思い出すように天井を見つめるスチュアートは、諭すように言葉を続ける。


「どんな知識でも、役に立つ場面が訪れるでしょう。向上心をお忘れなきよう」

「……ああ、分かった。スチュアートの言う通りだ」


 俺はどうやらスチュアートの意見に逆らうことは無意識的に出来ないようだ。姉貴に言われただけなら絶対に意見を聞き入れなかった。これはきっと、スチュアートの怖さを知ってるからだろうな。


「でもさ、周知されることに関して対策って出来るわけ? マゾックがレアルタに頻繁に現れるとマズイってのは分かったけど、これに関してはマオウ軍しか制御できなくない?」

「そんなことはありません」

「なにか考えがあるのか?」


 真剣な顔のスチュアートをよそに、もう話題に飽きたのか姉貴は食事に集中していた。


「坊ちゃんがファンシルに存在するであろうマオウ軍の本拠地を潰せばよいのです。危険度は高いですが」

「そうか、進行が進む前に元凶を潰せばいいってことか」

「ええ。レアルタでマゾックを倒す彼女たちは、マゾックのことすら詳しく知らないはず。ファンシルにマオウ軍を潰しに来ることはないでしょう」


 聖やグエンがファンシルにまでマゾックを退治しにくることは限りなくないと言い切れる。いくら聖が主人公でも、まだマゾックが出始めた序盤では全てを知りきれていないはずだしな。

 物語を改変してしまう気がするが、聖たちが全戦力を整えてマオウ軍に乗り込む前に俺が討伐するとしようか。やることないしな。


「よし、俺が潰すか。あいつらの仕事奪ってやる」

「リアムちゃんが悪い顔してる、お姉ちゃんも手伝うよ」


 直近の目標がファンシルでのカイブツ退治となり、今までとあまり変わりのないことに気付くが、俺はこれでいいのかもしれない。最終目標にマオウ軍の壊滅を掲げることが出来たし、退屈はしなさそうだ。

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