第188話 VSウェルター級ガンホ1
「近い近い近い近い」
ガンホ選手の入場パフォーマンスが終わり、レフリーに呼ばれてリング中央へ。お馴染みの注意事項なんかを言われるが、そんな事よりも。
ガンホ選手がチュウしちゃうんじゃないかってぐらい顔面を近付けてくる。思わずイヤイヤして顔を背けてしまった。
他のボクシングの試合でも、こういうのはよく見かけるけど、なんでこんなに顔を近付けてくるのかね? 威嚇してるつもりなのか? 純粋に気持ち悪いだけなんだが。
ライト級の日本チャンピオン戦でもこんな事があったような気がするな。あの時は気持ち悪かったし、臭かった。
腹が立つけど、ガンホ選手は良い匂いがしやがったぜ。
「フッ」
俺が顔を背けたのを見て、ガンホ選手が鼻で笑う。なんか向こうの判定的には勝ったらしい。
側から見たら中々滑稽だったと思うけどなぁ。俺とガンホ選手の身長差的に、背伸びしないと、あんなに顔は近付けられないはずなのだ。
一生懸命背伸びして顔を突き合わせてくるガンホ選手を想像するとね…。ちょっと微笑ましくなってきちゃったよ。
俺が生暖かい視線を送ると、ガンホ選手は顔を真っ赤にしてセコンドに帰って行った。
やっぱり煽り耐性は弱い模様。なんか可愛いらしい小学生ぐらいの子供に見えてきたぞ。
「気を抜くなよ」
「分かってる」
セコンドに戻って、父さんと最後の言葉を交わす。なんかいい感じに力が抜けてきたぜ。気負ってた部分がスッと消えてなくなった感じ。
まあ、それでも最初は飛ばしていくが。
『さあ。日本ボクシングファンが大注目の一戦。試合前から話題を振り撒いていた両者ですが、一体どういう試合展開になるんでしょうか!? いよいよゴングです!』
マウスピースを嵌めてぴょんぴょん跳ねる。うむ。ここに来て絶好調である。流石俺。
そしてゴングが鳴った。
一応礼儀としてグローブを前に出してよろしくのちょこんをやる素振りを見せるが、ガンホ選手は無視。
まあ、そうですよねーと思ってたら、俺のグローブを弾いてガンホ選手がパンチを打ってきた。
それも予想してましたよ。当たり前にそれぐらいはやるだろうって、逆に信頼してたくらいだ。
俺は打ってきたパンチをペシっとはたく。
うーん、やっぱり普通に良いパンチなんだよなぁ。勿体無い。反則なんて使わなくても、良いじゃんね。
パンチを弾かれたガンホ選手は距離を取って俺の様子を窺う。俺はいつも通り、ガード完全に下げてノーガード。
いつもならここで俺も相手を探るところだけど…。
少し体勢を低くして、一気にガンホ選手の懐に飛び込んだ。
『まずは皇選手が仕掛けたー!! インファイトを選択し、ガンホ選手の内側に潜り込む。ガンホ選手はこれにどう対応…あーっと、これは危ないっ!』
俺がガンホ選手の懐に入った瞬間、上から肘が飛んできた。まあ、やるだろうなとは思ってたから、これを普通に躱す。ガンホ選手的には、俺が中に入って来たから、ガードを下げたら偶々そこに俺が居たって事なんだろう。
いつもそうやって言い訳してるし。でも明らかに肘を入れようとしてやって来てる。映像でも思ったけど、実際にやられると間違いなくわざとやってる。
予め練習しておいて良かったぜ。
審判も特に注意してないし、やっぱりこういうのは見逃されると思っておいた方がいいな。
そんな事を思いながら、肘を避けるついでにボディに一発入れて、ガンホ選手の身体をくの字に曲げてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます