第184話 対面


 中々強烈なキャラだったトミーさんとしばらく雑談して、今日はお開きに。韓国に到着したばっかりだし、挨拶に来ただけだからね。


 明日から普通に練習はするけど、今日はこれから自由時間だ。


 「さっ、ホテルに帰りますか」


 まあ、自由時間と言っても特にやりたい事はない。普通は観光やらをするんだろうけど、知らない場所で出歩いて迷子になりたくないし。


 それに、ここは完全なアウェイである。ボクシング人気がそこまでの韓国での俺の知名度はそんなにないだろうが、万が一、ガンホガチ勢のファンと出会ったりしたら面倒だ。


 試合が終わるまでは大人しくさせてもらおう。





 そんなこんなで慌ただしい日々が続く。韓国到着翌日からジムに行って練習。言葉は全然分からないけど、ここのジムの人達は好意的に接してくれた。


 ジム練習の初日にミドル級の跳ねっ返りのボクサーをスパーリングでボコボコにしたのが良かったのかもしれん。


 今では一番舎弟みたいになってる。


 初めての海外で苦労するかと思ったけど、周りのサポートもあって、意外と快適に過ごせている。ちょっとしたマナーの食い違いなんてのはあったけど、それは微々たるもんだ。


 その中でも一番苦労したのはロードワーク。いつもは決まったルートを走ってそのタイムで身体の調子を確かめたりしてるんだけど、初めて来る場所でそんな事が出来る訳がない。


 ランニングマシンを使えば良いんだろうけど、俺はそういうので走るのはあんまり好きじゃないんだよね。特に理由はないけど。なんか好きになれない。


 まあ、そんな事があったりして、あっという間に前日計量の日。


 いよいよガンホ選手と顔合わせになる訳だ。


 「煽り合いになるのは良いけど、手は出すなよ。手を出したらお前も同類だ」


 「それはもう何回も聞いたよ」


 父さんが口酸っぱく何回も同じ事を言ってくる。耳にタコが出来るくらいには。父さんの時代にもそういうのがあって、時代的にはそれを面白がる風潮もあったりしたんだけどね。


 今は品がないとか色々言われるらしい。黙ってたら黙ってたで、ビビってるとか闘争心がないとか言われるけどね。一体どうせえっちゅうんじゃ。


 そんな事を思ってると、パシャパシャと大量のシャッター音が記者席の方から響いてくる。


 太々しい顔をしたガンホ選手がイカつい顔をした取り巻きをいっぱい連れてやってきた。


 俺の方をニヤニヤと笑いながら見てるのが癪に触るな。ボクシングの実力は俺の方が上だと自信を持って言えるけど、人を苛立たせる才能はガンホ選手の方が上かもしれん。


 「お前のいつもの笑顔もあんなんだぞ」


 「はぁ?」


 父さんが俺の心情を察したのか、変な事を言ってくる。どうやら試合前とかににっこりと笑ってるのがあれと同じらしい。


 酷い勘違いですよ、それは。俺は相手に友好的な意思を示す為に笑ってるんだ。あのムカつく野郎は人を苛立たせる為にやってる。


 月とすっぽんぐらいの差がありますよ。


 

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