第197話 目立つ


 「どうだい? 私も中々捨てたもんじゃないだろう」


 「最高っす。いや、マジでモロタイプです」


 デートに出発する前に美咲が着替えて来てくれたんだけど。その格好がもうね。俺のど真ん中ストライク過ぎてびっくりよ。


 俺は可愛い系の感じよりカッコいい系のお姉さんが好きなんだけど、もうパーフェクト過ぎて。


 ピチッとしたスキニースタイルが大好きなんだ。スタイルが良くないと似合わないかもだけど、美咲さんは女性の中では背も高い方だし、かなり映えて見える。


 「その姿が見れただけでも今日デートに誘った甲斐がありますね」


 「ふふっ。弟から拳聖君の好みは聞いてたからね。喜んでもらえて良かったよ。いつもは適当な格好しかしてないけど、こういうのも新鮮で良いね」


 龍騎よ。俺はお前と友達で良かったと心の底から思ってるぞ。勉強面だけでなく、恋愛面でも力になってくれるとは…。感謝してもし足りないぜ。


 尚、俺はこの時、俺の性癖が全てバレてるという事は思い付いてなかった。


 「じゃあ行きましょうか」


 車に乗り込んでいざ出発。

 まず向かうのはオシャレなカフェだ。


 とりあえずカフェは間違いないって、ネットには書いてました。




 「なんだこれ、呪文か?」


 「凄いね。名前から商品が全く想像出来ないよ」


 って事で、カフェに到着。

 そして二人してメニューと睨めっこ。


 「キャラメルマキアート? キャラメルを巻いたアートって事?」


 「拳聖君、それは流石に私でも分かるよ。キャラメル味のカフェラテさ」


 「はー。滅茶苦茶甘そうっすね」


 俺と美咲さんは、出会った場所がコンビニのスイーツコーナーって事からも分かる通り、両方甘党である。


 まあ、俺は甘党ってか、シュークリームとエクレアが好きなだけだけど。ほかの甘いものは程々って感じ。美咲さんは研究で休憩したい時に甘いものを摂取すると頭が働くようになるからって理由で、甘ければ大体なんでも良いらしい。糖分を摂ると頭が働くって言うもんね。授業で習った気がする。


 そんな経緯でとりあえずカフェなら間違いないかと思ったんだけど、二人とも思った以上に甘いものに対しての知識がなかった。


 メニューが横文字呪文だらけで悪戦苦闘。

 美咲さんはアメリカに留学してたお陰で、ある程度分かるらしいけど、それでも分からないのがチラホラ。


 それでもお互い分かるものを注文して一息つく。


 「さっきからチラチラ見られるね」


 「美咲さんの美しさに惚れ惚れしてるんじゃないっすか?」


 「いや、多分拳聖君だと思うよ」


 「あー。俺デカいから目立ちますもんね」


 「いや、君はプロボクサーで世界チャンピオンだろう?」


 あ、そうだった。

 いつもは滅多にお出かけとかしないし、外に出ても見知った場所で、俺に気軽に話しかけてくる近所の人達ばっかりだから、すっかり忘れてた。


 俺ってそれなりに有名人だったんだ。


 「軽く変装でもしてくるべきでしたかね」


 「君の場合は背丈が大きいからね。変装しても目立つと思うよ」


 確かに。日本で190cmオーバーの身長の人間なんて滅多に見ないもんなぁ。どっちにしろ目立っちゃうか。


 「なんかすみません。居心地悪いっすよね」


 「気にする事はないさ。好奇の目で見られるのは、私もアメリカで慣れてるしね」


 ふーむ。こういう場合は想定してなかったな。ある程度はシミュレーションしてたのに。


 全く。頼むぜ、ネット民。

 有名人がデートした場合のマニュアルもちゃんと作っておいてくれないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る