第180話 対策
「へぶっ!」
「あ、大丈夫か?」
「うーん…」
黒木さんの頭突きが俺の顔に直撃。珍しくヘッドガードを装着してスパーリングをやってるものの、変な声が出てしまった。父さんはそれを見て渋い顔だ。
「黒木さん、反則上手ですね。第二のガンホになれるんじゃないですか?」
「不名誉。そんなあだ名が付いたらボクサー引退だわ」
今やってるのはガンホ選手の反則対策だ。マジでなんでもやってくる事を想定しておかないといけないからね。
それをスパーリング三銃士が手伝ってくれてるんだけど、黒木さんが特に上手い。もう何度変な声を出したか分からないほどだ。
「拳聖がここまで反則耐性がないとはな。今までクリーンな選手に当たってて良かったぞ。今やってるのはまだ序の口なんだから」
「身体が上手く反応しないんだよね。来るって分かってるのに、そんな事はしないだろって一瞬思っちゃう」
父さんが今までの映像を見返しながら言う。既にスパーリング相手を変えつつ一時間ぐらいやってるけど、大体の反則を食らってしまう。
「多分これぐらいじゃ向こうのレフリーは止めてくれないぞ。まだまだ故意じゃないって言い張れる範囲だ」
「むーん」
ボクシングがしたいよ。ボクシングが。
これもボクシングでのアウェイ戦の洗礼と言えばそれまでなんだろうけどさ。反則ギリギリと言うか、モロに反則なのに咎められないのはどうかと思いますよ。
「競技として成り立ってないよね」
「あの国はそういうところだ。とは言えお前が自分で売った喧嘩だ。今更泣き言は言わさんぞ」
「分かってる。けど、ちょっと頭を冷やしたい。走って落ち着いてくる」
俺から売った喧嘩だけど、俺がここまで反則に弱いとは自分でもびっくりだ。なんだかんだすぐに適応出来ると思ってた自分を殴ってやりたいね。
ちょっと一旦走って気持ちを落ち着けよう。
☆★☆★☆★
「拳聖、大丈夫ですかね?」
「今までなんでも器用にこなしてきたあいつが、珍しく躓いてるからな。自分でもどういう風に対処したら良いか分からないんだろう。とりあえずは様子見だ。自分で乗り越えられるなら良し。無理そうなら手助けする。久々にあいつに対してトレーナーらしい事が出来るかもしれんな」
拳聖が出て行ったジムで黒木と父である拳士が話をする。珍しくしょぼくれてる姿を見て、黒木は一応心配してるのだ。
「とは言え、この練習をお前達ばっかりに付き合わせるのは良くない。癖になったらやばいからな」
「そうっすね。ずっと続けてると咄嗟の場面で出しちゃうかもしれません」
「癖ってのは怖いからなぁ」
「その点、ガンホはもう癖になってますよね。試合映像見ましたけど、デビュー戦から反則使ってますし」
「意図しても使ってるがな。どうしてこうなるまで放っておいたんだが。反則を使わなくても良い選手だってのに。少なくともOPBFチャンピオンぐらいの実力はある。本人の気質か、トレーナーの方針か、お国柄か」
「全部じゃないっすかね」
「身も蓋もない事を言うんじゃないよ」
なんだかんだ拳聖は真っ直ぐ育ってくれて良かった。
拳士はガンホの映像を見てしみじみとそう思った。
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