第198話 ミス


 「ふふっ。拳聖君は人気者だね」


 「ええ。ありがたい限りです」


 カフェでコーヒーとチーズケーキを食べて、次に向かったのは、VRでなんか色々遊べる場所だ。


 最近近くで出来てかなりの人気で入場券を買うには絶対に予約が必要なくらいには人気な場所。


 まあ、神宮寺系列の会社と別の会社が共同でやってるところだから、俺は伯父さんにお願いして入場券を確保してもらった訳だが。


 コネさいこー。


 で、ここは美咲さんが一度行ってみたいって言ってた場所らしい。龍騎に教えてもらった。龍騎の有能さがとどまるところを知らない。


 楽しむ云々ってかは、最新の機器とかに興味があったみたいだけど、いざやってみると、俺以上に楽しんでる気がする。


 こんな事を言ったら失礼だけど、美咲さんは運動音痴だと思ってた。筋肉の専門家とはいえ研究者っぽい感じだし、運動とは無縁かなと。全然そんな事無かったよね。普通に人並み以上に動けてる気がする。


 VRのチャンバラとか現実ではちょっと難しい事が気軽に楽しめるからか、どのアクティビティも面白い。


 で、俺はちょくちょく俺の事を知ってる人がいて、サインやら写真撮影を求められて、快く応じている。


 デートに支障が出るレベルで殺到されたら断るけど、流石の俺にそこまでの人は来ない。


 ボクシング人気が出たとはいえ、野球やサッカーの有名選手に比べると俺の知名度はまだまだだしね。


 「強面の男ばっかりなのが気になりますけどね」


 「おや? 可愛い女の子の方が良かったのかい? 私という女性とデートしてるのに、拳聖君は欲張りだねぇ」


 「あ、いや。そういう訳じゃないんです」


 不思議と俺にサインを求めてくる人は、強面な人ばっかりだった。ヤンキーみたいな感じだけど、良い人ばっかりで接しやすかったから、特に困るような事は無かった。


 これで『俺と試合しようぜーゼハハハハ』とか言われたら対応に苦慮したけど。


 ってな感じで別に可愛い子を所望してたとか、女の人が来なかった事を嘆いてる訳じゃないんです。なんかファン層が偏ってるなーと思っただけで…。


 ………ってか、やっぱりこの感じ、美咲さんって俺の好意に気付いてるよなぁ。まあ、俺からは結構好き好きアピールはしてるつもりである。


 でも、なんか返ってくる反応が淡白というか、なんというか…。さっきもそうだけど、仮にも男女二人が部屋に居て、俺が半裸なのに微塵もカップルオーラが出ないのはどうなんだろうか。


 まあ、俺の身体を検査してるだけって言ったらそれまでだし、はっきりと気持ちを伝えた事がないから、全面的に俺が空回りしてるだけなんだけど。


 やはりここは一度ガツンと告白して、関係をはっきりさせるべきではなかろうか。


 初デートで告白ってのもいかがなものかと思うけど、ネット知識では初デートでも、何回目のデートでも、結局その気があるなら早い方が良いって書いてあったし。


 これが初対面なら話は別だろうけどね。


 「ん? どうしたんだい?」


 俺がうんうんと考えてると、美咲さんが不思議そうな顔をして覗き込んできた。ちょっと吊り目で目付きが悪いのを本人は気にしてる風だけど、間近でみた美咲さんの顔はやっぱり美人さんである。


 「いや、どのタイミングで告白するべきかとタイミングをって…あ…」


 「おやおや? それは言って良かったのかな?」


 美咲さんの顔に見惚れてると、考えてた事をそのまま口走ってしまった。


 皇拳聖痛恨のミスである。

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