第199話 告白


 「………そうですね…。この際だしこのまま流れで言っちゃいます」


 「なんか投げやりになってないかい?」


 「いえ、どの道今日言おうと思ってたんで。予定とは全然違いましたけど、早いか遅いかの違いです」


 「へ、変に覚悟が決まっちゃってるね…。流石の私も恥ずかしいんだけれど…」


 場所は自販機前のちょっとした休憩スペースにあるベンチ。ムードもへったくれもない場所だけど、このままさっきのぽろっと出た失言を無しにして、デートを続行出来るテンションじゃない。


 なら、もうここで言ってしまった方が良いだろうと判断。


 完全に自分本位で申し訳ないけど…。


 「美咲さん」


 「う、うん」


 俺は椅子から立ち上がって美咲さんの前に立つ。恥ずかしそうに苦笑いしてる美咲がとても美しい。


 じゃなくて。

 また見惚れて馬鹿な事を口走りそうになったから、気を引き締めまして。


 柄にもなく滅茶苦茶緊張してる。

 正直世界タイトル戦なんて比じゃないぐらいの緊張度。手なんて震えまくってるし。


 だからだろう。

 俺はこの時、いつの間にか周りから注目を集めてる事に全然気付かなかった。


 サインを求めてきた人達には俺の事が知られてるし、女性を連れてる事も知られてる。そこそこの有名人が近くでデートしてたら気になるだろうし、俺達の事をずっと見てても不思議じゃない。


 そんな皇拳聖が急に真剣な顔をして立ち上がって女性を見つめているのだ。俺はデカくて目立つし、俺の事を知らない人でも気になって見てしまうのは仕方ないだろう。


 「好きです。付き合って下さい」


 告白のセリフはこれと決めていた。色々言うよりシンプルイズベスト。ロマンチックなセリフを考えてようが、キザなセリフを考えてようが、俺はどうせ告白直前にセリフが飛ぶと思ってたからな。


 セリフが飛んでグダグダになるよりは、シンプルに気持ちを伝えた方が良い。


 騒がしかったVRアクテビティセンターが、急に静かになったような錯覚。美咲さんからの返答までの時間が永遠のように感じる。


 手汗がヤバいぐらい出てるのも分かる。


 「うん。これからもよろしく頼むよ」


 「…ったっはぁー…」


 美咲さんからの返事と共に情けない声が出て、ヘナヘナとベンチに座り込む。


 「滅茶苦茶緊張しましたよ…。多分これを超える緊張は今後ないくらいには」


 「あははは。普段とは全然違う真剣な顔をした拳聖君もかっこよかったよ」


 「え? そうですか? あはは…」


 「でも、一旦ここを離れようか。周りの人達が好奇な目でこっちを見てるし、私も恥ずかしいからね…」


 「周り?」


 そこで俺はようやく気が付いた。


 周りの人達が生暖かい目でこっちを見てたり、砂糖を大量に食べたみたいな顔をしてこっちを見てるのを。


 「え? ずっと見られてたんですか?」


 「最初から最後まで余す事なくね。ボクサーとして視野が狭いのは問題だよ。今後の課題だね」


 俺は美咲さんを見て、周りを見渡して、もう一回美咲さんを見る。


 「で、出ましょう。ちょっと早いですけど、晩御飯も予約してあるんで」


 「それが懸命だね」


 俺は顔を真っ赤にして、美咲の手を握って、周りの人達にぺこぺこと頭を下げながらその場を後にした。


 その日からしばらく皇拳聖がネットのオモチャになったのは言うまでもない。

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