第195話 試合後


 「すっげぇ事になってるな」


 試合の翌日。

 俺が現在泊まってるホテルの周りを黒服の強面お兄さん達が厳重警備している。俺の部屋の前にも警備してる人がいるし、なんか超有名人になった気分だ。


 この警備員さん達は、神宮寺グループの系列会社さんだ。試合中は会場で日本から来てくれた応援団を警備してくれてたけど、今は俺を守る為にガチガチに周辺を固めてくれている。


 ガンホ選手がヤケを起こして何をするか分からないってのと、韓国のガンホ選手ファンが何かしでかすかもしれないって事で伯父さんが手配してくれたらしい。


 「万が一に備えてって事よ」


 「酷評酷評酷評…。昨日まで韓国ボクシング界スターだったってのに、一夜でここまでこき下ろせるか。メディアや民意ってのは怖いねぇ…」


 母さんが韓国の情報を翻訳して教えてくれる。


 テレビでもネットでもこれでもかってぐらいガンホ選手は叩かれてる。まあ、韓国はボクシング人気がイマイチだから、テレビではスポーツコーナーみたいなので取り上げられてるだけだけど、ネットはもう酷い。


 「これが反転アンチってやつか。知らんけど」


 昨日まで散々ガンホ選手を持ち上げてたのに、試合が終わって一夜明けたらこれよ。


 尊厳破壊するような言動の数々。


 まあ、確かにあいつがやった事は許される事じゃないし、試合前に散々煽ってこれだからな。批判の意見があるのは分かるけども。


 「殺害予告とかはやりすぎじゃないですかねぇ」


 あの反則の批判とかならまだわかるんだけど、殺害予告とかは意味が分からんのだが。これまでも色んな反則はあっただろうに。


 今まで散々持て囃しておいて、反則も擁護しておいて負けたら手のひらを返してこうなるんだもんな。


 「まっ、それでも熱烈なファンが必死に擁護はしてるんだけど。それが怖いんだよね」


 そういうファンがこんな事態になったのは俺のせいだーって、馬鹿な事をやって来るかもしれない。


 それを警戒して伯父さんが警備を強化してくれたって訳だ。


 「さっさと韓国から出たいな」


 「観光なんて出来る余裕がないからなぁ」


 試合が終わったら韓国観光をする予定だったんだけど、とてもそんな雰囲気じゃない。


 警備の人にも迷惑をかけるし、さっさと退散した方が良いだろう。


 「ガンホ選手はどうなるんだろうね」


 自業自得でこれまで自分がやってきた事が跳ね返って来てるだけだから擁護は出来ないけど。ここからどんな転落人生を送るんだろうか。


 まあ、ボクシング界に戻って来る事は出来ないだろう。今回の事を協会がどう処分するのかは知らないけど、こんな騒ぎになってるんだし、生半可な処分じゃ誰も納得しなくなってる。


 戻って来れても誰も戦ってくれないだろうしね。追い詰めたらキックしてくるんだもん。


 「まっ、いっか。ガンホ選手の処分については続報を待とう」


 今回の試合も勉強になったな。

 仕留めれる時に仕留めないと、不完全燃焼な終わり方をする時もあるって。


 嬲り殺しなんて傲慢が過ぎた。

 リングに上がったら私情は捨てて確殺するようにしないと。こんな戦い方をしてたらいつか足元を掬われちゃうね。


 相手を壊したいなら一撃で壊せるぐらいの力を手に入れよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る