第178話 色々


 「いえ、遠慮しておきます」


 「そうかい? 興味がない感じかな?」


 「そんな事はないです。ただガンホ戦が終わるまでは、ボクシングに集中したいんですよね。俺なりの一区切りになる試合と思ってますし」


 「分かったよ。じゃあこの話は断っておこう」


 お休み期間が終了して、練習が始まった。まだ強度の強い練習はやらないけど、暇な日々からようやくおさらばだ。


 で、ジムで気持ちよく汗を流して家に帰ると、伯父さんが家にいた。忙しい人だから会うのはかなり久々だ。電話ではちょくちょく話してるけどね。試合終わりのお祝いの連絡とか。


 伯父さんはたまたま時間が出来て近くにいたから寄ったって感じだった。


 そこでついでとばかりに言われたのは、TV出演の事だった。お笑い芸人がやってるスポーツ番組のゲストとか、普通にバラエティとか、後はCMとか。


 一応身内とは言え、俺のメインスポンサー様の提案だ。出来ればオッケーしたいところだけど、今はちょっと時期が悪い。


 ガンホ選手をボッコボコにするまではボクシングに集中したいのだ。それが終われば俺的にも一区切りついた感じになるし、TVとかそういう事を、ボクシングの妨げにならない程度ならやっても良い。


 俺がTVに出ても面白くないと思うが。当たり障りない事しか言わないし、バラエティとかに出ても馬鹿を晒すだけだろう。


 「まあ、あれだけ煽ったからねぇ。韓国のメディアも大盛り上がりだよ。主に拳聖君を叩いて、ガンホ選手にやってやれー的な感じでだけど」


 伯父さんが韓国メディアの映像を見せてくれる。何を言ってるか分からないけど。伯父さんは韓国語が理解出来るみたいで通訳してくれる。


 「『クソ生意気な日本人に鉄槌を』『これで奮い立たないならガンホは男じゃない』『二度とボクシングが出来ないようにしてやれ』まあ、言いたい放題だね」


 「狙い通りじゃないですか。韓国のメディアもこれだけ煽ってくれるなら、ガンホ選手も逃げれないでしょ」


 最初からこうしてれば良かった。あの国は煽ったらすぐに挑発に乗ってくれるんだから。ガンホがやりたくなくても世間がそれを許さない雰囲気になっていく。


 まあ、どこの国も自国の選手が馬鹿にされたり煽られたら、こういう反応になるよね。


 韓国って国はそれが顕著だなぁって思うし、逆に日本は大人しめかなって思う。あくまで個人的印象だし、それが良い事なのか悪い事なのか俺には分からないけど。


 「それで? ガンホ陣営の反応は?」


 「まあ、やっと交渉のテーブルにはついてくれた感じですね。今までは門前払いでしたから。後は白鳥さんに任せます」


 「そうかい。楽しみにしてるよ」


 伯父さんはそう言って立ち上がる。そろそろ帰るっぽい。


 「あら? 兄さんお帰りですか? 良かったら晩御飯をと思ってんだけれど」


 「悪いね。そこまで時間はないんだ」


 「聖歌もそろそろ帰ってきますよ。兄さんに会ったら喜ぶと思いますけど」


 伯父さんが帰ろうとするのを見て、母さんは引き止める。まあ、久々だしね。家族仲も悪くないし、積もる話もあるだろう。


 聖歌が帰ってくると聞いて、伯父さんはスマホを取り出してどこかに電話をかけた。


 「私だ。この後の予定は全部後ろに回してくれ。ちょっと外せない用事が出来てね。ああ、それで頼む」

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