第177話 恵まれた身体


 「拳聖君の身体はいつも見ても芸術的だねぇ。背中の膨らみ具合なんて、すっごく私好みだよ」


 「試合終わりで、もう結構食べてるんで、ちょっと弛んできてますけどね」


 「ちっちっちっ。分かってないなぁ。それが自然で良いんじゃないか。ムキムキに盛り上がった筋肉が見たいだけなら、ボディビルダーやフィジークの選手を見てるよ。この自然に鍛え上げらた筋肉、そして人間らしさが垣間見れる肉体こそが至高なのだよ」


 「はぁ…。まあ、好みは人それぞれですからね」


 

 俺の筋肉を見てうっとりしている美咲さん。


 この前の試合の事で色々話を聞かせて欲しいって言われて、お家にやって来た。俺の中では勝手にお家デートだと思ってる。


 美咲さんがこの前の試合でフィニッシュブローになった、アッパーを見て俺の身体の柔らかさに興味を持ったらしい。


 例え美咲さんが筋肉しか見てなくても、俺がデートと思えばデートなのだ。


 で、美咲さんと一緒に試合を振り返りながら、シーンは例のフィニッシュブローに。改めて映像を見ると、俺の身体がびっくりするぐらい捻れてる。


 この捻りがホセ選手の体を浮かせるほどの力を生み出したんだと思うけど。自分でも咄嗟にやったから、まさかここまで気持ち悪い映像になってるとは思わなかった。


 そして現在に至る。


 ちょっと柔軟して見せて欲しいって言われたから、いつもウォーミングアップとしてやってるのを見せたら、身体の柔らかさそっちのけで、筋肉に夢中になってる訳だ。


 「うーん。見れば見るほど拳聖君の身体は恵まれてるよねぇ。ここまで身体を動かすのに向いてる肉体なんて奇跡だよ。柔軟すぎる身体、筋肉が付きやすい体質、自分の身体を思い通りに動かす能力。ボクシングだけじゃなくて、大体のスポーツで天下を狙えたんじゃないかな」


 「それは自分でも思います」


 特典の相性が良すぎた。あの中間管理職の神様みたいな人がいる場所で、ガチャポンした時は『超回復』以外全然使えないと思ってたけど。『コーディネーション』とか服飾系の何かだと思ってたし。


 『柔軟な身体』もハズレだと思ってたけど、現代でスポーツをする分には最高すぎる。


 「ここまで可動域があるんだね。そりゃあんな無茶なパンチをしてもピンピンしてる訳だ。関節や筋肉を痛めてないか心配してたけど、杞憂だったね」


 ペタペタと身体の色んな部位を触る美咲さん。この人は警戒心とかないのだろうか? そんな不用心に男の身体を触りまくると、何か間違いが起こっちゃうかもしれませんよ?


 まあ、俺は? ジェントルマンであり、童貞なので? そんな事はしないし、する勇気もないんだが。


 「偏ってた筋肉もほぼ均一になってる。普通は短時間でここまで矯正出来るものじゃないんだけれど、これも才能と努力の賜物かな。でも意識し過ぎて、次は逆に偏るなんて事がないように注意するように」


 「分かりました」


 以前美咲さんに言われてた筋肉の偏り。なんか左利きの人特有の偏り方って言われてて、ピンと来なかったけど、あの後トレーニングメニューを少し変えた。


 今はほぼ均一になってるらしい。特に変えてからも、身体が動かしやすくなったとか、逆に動かし辛くなったとかはないけど、身体が大きくなるにつれて違和感は大きくなってたはずだ。


 事前に対処出来て良かった。

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