6撃 無いのは胸か……?

 ***


   

「左様でございますか……変身する女子高生。ついに現れたのですね」

「ついに?」


 火傷した箇所を氷嚢で冷やしながら俺は、スチュアートと姉貴を交えて今日の出来事について話している。自宅のリビングを円卓にしているのは雰囲気が出るからと、厨二病気味の黒魔法師のこだわりだ。会議する際は部屋も若干暗くされて、雰囲気を作られる。姉貴はとことんこだわるタイプだ。


「ええ、あの姿は、特定の武器を最大限に活かし、資格を持つもののみがなれる姿でございます。旦那様も奥様もあの姿で数々のマゾックを退治されておりました」

「俺は……どうして」


 俺の両親が変身できた。なのになぜ息子の俺は出来ない? 主人公じゃないからか? 俺は所詮赤が活躍するこの世界の引き立て役か?


「リアムちゃん……」


 そっと俺の肩に手を置く姉貴は、優しい言葉を俺にくれようとしている。


「ドンマイ」

「クソ姉貴……」


 違った、この状況を楽しんでやがる。


「坊ちゃん落ち着いて。坊ちゃんはまだその時じゃないだけでございます」

「トドメ刺すじゃん」

「リアムちゃん、ドンマイ!」


 時が来ていない。そう言うスチュアートは、「アヴァンチェンジャー」そう呟いた。


「なんだそれ」

「坊ちゃんが持つ武器と、あの女性が持つ武器でございます」

「違うぞ?」


 俺が持つのは魔剣グラム。そしてあの赤が持つ剣はエクスカリバーと呼ばれていた。断じてアヴァンチェンジャーなるものでは無い。


「それぞれ武器に名はあります。ですが、特別な力を持つ武器を総じてアヴァンチェンジャー。そう呼ぶのです」

「はっ……! つまりこれも……!?」


 姉貴は、何かに気付いたように顔を上げると、机の上に置かれた水晶をスチュアートに近付ける。


「申し訳ありません、それは断言できません」

「無視でいいだろスチュアート」

「あーん、リアムちゃん冷たーい! せっかく落ち気味の弟を慰めようとふざけたのにぃ!」


 ふざけた? 割とマジなテンションだったろ姉貴。

 まぁそんなことはどうでもいい。なぜそのアヴァンチェンジャーを持ってして、俺は変身できない。


「坊ちゃん、なぜ変身できないのか。とでも言いたげですね」

「そりゃそうだ。だって俺強いのに、資格を持ってないってことだろ? なんかムカつくじゃん」

「坊ちゃんに無くて、あの女性にあるものを理解してください。さすれば自ずと可能性はひらけるでしょう」


 俺に無くて、あいつにあるもの。


「……胸か」

「あはは、リアムちゃんおバカだ」

「坊ちゃん……」


 呆れるように肩を落とすスチュアートは、一枚の紙を机に置く。


「やはり坊ちゃんは一度、あの女性と関わる必要がありそうですね」

「編入届?」

「ええ。坊ちゃんには彼女が通う、トレジャー学院へ行っていただきます」


 紙袋も机に出すスチュアートは、続いて教科書も積み上げる。紙袋の中身は、どうやら学院の制服らしい。

 その横に木製の剣と、それを携帯するための剣ベルトが置かれている。俺学校に行くんだよな? 戦争じゃないよな?


「トレジャー学院は、旦那様や奥様が通われた、歴史ある学院です。坊ちゃんは生まれつき頭が良かったため学院は必要ないと思っていましたが……人との関わりも必要でしょう。自分の判断ミスです……申し訳ございません」


 確かに俺は賢かった。と言っても、前世での基礎知識がそのまま応用できたからだ。五歳で二次関数を解ければ神童扱いだ。だが、今学校に行けば並以下の成績の自信がある。


「お姉ちゃんと一緒に引きこもりしとこうよ〜」

「姉貴こそ人と関わるべきじゃない?」

「ローズ様はもう救いようがありませんので」

「酷くない!?」


 姉貴、スチュアートにも見放されたか……。

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