第196話 帰国して


 「喉元過ぎるとなんとやらってやつですか」


 「まあ、マスコミやネットなんてそんなものさ」


 日本に帰って来て一週間が経った。

 祝勝会もいつもの桃山さんが働いてる居酒屋でやって、ワイワイと楽しくやらせてもらいました。


 で、俺とガンホ選手の試合は、もう熱が過ぎたのか全然取り上げられなくなって、今は芸能人のスキャンダルでわーきゃーと盛り上がってる。


 「ガンホ選手は永久追放だって?」


 「みたいですね。同情も何もないですけど」


 日本では俺の話題はもう終わってるけど、韓国ではまだまだホットな話題として取り上げられてる。


 昨日、ガンホの正式処分が決まった。

 ボクシング四団体からの永久追放らしい。


 この処分が物議を醸してるってんで、向こうはまだ話題になってるんだ。


 散々マスコミやらネットで叩いたくせに、永久追放って処分が降ると、次はこの処分はやり過ぎだーって勢力が急に湧いて出てきた。


 全然意味がわからん。

 昨日まで散々ガンホ選手を叩いてた局が、処分が出た次の日にはやり過ぎだって擁護してるんだぜ?


 マジで何がしたいんだ。


 「自国が自国の選手を叩くのは良いけど、もっと上からそういう処分されるのは我慢出来ないとか、そういう事だと思うよ」


 「はぁ…。意味分からないっすね。まあ、どうでも良いですけど」


 考えるだけ無駄か。

 世の中には考えても絶対に理解出来ない事があるからね。そういうのに時間を使うのはもったいない。


 もっと有意義な事に時間を使わないとね。


 「それでどうです?」


 「そうだね…。このまま自然にトレーニングしてウェイトを増やしても問題ないと思うよ。勿論逐一調べさせてもらうけどね」


 「分かりました」


 「それにしても不思議な身体をしてるねぇ…。普通にトレーニングしてるだけで、理想的な筋肉の付き方になるんだから。まるで身体が勝手に調整してるようだよ。普通はもっと無駄な箇所があるはずなんだけど」


 「目が怪しいっすよ。マッドになってます」


 「おっと失礼」


 身体中に付けられた器具を外しながら、美咲さんに注意する。今日は俺から思い切って美咲さんにデートしませんかって誘ったのだ。


 まず最初に来たのはここで、美咲さんの研究室みたいなところだけど。一軒家を買い取って、色々機材やらを置いて研究室にしてるらしい。スーパーウェルター級に階級を上げる予定って事で、筋肉の専門家である美咲さんに色々見てもらおうと思って。


 これがデートなのかって言われたら、全然違うけどね。勿論、この後にデートっぽい場所には行く予定だ。


 ………俺はパンツ一枚の姿で色々調べてもらってたんだけど、やらしい雰囲気には微塵もならなかった。前途多難である。


 「私も試合を観に行きたかったんだけどねぇ。どうしても外せない論文発表が学会であってねぇ」


 「仕事なら仕方ないっすよ」


 論文発表て。俺には一生縁が無さそうな事だな。


 「じゃ、気を取り直してデートに行きますか!」


 「私は異性とお出かけした経験が殆どないんだ。しっかりエスコートを頼むよ」


 「任せて下さい」


 ネットで調べ上げた知識が火を吹くぜ。

 頼むぞ、ネットの有志達。


 

 

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