第183話 トミー


 父さんから注意事項をしっかり聞いて、ホテルに到着する。ここのホテルは神宮寺の系列会社が運営してるらしく、日本人スタッフも多数在籍している。


 お値段は良い部屋はそこそこの値段がするようだけど、一般のお部屋は普通に安いから日本からの旅行客にも人気なホテルである。


 俺達はとあるフロアを丸々一つ貸し切ってるけど。伯父さんが色々手配してくれました。ありがたや。


 「よし。じゃあ次はジムに挨拶に行くぞ」


 「はーい」


 ホテルに荷物を置いて、ベッドでバインバインと一通り遊んだ後。これからお世話になるジムに向かう。


 旅行したらとりあえずベッドに寝転がってバインバインは絶対にしたいよね。


 



 「へーい! 拳士! 久々ー!」


 「ああ。短い間だが世話になる」


 ジムに到着するとアロハシャツを着たゴリマッチョの黒人陽キャがいた。あれ? ここ韓国だよね? ハワイじゃないよね? ってか、どこかで見た事あるような…。


 「紹介しよう。ここのジムのトレーナーをやってるトミーだ」


 「アダム・トミオカでーす!」


 「す、皇拳聖です。よろしくお願いします」


 「トミーは日系三世のアメリカ人でな。スーパーバンダム級の世界チャンピオンだった事もある」


 「チャンピオンになってすぐ拳士に負けたんだけどねー! あっはっはっは!」


 あーどこかで見たことあると思ったら、父さんの対戦相手だったんだ。確か判定までもつれ込んだ試合だったはず。


 その後に交流があったのは知らなかったが。見た感じ結構仲良さそうだし。


 「なんで韓国でトレーナーをやってるんですか?」


 「あーそれねー。深い深ーい事情があるんだよー」


 世界チャンピオンにまでなったら、その後も引く手数多だと思うんだけど。言ったら悪いけど、韓国はそこまでボクシング人気がある訳でもないし。


 「あ、いや。立ち入った話を聞いてすみません」


 どうやら深い事情があったみたいだ。トミーさんも深刻そうな顔をしてるし。


 「K-POPにどハマりしちゃってねぇ…。どうせなら現地に行っちゃおうかってなって! お金には困ってないけど、無職ってのは外聞が悪いし、ここでアドバイザーみたいな事をしてるんだよー!」


 「な、なるほど…」


 深い…? 深いか? まあ、趣味は人それぞれだし、トミーさんからしたら大きな決断だったのかもしれない。


 「それにしてもトミー。電話で話した時も思ったが、日本語がペラペラになってるな」


 「最近は日本のアイドルについても勉強しててね! いつの間にか喋れるようになってたよ!」


 すげぇな。素直に尊敬しちゃうぜ。日本語って日本人の俺でもややこしく思う時が多々あるのに。同じ言葉なのに、イントネーションが違うだけで、全然意味が違う事もあるしな。


 「まっ、とりあえず試合まではここのジムを自由に使って良いって、ここのオーナーから許可はもらってるからさ! 好きに使っちゃってよ! 手が空いてたらここのジムの子に指導なんてしてくれたら嬉しいな!」


 「オーナーはいないのか? 一応挨拶しておきたいんだか」


 「推しのアイドルのライブに行ってるよ。明日には帰ってくるけど」


 「そ、そうか」


 ふむ。ここはアイドル好きが集まるジムって事なのかな? こんな事ならそっちの方もしっかり勉強してくるべきだったぜ。


 かなり有名どころしか知らないんだよな。

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