第192話 VSウェルター級ガンホ5


 『皇選手パンチにガンホ選手がロープ際まで吹き飛ばされる!! ガードの上からでもこの威力!! 最早なす術なしか!? ガンホ選手はガードを固めるしかありません!! アウェイだと言うのに異例の拳聖コール! 会場は異様な雰囲気に包まれています!!』


 ガンホ選手をロープ際に追い詰めてパンチのラッシュ。観客が俺の名前でコールしてるのが聞こえてちょっと笑けてくる。


 手のひら返しが凄いな。俺が入場した時はブーイングだらけだったってのに。


 それはさておき。

 これまでのラウンドと同様にパンチでガードを無理矢理こじ開ける。一応何かの隠し玉を警戒しつつ、サンドバッグ状態のガンホ選手を滅多打ちにする。


 既にこれまでのラウンドでガード上からしこたまパンチを受けてるガンホ選手。顔もパンパンに腫れ上がって、アソパソマソみたいになってるし、パンチがちゃんと見えてるのかも怪しい。


 それでも油断出来ないのがガンホ選手。なんか狙ってるような目をしてる気がしないでもない。まあ、ほとんど目が見えないんですけどね。


 『皇選手のパンチのラッシュが止まらない!! パンチの暴風雨!! 代名詞となりつつある『歩く災害』をその身体で体現しています!! これは流石にレフリーが止めるか!? 様子を窺ってるようにも見えます!』


 ペシペシとパンチを打って機を窺う。俺が狙いを定めてる顎が中々空かない。意識を飛ばされたら流石にどうしようもないと理解してるのか、それとも本能的に守ってるだけなのか。


 このまま続くのは流石に疲れるし、仕方ないからテンプルで妥協しようかと思った時だった。ロープを背にしてるガンホ選手が、ロープに思いっ切り持たれかかったのだ。


 おっと。これは限界で立ってられなくなったかと、俺は一瞬パンチをやめて、レフリーをチラッと見る。


 レフリーも同じように思ったようで止めに入ろうとしていた。流石に買収されてようが、選手が限界を迎えてるならどうしようもない。


 ちょっと不完全燃焼な終わり方だなと、セコンドに戻ろうとしたその時。


 『ガンホ選手、限界か!? ロープに寄り掛かって動きません!! ここでレフリーも動いて試合しゅ--おーっとと!? 危ない!! 何をしているガンホ!?!?』


 ガンホ選手がロープに持たれかかった反動を利用して、物凄いスピードを付けてびっくりするぐらい綺麗なハイキックをかましてきたのだ。


 そう。ハイキック。キックである。


 俺の思考は綺麗なハイキックだなー、ボクシングじゃなくて、キックボクシングの方が向いてるんじゃねぇのーで占められた。


 が、身体は反射的に反応してくれて。


 ハイキックを紙一重で躱して、カウンターを打とうとしていた。


 そこでパンチがガンホ選手に当たる瞬間、レフリーがギリギリ割り込んで来て、俺のカウンターパンチは、レフリーの肩に当たった。


 悶絶するレフリー。

 ハイキックで体勢を崩して転がるガンホ選手。


 …………なんだこれ。

 マジで意味が分からん。

 何が起こったんだ?


 俺は?マークで頭がいっぱいになりながら、セコンドから飛び出して来て、今にもガンホ選手を殴り殺しそうな父さんを羽交い締めにして止める。


 これ、どうやって収めるんだろ。


 とりあえず俺の勝ちって事でいいの?

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