8撃 授業に集中しなよー

「はーいお静かに。二人はこのあと校舎案内があるから荷物置いたら廊下出てね」

「授業とか受けなくていいの?」

「ええやんリアム。初日から授業なんてかったるいし、未知の場所を探検しよや」


 校舎を見て回るのは賛成だが、こいつとセットなのが気に食わない。席も隣だし、このままだと本当にハッピーセットにされてしまう。


「ハッピーセットだけにはなりたくない……」

「ニコイチで学園生活たのしもな」


 転校したい。


   

 ***


   

「君たちが新しく学院に来た二人だね? リアムくんに東くん」


 廊下で二人。指示されるがままに立ち尽くしていると、赤毛の女があざとく首を傾げながら俺たちの顔を覗き込んでくる。


「……あんたは」


 頬には絆創膏、腕には包帯。ところどころ見える肌は微かに赤みを帯びていて、火傷しているようだった。


「私は生徒会、会長の岸田聖。学年は二年だから君たちの一つ上の学年です」


 岸田聖と名乗る女は、左腕に生徒会と書かれた腕章を付けている。


「――お姉様、お怪我ですか? 大丈夫ですか?」


 キリッと表情筋を活動させる晴人は、片膝をついて岸田聖の手を取る。


「う、うん……。大丈夫だよ、怪我で言ったらリアムくんもだよね」

「俺は平気だ。あんたよりひどくない」


 俺の右手に視線を落とす岸田聖。こいつは、昨日マゾックに挑み、剣と会話していた女子高生じゃないか?


「そ、よかった。校舎内を案内するんだけど、大してみるところないから期待しないでね」

「お姉様と楽しく過ごせる。それだけで天国です」

「あはは……」


 ウキウキと笑みを浮かべて歩く晴人は、引き気味で苦笑いを浮かべる岸田聖の隣を歩く。

 そしてそのまま約一時間、退屈な学校案内はまだ続いている。


 大して見るところないんじゃないのかよ。。


「ここが武道場。剣技を磨くための場所だよ」

「えらいごっついとこっすね」

「この学院は精神と技術を磨くための学院だからね。常に決闘ができるようになってるよ。やってみる?」

「また今度にしときます」


 怖気付いたなこいつ。


「聖っちと戦うのはやめといた方がいいぜ? 一年坊主ども」

「「誰?」」

「……最近の一年ってこんな生意気なの?」


 俺たちに話しかけてきたのは、金髪をオールバックにしたチャラチャラとした男。

 制服も着崩し、アクセサリーでジャラジャラと自分をよく見せようとしている。


「グエンも入学当初からそんなんだったでしょ」

「いや絶対盛ってるっしょ」

「盛ってないよ、事実だって」


 俺と晴人を置いて二人戯れ合う。


「なんやねんあのチャラい男。俺たちの聖お姉様を独占しやがって……ムカつくよな!? リアム」

「別に」

「なんっでやねん! だっていかにもって感じのチャラついたイケメンやで……って、リアムもそっち側やんけ! 正統派イケメンにこの三枚目イケメンの気持ちは分からんわ!」

「情緒不安定か?」


 ギャーギャーと騒ぐ晴人に気付いたのか、チャラついた金髪は聖との会話を切り上げて俺たちに照準を合わせた。


「グエン・ナカバヤシだ、よろしく。お前、ファンシル出身らしいじゃん? 半分だけど俺っちにもファンシルの血が流れてるんだよね。親近感すごいっしょ」

「勝手に共通点見つけて親近感湧かないで」

「うわこいつほんと生意気じゃん、いつか敬えよ」


 その機会は一度も来ないだろうな。


「あそうだ生意気坊主っち、名前は?」

「サリバン・リアム」

「サリバン? あの大豪邸のところ?」

「敷地はファンシル内で一番大きいって言われてるな」


 それを聞いたグエンは、そうかぁ。となにか頷くように自分に言い聞かせている。


「お前とは縁がありそうだよリアムっち。どうだこれから親睦会しちゃう?」

「断る」

「可愛い子いっぱい誘ってやるぞ?」


 ガシッと俺の肩をホールドするグエンは、ニヤッと笑う。

 そして、その言葉に一番反応したやつがグイッと距離を寄せてくる。


「先輩俺も連れてって欲しいです!」

「却下」


 目を合わせることも無く、晴人の懇願は見事に打ち砕かれた。


「はいそこまで、グエンまた女の子から苦情来てたんだからね?」


 俺をグエンから引き剥がし護るように背に隠す岸田聖は、グエンに注意する。どうやらグエンは生徒会に苦情を入れられるほどには問題児らしい。


「あー、どうせ拗らせた地雷ちゃんっしょ? ほっといていいよ。俺はただ可愛い子とデートしたいだけなのに、すぐ本気にしちゃうんだから困ったもんだよね」

「相変わらずのクズ」

「聖っちそろそろデートしてくれてもいいのに、全然してくれないよな」

「タイプじゃない」


 クズと軽蔑されているにも関わらず、デートに誘うのは敬うべき楽観的思考かもしれない。決して敬うことはないが。


「なぁリアム。あんなクズがモテるこの世の中っておかしいと思うねん」

「それがこの世の真理だ、受け入れるしかない」

「お、僻み? 非モテの嫉妬は見苦しいっしょ」

「おうコラ喧嘩売っとんか? 先輩だろうが関係あらへんぶっ飛ばしたるわ、歯ぁ食いしばれ!」


 感情のままにグエンに掴みかかろうとする晴人を、一応首根っこを掴んで引き留める。

 一緒にいたのに止めれなかった。なんて理由で、理不尽に説教される可能性もあるからな。


「俺っちに決闘を挑むか?」

「よっしゃやったるわ! 泣かしたる!」


 ……正式に取り決められたルールで戦うなら、まぁいいか。

 揚々と武道場に駆け込んでいく二人を、俺と岸田聖は見ていることしかできない。と言うよりは、ついて行くのがバカバカしかっただけだが。


「岸田聖、もう案内は終わりでいいか? 帰りたい」

「聖先輩でいいよ?」

「そうか。聖、帰っていいか?」

「先輩とは呼ばないんだね……まぁいいや。帰っちゃダメだよ、まだお昼だし。あと二限残ってるからね」


 そういえば周りはまだ授業中か。

 なんで俺も晴人も聖も、授業のサボりが公認されてるんだろう。グエンに至ってはなぜサボっているのかが分からないな、不良か?


「リアムくん、ご飯行かない? 学食でおすすめのメニューがあるんだよね」

「飯には少し早くないか?」

「混む前にご飯食べるのも一つの手だよ」


 休日のショッピングモールでのフードコートみたいな考え方してるな。


「さ、行くよ」

「拒否権はなさそうだな」

「ないよ」


 断言しながら俺の手を引く聖は、授業中の教室をピョコピョコと覗きつつ廊下を歩いて行く。


「あ、会長だ」

「授業に集中しなよー」


 そもそも授業を受けていない生徒が言うんだから、おかしなものだ。

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