第182話 注意点


 「初めての海外が韓国か。なんかちょっとしか飛行機に乗ってないし、海外に来たって実感が湧かないな」


 「まあ、近いからな」


 季節は十月。

 夏の恒例である地獄の合宿も乗り切り、高地トレーニングも1週間程行い、試合の3週間前に俺と父さん、後スタッフが十人ぐらいが韓国に降り立った。


 会長は試合直前に韓国入りするらしい。俺以外にも指導する人はいるしね。


 それにしてもビジネスクラスは素晴らしいな。修学旅行の時に飛行機に乗った時はエコノミークラスだったんだけど、俺は身長がでかいから窮屈で仕方なかった。


 ビジネスクラスでこれなら、ファーストクラスはどれだけ快適なんだろうか。いつか乗ってみよう。


 「空港で意外と歓迎されたのはびっくりしたなぁ」


 「まあ、みんながみんな敵じゃないってこった。日本だってK-POPの人気はあるだろ?」


 「K-POPと一緒にするのはなんか違う気はするけど、まあ言ってる事は分かる」


 韓国は本能レベルで日本の事を嫌ってるけど、それもみんながみんなそうって訳じゃない。普通に親日の人も居るし、俺のファンも少しは居るって事だろう。


 まあ、それでも試合当日は敵だらけだと思うが。ブーイングなんてされた経験がないから、実はちょっと楽しみだったりする。


 罵詈雑言とか言われても、韓国語は俺知らないし、むしろ声援だと思おうと思ってる。ガンホファンを煽り散らかしてやるのも面白いかも。


 「それで? こっからどうするの?」


 「とりあえずホテルだ。その後、試合までの3週間お世話になるジムに挨拶に行く」


 「ふむふむ」


 「後は自由行動だが、当然一人での行動はダメだ。どこに行くにしても通訳とスタッフ、警備の人と一緒に行ってもらう事になる」


 「それはこっちからお願いしたいね。むしろ、絶対俺から目を離さないようにしてほしい。言葉も通じない場所で迷子とかになったら、泣くかもしれん」


 簡単な挨拶ぐらいは覚えてきたけど、本当にそれだけだから。後はスマホの翻訳アプリで乗り切ろうと思ってる所存。まあ、通訳さんもいるけどさ。


 「後、どれだけ勧められても食べ物と飲み物には手を付けるな。韓国にいる間はスタッフが用意したもの以外は何か入れられてる可能性があると思え」


 「がってん」


 「まっ、減量真っ最中のお前が、自分から何かを食べるとは思わんが。どれだけ失礼だろうが、勧められても断るんだぞ。…とりあえず注意するのはこんなところか」


 何か入れられるのは大袈裟って思うかもしれないけど、過去に別のスポーツで色々あったみたいなんだよねぇ。


 下剤を入れられるのはまだ可愛いもので、ある時には禁止薬物を食べ物に混入させて、失格させるなんてのもあったらしい。


 これは韓国がーとか関係なく、海外で試合する場合はどこの国でも注意しないといけない事らしい。


 ボクシングでドーピング疑惑なんて掛けられたら、その後もずっとネガティブなイメージが付いて回るからね。


 どれだけ輝かしい記録を残そうが、『でもドーピングなんでしょ?』って言われる。これだけは絶対に注意しないといけない。


 「試合以外にも色々注意しないといけない事が多いなぁ」

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