第179話 決定
「ふんふんふふーん」
ガッションガッションと上機嫌でサンドバッグを叩く。最近ジムに入会した人に恐怖の視線を向けられるが気にならない。
「あんなの死んじゃうだろ…」
「冷静に考えてあのパンチを人間に打つってやべぇよな…」
「サンドバッグから聞こえてくるパンチ音が銃声にしか聞こえない」
なんかひどい事をコソコソと言われてる気がするが、それでも気にならない。褒め言葉だと思っておく。今の俺はそれぐらい上機嫌なのだ。
「おーおー。張り切っとるな。みんな引いとるで」
「あ、会長」
「ガンホとの試合が決まったからって飛ばしすぎちゃうか? まだ三ヶ月も先やぞ」
「ようやくですからね」
会長が杖をカツンカツンさせながら、やって来る。この前ぎっくり腰になって以来、怖くて杖を手放せなくなったらしい。
今までで感じた事のない痛みだったとか。もう二度とごめんだと、細心の注意を払って行動してらっしゃる。
漫画とかだとギャグ描写っぽく描かれてるけど、実際なってみるとマジでやばいんだろうな。俺も気を付けよう。
「せやけど初の海外戦が韓国か。滅茶苦茶アウェイやぞ」
「望むところですよ」
ガンホ選手との試合は決まったけど、場所は韓国になった。まあ、宣戦布告でどこでもやるって言ったから別に良いんだけど。
絶対妨害とかあるだろうなってある種の信頼があるよね。
「ホームでガンホ選手をボコボコにして会場をお通夜雰囲気に出来るのが今から楽しみで仕方ないです」
俺はそう言ってサンドバッグにダブルフック。銃声みたいな音と共にサンドバッグが縦揺れする。練習生から小さく悲鳴が聞こえた。パンチにビビってるようじゃ大成出来ないぞと、とりあえず悲鳴が聞こえた方向に向かって微笑んでおく。
更に悲鳴が聞こえた。解せぬ。
「ホテルやら練習場所、食事の手配はこっちに任せとけや。お前のスポンサー様も手貸してくれるみたいやしな」
「伯父さんですか」
この前我が家で晩飯を一緒に食べた時は聖歌をデロデロに甘やかして、お小遣いまで渡そうとして母さんに怒られてた姿からは想像出来ないけど、経済界では魔王とか恐れられてる人だからな。
馬鹿な俺には何をしたらそんなに恐れられるのか想像も出来ないけど、あの人が手を貸してくれるなら安心出来る。
「でもガンホとやるんやったら、絶対に必要な対策があるやろ」
「反則対策ですね」
「せや。場所もアウェイやし、レフリーのジャッジも信用出来ん。なんでもやってくる事を頭に入れとかなあかんで」
ローブローにバッティング、ラビットパンチ(後頭部へのパンチ)、サミング(グローブの親指部での目突き)、他にも色々やって来る。
これがまた上手いんだ。故意じゃないように見せるのが。まあ、やりすぎで流石に今はバレてるんだけど、審判の目を欺くのが本当に上手い。
マジシャンとかの方が成功したんじゃないかね。知らんけど。
どうせ俺との試合でもやってくるだろうし、これもしっかり対策しておかないとな。
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