第191話 VSウェルター級ガンホ4


 『さあ、第5Rが終了して、ガンホ選手は二度のダウン。対する皇選手は未だにクリーンヒットを受けていないという対照的な試合展開になりました。試合序盤から皇選手のボディ攻撃の対応に苦慮するガンホ選手。一度はマウスピースを吐き出す程のボディをもらってダウンしましたが、長ーいカウントのお陰でどうにか立て直す事が出来ました。果たして中盤以降はどうなるのか』



 「あれはおかしいだろ。10カウントじゃないじゃん。20カウントぐらいあったろ。ニュートラルコーナーで思わず笑っちゃったよ」


 第5Rが終了した。4Rにボディでダウンを奪って、第5Rでもボディの二連打でダウンを奪った。


 正直終わらせるつもりで打った会心のボディダブル。ガンホ選手はマウスピースを吐き出して、リングの上でのたうち回り、これは勝ったなとガッツポーズしようとしたら、レフリーの異常に長いカウントコール。


 普通は『ワーン』ぐらいなのに『ワーーーーーーーーーーーン』ぐらいあったぞ。犬の遠吠えかつって。


 「やっぱり意識を飛ばすぐらいの事はしないとダメって事かな。ひたすらボディで長く苦しみを与えてやりたいところだったけど」


 「ここまで露骨だと本当に笑けてくるな。勝とうが負けようが、試合が終わった後に笑い者にされるだろうに」


 「そういう恥を持ち合わせてたら、反則をしようなんて思わないだろ」


 判定に持ち込む気はないし、俺のボディは文句の付けようがないくらいしっかりと腹部を捉えてるのに、何回かローブロー気味だよって注意されるしで、もう終わらせるかと思って打ったボディダブルだけど、やっぱりダメみたいだ。


 「ここまで面白くない試合も初めてだな」


 とことん甚振って嬲り殺しにしてやろうと思ってたけど、本当にガンホ選手は反則以外見るべきところがない面白くない選手なんだ。


 センスがあるのにただただ勿体無い。なんか長く続けてると弱い者いじめしてるみたいになってきて、嬲り殺しからシフトチェンジして、早めに終わらせようと思ったのに。


 あそこまで露骨に試合を長引かせてくるなら仕方ない。ボディだけで済ませようとしてあげたのは温情だったって思えるぐらい、顔面もボコボコにしてやる。


 顎を砕いてしばらくは流動食しか食べれないぐらいにはしてやろうかね。


 そんな事を思いながら第6Rへ。


 もう何が何でも判定に持ち込む気なのか、亀のようにガードを固めて、まともに手すら出してこなくなったガンホ選手。


 俺が手をクイクイやって挑発しようが、街を歩く感覚でテクテクとガンホ選手に無警戒に近付こうが、亀になって何もアクションを起こさない。


 マジでつまらん。観客はいつの間にか俺じゃなくて、ガンホ選手にブーイングしてるってのに、それでもお構いなしだ。


 この人、マジで試合が終わった後、どうするんだろうね。勝っても負けても、その後ボクシングを出来るとは思えないんだけど。


 それぐらい観客を敵に回してる。


 まあ、俺が心配する事じゃないか。

 どっちにしろ、お前は今日で引退だ。


 俺はそんな事を思いながら、ガードの上から身体を吹き飛ばすぐらいのパンチをお見舞いした。

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